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第15話 水族館デート

 肝試しの翌朝、教室では累と綺羅が向かい合って座っていた。


「累、俺たち恋人にならねぇか?」

「…へっ⁉」


 累は予想よりも早く、すんなりと告白を真正面から受けた。顔は真っ赤で可愛くなっている。すると、累はマスクを外して笑顔で答えた。ギザギザの歯が大人びた累の顔に無邪気さをプラスしている。


「私も、綺羅が彼氏なら大歓迎だよ♡」


 この可愛らしい累のしぐさに綺羅は前の机に足をかけて「おっしゃー!」とガッツポーズをした。同時に彼の胸に初めて累に射抜かれたような感触があった。しかし、累はマスクを外したまま真顔になる。さっきまで可愛さでしかなかったギザギザの歯が冷徹な印象を醸し出していた。


「…とでも言うと思ったか?」

「…は?」


 綺羅も突然の累の変化に驚く。黙ったままの綺羅を差し置いて累は冷えた表情を崩すことなく言葉を次々にぶつける。


「普通に気持ち悪いぞ。なぜそんな心意に至った?私たち昨日仲直りして名前で呼び合うようになったばかりじゃないか。いきなり恋人だなんて…。変人か⁉”お前”は」

「…お、”お前”?」


 いつも聞いているはずの累の二人称”お前”は、このときの綺羅の胸をグサリと突き刺した。顔を両手で覆う綺羅に累は声をかけた。その声は冷えてなく、可愛さもなく、ただ綺麗だった。


「まぁ、私も恋愛がよくわからない節があるからな。その告白、これで決着をつけよう。」


 累がバッグから取り出したのは、町内の大きな水族館のペアチケットだった。綺羅はチケットを凝視する。


「…そ、それは?」

「町内のでかい水族館のペアチケットだ。この前その近くのショッピングモールの福引で当てたんだ。四等のゲーム機が欲しかったんだが、一等を当ててしまった。」


 綺羅は累の軽い無駄話にスルーしてしまった。さっきの深い傷がまだ癒えていなかった。同時に累も面白い話のつもりで言った世間話がリアクションが薄くて恥ずかしかった。「あ、累様滑った」とでも言いたげな周りの視線が痛い。

 累は咳払いをする。


「…この水族館で、今週末デートしよう。それで私に肝試しのときと同じ顔をさせてみろ。そしたら恋人になろう。」

(で、デートって言ってる時点でカップル成立じゃ…。それに累が持ってるのカップル限定チケットだよ…。)


 二人の会話を聞いていたゆりがなんとなく累の心情を察知した。累の王子様モードは怪談以外解けたことがない。王子様モードを解くのが条件ということは…。


(まさか累、月詠君に自分を怖がらせるつもり?)


 ゆりの目に映る累は少しだけ笑っていた。


*****

――週末


 累は水族館の待ち合わせ場所にいた。今回はデートなので施設のお姉さんたちに服装を決めてもらった。理由は言うまでもなく累のセンスは男性的だから。髪を下して小さなツインテールにして普段は着ない白いボーダーのシャツにデニムスカートを履いていた。化粧もしたので今日の累は可愛らしい女の子だ。マスクはしてないが手袋はつけたままだ。その下の手にはわずかに汗がある。


「…おーい、累!」


 綺羅もやってきた。累のいつもと印象が違っていることに驚いていたが、「可愛いな」と言って累を笑顔にさせた。だが、まだ王子様モードから吹っ切れてない。


「私もありがとう。綺羅はかっこいいな。」

「だろ?姉貴に電話で服装の相談したら、張り切ってくれたんだ!」

「…そうか、良かったな。似合ってる」


 累は微笑んだ。綺羅は黒いズボンに明るい茶色のベルト、上には黒いYシャツに累のスカートと同じ色のデニムジャケットを羽織っている。アメリカ在住のお姉さんらしい服だ。


「私も施設の姉さんにお願いしたんだ。大学生でな、化粧まで教えてくれたよ。」

「通りでいつも可愛い累がもっと可愛いわけだな!」


 大真面目に累に笑顔を飛ばす綺羅に、累の顔は熱くなる。


(キャー(≧∇≦)可愛いだなんて。…しまった崩れそうだ。なかなか解けないことにショックを受けた綺羅に告白の返事を返すんだ。あの場で即答しかけた私が恥ずかしい。)


 実は累の返事は一番初めのものだった。しかし、即答すると後で冷めやすいとゆかりから聞いた累は踏みとどまってこれ幸いとチケットを使ってデート作戦に持って行ったのだ。


――つまり、累の返事は決まっていたのだ。


 水族館の中は意外にも明るく、表情を隠せないことに累は後悔した。


(こうなるんなら映画館でも…、いやチケットあったし)


 綺羅は魚を鑑賞して楽しんでいたが、累はそれと告白の返事のことを交互に考えていた。


 気付けば最奥のベルーガの水槽に来ていた。累は思わず口を開く。


「このベルーガ、私が施設でなかなか友達ができないときに水族館でよく見ていたんだ。ここ、小学生以下はタダだからな。」

「…そうなのか。累の思い出の場所か…。」


 綺羅はベルーガではなく累の顔を横目に見ていた。水槽越しの青い太陽光が綺羅の目を煌びやかにする。その横顔に累はうっとりしていた。


「私、ここでバイトもしてるんだ。今非番でな。ほら、私施設育ちだから奨学金で、大学の勉強も高1からやってる。バイトばかりだから誰かと遊んだことは中学以来なくて…嬉しかったよ。」


 累はなぜか自分の過去を語っていて、汗が出ていた。室内が湿っぽいからだと、このときの累は決めつけたかった。


「…おい、どうしたんだよ?汗やばいぞ」

「…緊張しててな」

「デートだからか?思いっきり楽しもうぜ」


 明るい室内よりも明るい綺羅の笑顔に累の口元はわずかに緩む。すると、綺羅の輝く目がさらに輝かしくなった。


「あっ、これ森と同じ顔だ。これで俺の勝ちだな。よろしくな、彼女♡」

「しょうがない、約束だからな。あまりしつこくするな。」


 肩に腕を乗せる綺羅に累は若干照れながらもいつもの口調で告白を承諾した。


 それを祝福するように二人の前の水槽のベルーガが近くで泳いでいた。


*****

 実はこの光景をゆりと北斗は見ていた。水族館デート決定日からゆりは北斗にそのことを話したところ、北斗も累の後押しのため高校生チケットを2枚手に入れ、こっそり来ていたのだ。しかし何もする必要はなかったので二人もただ鑑賞して帰ることにした。


(早乙女と黒須さん、デートしてるのか?)

 この二人に綺羅だけが気づいていたのだ。

※この物語はフィクションです。

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