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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第2章:フェルゼン領のボロ家と、安眠の第一歩

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番外編 死神の馬車、沈黙の夜

「……今日こそ、我ら騎士団の命日かもしれん」


漆黒の馬車の外、冷たい雨に打たれながら、フェルゼン領の精鋭騎士たちは絶望に打ち震えていた。 馬車の中から漏れ出す殺気は、すでに物理的な圧力を超え、周囲の草木を枯らすほどの毒気を帯びている。主君であるアルベルト・フォン・ブラッドレイ公爵の不眠は、ついに限界を超えていた。


「おい、カイルからの報告にあった『癒やし手』の家はまだか! 閣下の指先が、さっきから長剣の柄を削り取らんばかりの力で震えておられるんだぞ!」


騎士の一人が悲鳴に近い声を上げる。彼らにとって、眠れないアルベルトは「歩く天災」だ。 だが、ようやく辿り着いたその場所は、不気味なほど静まり返った、森の奥のボロ家だった。


「……何だ、あの家は。魔力探知が一切通じない。まるで見えない壁に拒絶されているようだ」


アルベルトが馬車を降り、地響きのような足取りでその家へ向かう。 次の瞬間、ドォォォォン!! という破壊音と共に、公爵が扉を蹴破って中に突入した。


騎士たちは剣を抜き、最悪の事態――主君を狙う異国の刺客との死闘――を覚悟して身構える。 だが、十秒経っても、三十秒経っても、中からは剣戟の音も、魔法の爆発音も聞こえてこない。


「……どうした? 中で何が起きている……?」


静寂。ただ、雨音だけが響く。 そこへ、屋根の上から音もなく一人の男が降りてきた。隠密のカイルだ。


「カイル! 中はどうなっている!? 閣下はご無事か! 賊の正体は!」


詰め寄る騎士たちに対し、カイルは見たこともないような「呆然」とした表情で、自らの首筋をなぞりながら呟いた。


「……信じられん。閣下は今……『制圧』された」


「なっ……!? あの死神を、一瞬で制圧したというのか! 相手はどれほどの軍勢だ!?」


「……一人だ。紬という名の女が、閣下をベッドに引きずり込み、謎のアロマと肉体的な衝撃(指圧)で、閣下の意識を強引に奪った」


騎士たちの間に、戦慄が走った。 あの、一国の軍隊に匹敵する魔力を持つアルベルトを、正面からねじ伏せ、ベッドに沈める。 それは彼らの常識では、**「禁忌の暗黒魔法による精神支配」か「神の如き格闘術」**に他ならない。


「しかも……見てみろ。あの家から、閣下のあんなに凄まじかった殺気が、霧が晴れるように消えていく……」


確かに、ボロ家から漏れ出していた禍々しいオーラは消え、代わりに窓の隙間から、心を落ち着かせるような不思議なハーブの香りが漂ってきた。 かつて戦場で死線を潜り抜けてきた騎士たちが、その香りを吸い込んだ瞬間、不覚にも「……あ、なんか今すぐ横になりたい」と膝から崩れ落ちそうになる。


「恐ろしい……。これは、吸った者の戦意を根こそぎ奪う『忘却の毒煙』か……?」


「カイル、貴様、あの女を『癒やし手』だと報告したな! あれは特級の『調伏師』ではないか!」


騎士たちは、雨の中で夜通しボロ家を包囲し続けた。 だが、家の中から聞こえてくるのは、主君の安らかな――あまりにも安らかすぎて逆に不気味な――寝息と、時折聞こえる「……修正は、もう……いい……」という、謎の女の呪文のような寝言だけだった。


「……もしかしたら、我々は見てはいけないものを見ているのかもしれん」


夜明けの光が森を照らし始める頃、騎士たちは確信した。 あの家の中にいるのは、聖女でも刺客でもない。 公爵を、そして自分たちの常識を、根本から「眠らせて」しまう、未知の支配者なのだと。


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