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第5話 NRLの闇

 翌週の月曜日の朝、累は窓辺で髪をなびかせながら黄昏ていた。


(…あれは月詠のためだ。これで距離が開けばいいが)

 先週の休日に放った綺羅への発言が累の脳内を回る。その言葉は綺羅の顔を思い返すたび累の胸を締め付けた。


――そんなとき、廊下から複数の視線を感じた。


 累が横目に廊下のうちわや横断幕を見る。


『累様LOVE♡』

『愛してる』


 その言葉はキラキラのピンクのラメ入りのペンで書かれていた。


「…」


 累は黙って見ていた。それが累の問題視している”連中”の正体だ。


*****


『二階堂累を愛でる会(通称NRL)』

Nikaido

Rui

Love

の頭文字を取っている。全校女子が累の入学に合わせて勝手に立ち上げた、累のファンクラブだ。累のちょっとしたしぐさに勝手にときめいて、勝手に応援する。


――しかし、問題があった。


 それは累への愛が重すぎて累にとっては”呪い”としか言いようがなかったことだ。


 例えば、累が体育で「外で運動するのが嫌だな」と何気ない独り言のせいでNRLは職員室に行って授業の変更を訴えた。また、去年、累が男子からラブレターをもらった翌日、その男子は不登校になってしまった。そのときNRLが喜んで乾杯していたので何かしたのは累にはわかった。


 しかし、説得したら累が勝手に発足したNRLを認めたことになる。

 だから、累は腹の奥に自身の主張を封じ込めた。


*****


(…あぁ、ムカつく。あいつら早く消えてくれないかな。)

 NRLの視線が累には目障りでしょうがない。

(ただほざくんなら、バレないようにしろよ。)


 そんなとき綺羅が教室にやってきた。一昨日の話が嘘のような明るい顔立ちだ。すると、煌とゆりが綺羅に真っ先に駆け寄った。


「綺羅、廊下であの女子たちに何かされなかったかい?」

 煌が前髪をいじりながら廊下に顎で指す。

「何かってなんだよ?二階堂のこと応援してるんじゃないのか?」

「それが累にとっては迷惑なんだよ。」

 困惑する綺羅にゆりがNRLと彼らの隠された脅威について洗いざらい耳元で囁く。


 累はゆりの真っすぐな姿勢に目を細める。


(相変わらず、ゆりの正義感は良いな。)


 そして、ふと思う。


(…考えてみれば普通に綺羅に事情を話しても問題なかったんじゃないか?)


 累は頭を抱えて冷や汗をかいた。もはや累は友人関係すら不可能なほど人を引き離してしまったのだ。


「私はなんてことを…。」


 思わず口から焦りがもれる。


――トン、トン


 心臓の音が高鳴るなか、累の耳に短く明確な鋭い音が一定のリズムをとって入ってきた。それは少しずつ大きくなっていく。累は胸を押さえて息を切らしていた。心臓の音が累にはうるさくてしょうがなかった。


――しかし


「二階堂!」

「「…うわぁーーー!!」」


 綺羅の元気な乱れのない声に累は大声で驚いて、開いていた窓から頭から落ちそうになった。


――ガシッ!


 綺羅がバランスを崩した累の背中に素早く手を回した。


「…ごめんな、驚かせて。怪我はないか?」


 累はすぐさま斜めになった椅子を直して綺羅の手を払った。その顔はほんのり赤い。


「…んだよ。あの女子たちの話をゆりから聞いただろ。あまり私と仲良くするな。…祟りにあうぞ。」


 累は右ひじを背もたれに添えて制服の襟を正しながら視線をそらす。


「祟りだなんて大袈裟だな。」


 綺羅は累の両頬に手を添えて言い放つ。それは矢の如く真っすぐ速く正確に累を射止めた。


「どんなことがあっても、俺は二階堂と笑っている自信がある!」


 累は頭の中がオーバーヒートしていた。


(…えっと、この状況の打開策は…。)


 累は冷静になれないまま右手を綺羅の額に近づける。


「きゃー!」

「まさか、累様に恋人が⁉」


 教室と廊下の女子がときめいていたその瞬間――


「月詠、近い。」


 バッサリと綺羅の台詞を切り捨て、「めっ」と短く綺羅の額をポンと指先で軽く叩いた。


(…出たー。二階堂お得意の絶対零度。)

 煌は少し勝利のような笑みを浮かべていた。


「なんでそこで切っちゃうかなぁ。もうちょっとなのに。」

 ゆりはかなり残念そうだ。しかしすぐに顔が何かを考える表情になる。


――静寂の中、綺羅は笑顔のままだった。


「二階堂って、『めっ』って叱るんだな。可愛い。」

「だからお世辞は良いって!あと思考が追い付かなかったんだ。」


 累は慌てて言葉を探す。


――キーンコーンカーンコーン


 チャイムの音に綺羅は表情を失い、黙って自席に向かった。


「あぁ、焦った。」


 累は額に手を当てて息をつく。

 累は椅子の背もたれを背中に来るように姿勢を直して黙々と前を向いた。

※この物語はフィクションです。

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