第3話 綺羅の猛アタックと累の受け流し
――累は綺羅とゆりと一緒に近所のカフェに行くことになったのだが…。
到着した店を見て累は思わず声を上げた。
そこは学校の最寄り駅から徒歩圏内の大きなショッピングモールの中だった。
「これはカフェじゃない。フードコートだ。」
それに対して綺羅はポンと手を合わせる。
「そっか、こういうのがフードコートって言うんだな。」
「飯食えればカフェって言うのかと思ってた。」
(…天然って奴か?)
累は綺羅の少し抜けてるところに少々呆れてしまう。そして、なぜかゆりはいつもより距離を離している気がした。いや、それよりも綺羅の初対面とは思えないほど距離感がやけに近いのでゆりと話し合うことはできなかった。
3人は空いてる席を探したが、4人用が無かった。
「私、窓の景色みたいからさ。月詠さんと累の2人で座ってよ。」
「……?」
ゆりはウィンクで綺羅に何か合図を送ったようだが、累にはその内容がわからなかった。
「ゆり、いつもSNSしか見ないだろ。どうしたんだ、あいつ?」
その後、累と綺羅は向かい合って小さなテーブルに座った。累はコーヒーと小さなホットケーキ、綺羅はハンバーグ定食をテーブルに置く。綺羅のトレイには透明なサイダーの入ったグラスが入っている。
累はホットケーキを付属のシロップをかけずに食べる。コーヒーもブラックだった。綺羅は輝かしい笑顔でハンバーグを頬張る。
(…綺羅が幸せそうなら、いいか)
綺羅の様子に、累は自然と口角を上げる。
「炭酸、好きなのか?」
累は沈黙がつらくなり、綺羅に話題を振った。綺羅は笑顔でサイダーを喉に流し込む。
「おう!炭酸飲料なら甘くなくても好きだ!飲むか?ストローあるぞ」
綺羅はニパーと笑って累にストローを差し出す。しかし、累はそれを片手で拒み、首を横に振った。
「要らん要らん。私さっきミント食ったからサイダーは無理だ。それに甘いのは好みじゃない。」
「…ミントって、変わってんだな。あんな葉っぱ食うなんて。」
「お前、どこまで抜けてるんだ。これだよ。」
――カシャリ
累はスカートのポケットからミントタブレットのケースを軽く振って見せた。
綺羅はさらに目を爛々と輝かせて累を真っすぐ見つめる。
「それなら、チョコミントアイスとかはどうなんだ?」
「…微妙だな。店にもよるがこのフードコートのアイスはチョコが甘さ控えめだから好きだ。」
綺羅は明らかに累に興味を示していた。そのおかげでなんだかんだ話は弾んだ。しかし、累には気になることがあった。
「…なぁ、月詠」
「綺羅でいいぞ。」
(はぁ⁉呼べるかよ。男子に向かって)
累は綺羅の言葉に思わず声を荒げそうだったが、コーヒーと一緒に喉の奥に押し込んだ。
「私と話して楽しいか?」
累は口数が少ないことで綺羅を気まずくさせているのではないかと心配だった。
綺羅はその言葉に目を細める。累はそれを見て内心ため息をついた。
(…昔からだ。私は言葉を生み出せない。ゆりのように言葉を発せない――)
二人の間の沈黙は――
――すぐに綺羅の発言で切られた。
「なんだよ。楽しいに決まってるだろ?」
「は?」
累は綺羅の歯を見せた笑顔と共に発せられた言葉に肩の力が抜ける。
「なんでだ?私は女子力ゼロだ。それに会話も苦手だ。それに――」
累は自分の欠点を思いつく限り綺羅にぶつける。しかし、綺羅は累の両肩に手を添えた。
「そんな暗い顔すんなよ。俺は二階堂が笑っているところが見てみたいんだ!」
「…俺と友達になってくれ。」
累の顔がほんのり熱くなる。表情も僅かだが歪んでいる。
(…なんだよ、これ。心臓の音が、大きくて、速い……っ!)
累は胸に手を当てるまでもなく感じる自分の鼓動に呆然としていた。
向き直ると綺羅は笑顔でスマホを持っている。
「…友達の証として、連絡先交換しようぜ。」
「…ま、まぁいいが」
累はモヤモヤしたまま綺羅に促されるまま連絡先交換した。
二人が互いの連絡に滞りないことを確認すると、累のスマホのアラームが鳴った。
累はその音で目を丸くして残ったホットケーキを口に入れコーヒーで無理に流し込む。そして、空のトレイを持って急いで立ち上がった。
「…す、すまん。このあとバイトがあるから先に失礼する!」
累は綺羅の返事を足踏みしながら待つ。
「そっか、じゃあまた明日学校で会おうな。」
綺羅は穏やかな笑顔で累に優しく手を振る。
「え?あ、あぁ――」
(今日金曜日だから、明日は休日だぞ?)
累は綺羅に背を向けて走った。綺羅の最後の発言にツッコミをいれていいのかどうか悩んだが、今はバイトのことに集中したかった。
――時間に余裕があるとわかっているのに累は走っていた。
(…まぁ、あとでチャットで教えよう)
――これが、二人の関係の始まりだった。
※この物語はフィクションです。




