第9話 演劇の配役
体育が終わり、授業は国語だったので担任の原山先生の許可を得て演劇の配役を決めることになった。
ゆりと煌が軽い足取りで教壇に立ち、昨日累が書いた必要な配役と役の特徴をまとめたプリントを見ながら、黒板に書き写していく。
「――じゃあ、役を決めるよ!」
ゆりが両手を大きく叩いて前に注目させる。
しかし、話し声は静まることはなく――
「主人公って、累様が適任じゃない?」
「…ありゃあ、俺には無理だわ。」
「『冷静で口数が少ない氷のような目の中性的な黒がイメージのキャラ』ってそのままじゃんwww」
クラスが勝手にほざいて、笑う。その声は累にとってこの世のどんな残酷な言葉よりも胸に激しく突き刺さった。いくら痛くて嘆いてもそのナイフは止まることはない。
主人公の『白兎澪』はかっこよくてクールで、完全に累の生き写しだ。
(しょうがない。今回も同調圧力に…)
累が諦めて手をあげた。すると、もう1本腕が真っすぐ伸びた。綺羅だった。
「…これ結局全員参加だろ?なんなら俺、白兎澪をやりたい!」
綺羅の真っすぐで一点の曇りもない主張は教室中をどよめかせた。
しかし、煌は前髪をいじりながら、言葉を返す。
「綺羅ならさ、この『朝宮カルマ』が適任じゃね?」
(…いつの間に仲良くなったのか?)
累は煌の”綺羅”という呼び方に驚いたが、すぐに『朝宮カルマ』に意識を持って行った。
朝宮カルマは舞台の館で起こる事件で容疑者の一人となる。性格はチャラくて、「ここにいる奴全部とっ捕まえれば良くね?探偵さんよぉ。」というのが彼の名言だ。かなり最悪な性格で一番疑われる。
――そして、最後には黒幕だったことがわかる。
累は小説の緊張感を想起させて頬を赤く染めた。
(…あの”ああいう奴は早く死ぬんだよな”感を出してギリギリで死なず、冷や冷やさせる感じからの”実は黒幕でした”の展開、なかなかだったなぁ)
累が教壇に目をやると、ゆりは黒板の『白兎澪』と『朝宮カルマ』の文字の前で両腕を組んでいた。しかし、煌は大きく手を叩く。
「じゃあ、今から二人に『白兎澪』の台詞を言ってもらおう。」
その言葉に「そんなのわかってる」「累だよ」「でも月詠君のも見てみたい」という賛否両論が教室の冷えた空気を温めた。
「累と月詠君に前に出てもらうよー!このあと伏せて良かった方に挙手してね。二人は挙げないでね」
ゆりに呼ばれた累は仕方がないので席を立ち、教壇に向かった。累の無意識なモデルウォークにクラスが輝かしい目で注目する。
(…演技に良い思い出はないが、やるか。)
累は呼吸を整えて教壇に立つ。その横で綺羅は「頑張れ」とささやいていた。
「二階堂累、披露しよう」
黄色い声が教室を包む。しかし、累はマスクを外して黒い手袋の指を1本口の前に出した。その瞬間ピタリと歓声が静まる。
「この窓ガラス、風にしては不自然だ。――今微かに火薬の匂いが…」
累の演技は全ての人間の息をのませた。すかさず煌が『朝宮カルマ』の台詞を棒読み気味に付け加える。ちょっとした嫌がらせだったのかもしれない。
「なんだよあんた!招待客は5人のはずだぞ」
「…ふっ、それは当然だ。俺は招待されてない、ただの館のはぐれものさ」
累の台詞は流れるように口から出た。累は完全に『白兎澪』の魂を憑依させていた。
沈黙のあと綺羅が拍手してそれにつられて拍手は増えた。その光景は累をわずかに笑顔にさせた。
そして、綺羅が教壇に立ち、大きく手を挙げた。
「じゃあ、今度は月詠綺羅が、いっきまーす!二階堂、カルマの台詞やってくれ」
「…えっ?わ、わかった。」
このとき累はただ「井上の台詞が棒読みだから嫌だったのか」と思っていた。でも、綺羅の希望の本当の意味は累と異なった。
同じやり取りを累と綺羅は行った。綺羅の演技は初めてとは思えないほど上手で累と肩を並べられるくらいだった。
――しかし、結果は累が主役に決まった。
累は綺羅を慰めようとしたが、綺羅は累のことを大変褒めていて全く落ち込んでなかった。
ちなみに『朝宮カルマ』は再度、煌と綺羅でもめたが棒読みがひどすぎて消去法で綺羅になった。
「…ちぇ、累を酷く言うキャラなんて」
配役が全て決まり、前で口を尖らせる綺羅に累は囁く。
「なんだ、嫌なら変えてもいいんだぞ。」
「…うぅん、一番累と近くて喋る役で良かったよ。俺、累が好きだからさ。」
「…へ?」
突然の告白をサラリと言われて累は戸惑った。しかし、周囲を確認してクールに戻る。
「…勝手にほざけ。」
視線をそらした累の顔はわずかに赤くなっていた。
※この物語はフィクションです。
『消えゆく星明り』は前に作って没となった私の自作小説です。評価によってはこちらもリメイクして投稿しようと考えております。どうぞご愛読ください。




