表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/16

第16話 二人の恋の行方

 累と綺羅は晴れて両想いとなり、カップルになった――はずだった。


 付き合い始めてから2人に何も変化はなく、平日は学校で普通に挨拶して世間話。一緒に帰ってたまに近所のショッピングモールで勉強会。一方休日は駅前で累のペットのポアロの散歩ついでに綺羅と雑談。


 ――恋人らしいことは、水族館デート以来、全くやっていなかった。


「全然変わんないじゃん!もっとショッピングとかしないの?」


 進展がないので痺れを切らしたゆりが累に訴えかける。累の目には焦りの色もなかった。


「別に欲しいのないし、私はインドア派だからな。綺羅に交通費をかけさせたくない」


 累の冷静な言葉にゆかりが目を見開く。


「NRLも累さんの恋を応援しているのですよ?それならもっとワガママでも…」

「…施設育ちで今まで我慢しかしてこなかった私にできるとでも言うのか?」


 累の冷めた発言にゆかりの喉は詰まった。累と綺羅の間の壁はまだ低くなっていなかった。


 ――一方、綺羅はというと屋上で煌と北斗と同じ会話をしていた。


 ざっくり言うと、煌が「全然変化がない」と痺れを切らし、綺羅が「累はインドア派で彼女に交通費かけさせたくない」で北斗がNRLの件を話した。


 役者が変わっただけでほとんど同じ内容だった。ただ唯一違うのは――


「変に口出しして仲が崩れるのはごめんだ」


 最後の綺羅の一言が違ったのだ。別に綺羅は累の家庭事情を気にしていなかったのだ。ただ累が自分を頼らないことで綺羅も口出しできない”負の沈黙”が生じていた。


 ――しかし、ある日の累のロッカーから映画館のチケットが入っていたことでその沈黙は崩れる。


「…っ、誰だよ。人のロッカー開けてチケット入れた奴…。番号変えよう」


 累がチケットを取り出すとメモ用紙が入っていた。


『今度、映画観に行かないか?面白いアクション映画なんだ』


 しかし交換日記をやっていた累にはわかった。この汚い字は――ゆかりだ。


 ゆかりは容姿は可愛くて美女なのだが字だけは解読に一瞬眉間にしわを寄せるほどの汚さなのだ。


 累はため息をつく。


「綺羅に話して映画観るか。チケット代返さねぇと…。」


 ちょうどそのタイミングで綺羅がやってきた。


「「あのさ!」」


 2人の声が重なった。どちらも映画館のチケットを持っていた。すぐにお互い理解した。一瞬の沈黙のあと、2人の顔に柔らかい笑顔が浮かぶ。


「映画観ような。今度の週末に」

「…あぁ、デートだな。楽しみだ」


 短い会話だが2人にとって、それで十分だった。それだけでお互いを近くで感じられるから。


 ◇◇◇◇◇

 映画を観に行った累と綺羅は久しぶりに話し合ったような気がして嬉しかった。


「なんか綺羅の顔をしばらくぶりに見たような気がするよ」

「俺もだ。累の顔を真っすぐ見られた」


 2人とも映画の感想よりも自分たちのことで頭がいっぱいだった。2人の胸の内にはしぼんだ風船が一気に大きく膨らんだような感じがしていた。


「…にしても、映画館に入る前にスタッフに言われちまったな」

「あぁ、『この映画は女性向けのラブストーリーがありますが時間を間違えてませんか?』のことか」


 前の累はここで視線をそらして表情を失っていただろう。しかし、今の累は笑顔で綺羅を見ていた。


「私はよく男と間違われるからな。どうしてなんだろうな?」

「本当だよな。髪は長いし体型も女性らしいのに…。」


 少しの間沈黙が流れ、すぐに2人は笑い飛ばす。


「…私、綺羅に会えて良かった。今まで男にずっと妬まれ続けた私に”1人の女性”として扱ってくれた綺羅がいて、本当に嬉しい。」


 そのときの累の笑顔は春先の少し溶けた雪の中から顔を出した桜の花のようだった。どこか温かさを感じる。その表情は綺羅の輝く瞳を大きく開かせる。


「俺は女性が怖かったんだ。姉貴のせいなのかな…。でも累は純粋に可愛いって思えたんだ。」


 綺羅はほんのり顔を赤らめて頭の後ろをかく。その瞳は真剣な眼差しへと変化した。


「これからも俺と一緒に歩んでくれ、累」


 その言葉は累の脳内で自然と輝く指輪を見せる。それは氷の冷たい輝きとも太陽の温かい眩しさとも異なる神秘的な輝きを放っていた。累はそれに呼応するように笑顔を浮かべた。


「私も、少しずつ綺羅のことを知っていきたいよ」


 映画館のロビーのわずかな静寂の中で2人は確かにお互いのことを見つめていた。


「このあとメシ行こうぜ!累の好きなミントアイスあるぞ」

「それってリニューアルオープンしたあの店か?サイダーフロートも追加されたそうだぞ」


 2人はたわいもない会話で盛り上がりながら映画館をあとにした。


――ミントとサイダーは一緒に食べると腹がかなり冷えるが、お互い必ずすぐ近くに存在する。


 二階堂累と月詠綺羅の関係も同じである。しかし2人はれっきとした”人間”だ。この先の未来、2人は少しずつ互いを知って結ばれるだろう。しかし、それはまだまだかかりそうだ。

※この物語はフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ