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第14話 絶対零度王子と太陽の精霊

 ――『絶対零度王子』


 これは浦島高校での二階堂累の二つ名だ。彼女の表情には冷静さが宿り、その笑みからは霜が舞うような空気を感じる。かと言って残酷ではなく氷河のような美しさを放っていて世間で言う女性らしさとは程遠かった。


 ――しかし、彼女にも弱点はある。


 それは怪談だ。課外授業の夜の”とっておき”、肝試しに参加することになってしまった累の背中は冷や汗で服がべったりと張り付いていた。その感触が累の体を震えさせる。


「…ぃ、おいっ!二階堂!」

「へ?…あ、あぁどうした?」


 累はやっとクジ引きでペアになった煌に起こされた。実は煌は累がお化け嫌いだということを知らない。


「どうしたんだい?上の空だったが…。」

(こいつに肝試しが怖いだなんて知られたら、絶対にコケにされる!)


 身の危険を感じた累は顔が若干引きつりながらもクールな顔にした。なるべく別のことを考えることにしたのだ。


 肝試しのルールは、神社の裏の森にある一本道を進んで反対側の駅にたどり着くというものだ。着けば長い校長の挨拶を終えてそのまま帰れる。


「…この森、出るんだ。」


 一瞬累の肩が跳ねたが、すぐに冷静を装う。


「…あぁ、さっきゆりから聞いた。確か、『甲高い女の声がしたとき、後ろから肩に手を置かれたらすぐに振り向け。さもないと森で野垂れ死んだ者たちに地獄に連れていかれる。』だったか?」

(…怖いなぁ。でも絶対零度を装え、私!)


 前のペアは、ゆりと綺羅だった。二人は何か楽しそうに話している。その様子に累は自然と頬を膨らませた。彼らがそのまま森の陰に消えると、累たちも続いて入った。


「なんか累の周り、冷えてね?」


 これは累が怯えて全身の体温が下がっているからだ。彼女は変温動物並みに体温の変化が激しいのだ。


「さぁ、気のせいだろ。トカゲじゃあるまいし」


 累はポケットからいつもの手袋を取り出してはめた。


 道の半ばほどで煌が慌てだした。


「…やばっ⁉家の鍵落とした!」

「リュックの中は?」

「ねぇから言ってんだろ⁉」


 なぜか逆ギレする煌に累はため息をついた。仕方がないので二人は道の地面をよく探した。舗装されていたので、来た道はわかった。


――5分後


 累は目を丸くして地面に這った姿勢のまま尋ねる。


「その鍵、ストラップとかないのか?特徴だけでも教えてくれ。」


 しかし、返ってきたのは葉の擦れる音のみ。フクロウの鳴き声と冷たい風が累の背筋を凍らせる。舌打ちをして累は煌がいるであろう後ろを振り返った。


――しかし、誰もいない。


「…嘘。私一人…?」


 累はもはや普段の口調もできない状態だった。周囲には街頭もなく、月明かりで薄暗かった。青白い自然光だけが道の頼り。累は慌ててスマホを取り出したが、累のスマホは中古なのでバッテリーが切れていた。


「…こ、怖い。誰か助けて。」


 小声で涙ぐみながら累は両手を合わせる。この後のペアを待てばいいだなんて、このときの累には思考が及ばなかった。すると、後ろから枯葉を踏みしめる音がした。


――ミシッ、ミシッ……


(…何、この音。誰か来てる?)


 累はゆりの言っていた話を思い出していた。


(女の声がしない。振り向くんだっけ?)


 自然と充電切れのスマホを握る。これで幽霊を殴ろうと思っていたのだ。実体ないから殴れないとわかっていながら。


(肩に感触があったら振り向いてスマホを…)


 累はこのあとの動きを予測して脳内シミュレートしていた。でも、できれば何もしないでほしいと思っていた。すると、累の肩にわずかな重さを感じた。


「…ぴ、ぴええええーーーーーー!!!!!!」


 累は甲高い悲鳴をあげながら後ろの人物にスマホで殴り掛かった。


――ゴン!


「――へぐっ!」


 振り向くと綺羅がいた。累はもはや顔が緩んで女子らしくなっていた。頭をさする綺羅に累は一生懸命謝る。


「…ごめんな、綺羅。幽霊と思った。」


 頭を下げる累に綺羅は首を横に振った。


「全然痛くないよ。俺も怖がらせてごめんな。それにしても『ぴえー』って可愛い悲鳴だな。」

(しまった…。)


 累は顔を赤く染めたが、すぐに綺羅に尋ねる。


「…でも、なんで綺羅がここに?先にゆりと言ってたろ。」

「それが早乙女さんが目を離したすきに前の藤井さんのペアといなくなっちゃってさ…。」

「そうか、あいつらしい。」


 ゆりの吞気な顔を脳裏に浮かべ、累は首を縦に振る。


「そういや、俺のこと『綺羅』って呼んだな。俺も『累』って呼んでもいいか?」

「いいよ。むしろ、早く呼び合いたかった。」


 累は綺羅の笑顔を崩すのが嫌で、日記の話を出せなかった。しかし、綺羅がリュックから真新しいノートを取り出した。


「交換日記、あれ俺いっぱい書いちゃってさ。新しいのに書いた。あと、累の家族のこと、教えてくれてありがとうな。俺、家族がいない奴の気持ち知らなかったから。累の友達になれて良かったよ。」

「…わ、私も!綺羅と友達で、本当に嬉しいよ。」


 気付けば累は綺羅を抱きしめていた。そうしていたかったのだ。その後、二人はゴールして先に待っていた煌とゆりが出迎えてくれた。このあと、ゆりが綺羅と累を仲直りさせるために煌と仕組んだ作戦だったことを累たちは知った。


 肝試しで王子様モードが解けた累なら綺羅と話せるはずだと思ったらしい。


*****


 この後のペアが著しく到着が遅かったのは、累の悲鳴で森の怪談を思い出して、ずっと肩を叩かれるのを待っていたからだった。累は帰宅後ゆりからチャットで知り、申し訳ない気持ちで

いっぱいになり、二つの意味で寝られなかった。

※この物語はフィクションです。

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