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聖女の力は安眠のために。〜ブラック企業帰りの私は、現代知識で冷徹公爵を寝かしつけます〜  作者: サバ味噌饅頭
第2章:フェルゼン領のボロ家と、安眠の第一歩

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第四話 公爵、強制シャットダウン(物理)

「……詐欺師かどうかはともかく。あんた、今すぐその物騒なものを仕舞いなさい。刃物の手入れが行き届きすぎてて、光の反射を見てるだけで眼精疲労が加速するわ」


紬は喉元に突きつけられた、剃刀のように鋭い剣先を、人差し指の先でパッと退けた。コンマ数ミリでも指がずれれば指先が飛ぶような命知らずの行動に、アルベルトの眉が驚愕でピクリと動く。


「……死にたいのか? 貴様、私が誰か分かって――」


「死にそうなのはあんたの方よ! 何よその顔! 三年寝てないって噂で聞いたけど、これ三年どころじゃないわね。目の下のくまがもはや地割れみたいになってるじゃない。脳が沸騰してオーバーヒートしてるのよ。今すぐ寝ないと、明日には血管がブチ切れてポックリ逝くわよ!」


「黙れ。……不眠は呪いだ。あらゆる高位魔術、聖教会の祈祷、禁忌の薬……すべてを試したが効果はなかった。お前ごとき小娘の戯言で、この呪縛が――」


「はいはい、御託はいいから。客として来たなら、大人しくプロの施術を受けなさい。私の安眠を物理破壊で妨害した慰謝料、その体(健康)で払ってもらうわよ!」


紬は、あろうことか「氷の公爵」の逞しい腕をガシッと掴んだ。 本来なら、触れた瞬間に反射で投げ飛ばされてもおかしくない間合い。だが、紬の動きには一切の迷いも恐怖もなかった。あるのは、納期直前のトラブルを「強引にねじ伏せる」時の、あの冷徹なまでに事務的、かつ絶対的なエネルギーだ。


彼女は戸惑うアルベルトを、半ば引きずるような勢いで、自分が用意したばかりの『究極の安眠ベッド』へと連行した。 アルベルトは驚愕した。自分は戦場を支配する剣の達人だ。並の人間ならその気迫に当てられただけで失禁し、動けなくなるはずなのに、この小娘には一切の威圧が通用していない。それどころか、彼女が触れている部分から、氷を溶かすような得体の知れない「静かな熱」が流れ込み、硬直していた彼の筋肉を無理やり弛緩させていく。


「放せ! 汚らわしい、その手を――」


「寝ろっつってんでしょうが!! この、デカい赤ちゃん!!」


紬は抵抗しようとするアルベルトの背後に電光石火で回り込むと、彼の首の付け根、延髄付近にある急所――魔力循環がもっとも滞り、神経が過敏になっている節を、現代の整体技術に基づく一点突破の衝撃で捉えた。


「が、はっ……!?」


衝撃と共に、アルベルトの視界に火花が散る。 だが、その直後。 脳を内側からじりじりと焼き続けていた「不眠の呪い」――この世界のエリート特有の『魔力覚醒症候群』による魔力暴走が、まるで冷水を浴びせられたように、スッと、驚くほど静かに引いていった。強すぎる魔力が脳をオーバーヒートさせ、強制的に覚醒状態を維持してしまうこの不治の病も、紬から見れば「ただの極度な自律神経の乱れと慢性疲労」でしかない。固まっていた神経の結び目が、紬の解剖学に基づいた物理的な指圧によって強制的に解かれたのだ。


「あ……が……?」


「さあ、シャットダウンの時間よ」


紬は、意識の混濁に膝をつくアルベルトの巨躯を支え、自作の『特製アロマ枕』にその銀髪の頭を静かに沈めさせた。 鼻腔をくすぐるのは、心を深く、深く沈み込ませるサンダルウッドに似た森の香気。 そして、一級遮光カーテンが生み出す、一切の光を許さない究極の暗闇。


「いい? 抵抗しないで、脳を空っぽにするの。……はい、おやすみなさい、氷の死神様」


紬の柔らかい指が、彼のこめかみを優しく、一定のリズムと熱量で撫でる。 アルベルトの意識は、抵抗する間もなく、底なしの深い、深い安らぎの海へと真っ逆さまに沈没していった。


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