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第6話 消えてほしい

「今月、演劇会を披露します。劇の内容や配役はクラスで話し合って決めてください。」


 原山先生の声が教室に行き届くと、早速ゆりが教壇に立つ。


 ゆりと煌は学級委員だからだ。


「…じゃあ、どんな劇が良いか皆で話すよ!」

「シンキングタイム!」


 ゆりと煌は話をまとめるのが若干苦手なコンビである。累はため息をついた。


(…結局、話がまとまらず私の適当な案で閉めるのがいつものオチだよな。)


 そんなとき、手が上がった。その手は綺羅だった。


「俺、この小説の劇をやりたいんだ。どうだ?」


 綺羅の手には累がいつも読んでる推理小説があった。累が慌てて机を確認するとちゃんと小説はある。累は安堵したが、同時に綺羅に疑問を抱いた。


(なぜ私の気に入っている本を持ってる?)


 累の小説――『消えゆく星明り』は、ある館で起こる事件を推理オタクの主人公の男性が解決していく物語で二冊完結型だ。途中、男女の恋愛も絡んでくるが最後はビターエンドで幕を閉じる。


 煌は顔をしかめた。

「それ、盛り上がる奴じゃなくね?」

「ちょっと難しいかな…。」


 ゆりも同意見だ。累も正直無理だった。


(当たり前だ。第一小説で衣装や館の様子を再現できない。それに…。)


 累は自身の本に視線を落とす。この話の主人公は中性的な性格で顔色を変えない冷徹な雰囲気を醸し出している。さらに黒い長髪で物静かである。


――完全に累に適任だった。


 中学の頃、累は演劇部だったのだが基本的に男性の役が多かった。


 いや、正確には()()()()やらせてもらえなかった。


――『…お姫様じゃなくていいから女の役もやりたい?』

  『…うん』

  『無理だろ。その顔で』

  『…』――


 累はかつての演劇部で意見した日のことを思い出していた。それをきっかけに累は退部した。


 あの日の相手の笑い声が今でも累を苦しめる。


(あぁ、消えてほしい)

(あの部長、今どうしてるんだ?…いやどうでもいい)


 苦しい思いをミント一粒と一緒に飲み込んで話を聞いた。気づけば綺羅は手を下げている。


 黒板には『消えゆく星明り』だけが隅に書かれていた。


――2時間後


「結局誰も案がねぇのかよ!」

「なんでもいいんだよ。童話でも外国語でもオリジナルでもいいから。」


 綺羅の案が出てから全く挙手はなかった。窓の外はすっかり橙色に染まっている。


 煌は自分の親指の爪をガジガジと嚙んでいる。


(…もう、仕方がない。)


 累は諦めて手を挙げた。


「私も、『消えゆく星明り』に賛成だ。あの登場人物の感情の起伏が素晴らしい。」


 しかし、ゆりは表情を曇らせる。


「…累、合わせなくていいんだよ?」

「合わせてなんかない」


 累はゆりの言葉を切り捨てる。累は自分の前髪をかきあげて真っすぐゆりたちを射抜く。


「この小説はそこまで人気じゃないが、推理小説に重要な感情と場面の表現が具体的だ。」

「完璧じゃなくても魅力は表現できるだろ。」


 累の静かでわずかに燃え上がる小説への情熱は教室にしんみり伝わった。


 一瞬、沈黙があったあと、ゆりは我に返って黒板に唯一書かれた『消えゆく星明り』に赤いチョークでグルッと囲った。


――バン!


 すぐに煌が黒板を叩き大声で叫ぶ。


「じゃあ僕らはこの『消えゆく星明り』にするよ!」


 拍手が赤く染まった教室を包む。


「じゃあ配役を――」

「…待て」


 ゆりの発言に累は静止をした。その声は鋭く急所をついた。


「時計を見ろ。もう5時だぞ。」


 それを知ったゆりが「…え、あーー!」と飛び上がった。


「いっけなーい!もう下校時刻近いじゃん。皆帰ろうね♪」


 ゆりの可愛らしい口調がクラスを慌てさせる。

 ドタドタと足音が響くとドアがパンクしそうなほど詰めかける。


(…やれやれ)


 累は渋滞する前にドアをすんなり抜けて真っすぐ廊下を歩いた。


――しかし、その後ろで一人の男が累の後ろ姿を見ていた。


 金髪でピアスまでしている大柄な男で浦島高校の制服を上のボタンを2つ外してネクタイも緩めている。完全に不良って感じだ。


 その男はわずかに八重歯を見せて笑う。


「…二階堂じゃねぇか。やっと自分を受け入れたみてぇだな。」


 そう言うと、静かにその場をあとにした。

※この物語はフィクションです。

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