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第12話 累と綺羅の交換日記

 演劇会の翌日、累はゆりからある提案を受けていた。ゆりの手には一冊の『交換ノート』と印字された桃色のノートがある。


「交換日記?誰と」

「決まってるでしょ?ゆかりから聞いたよ。私も累を応援するから、月詠君とやってきなよ。」


 実はゆかりとゆりは従姉妹である。強引で可愛いところが鏡で見たかのようにそっくりだった。名前が似ていることにも合点がいく。


 累はしばらく顎に指を添えたが、ノートを受け取った。その手に迷いはなかった。


「…わかった。私も自分の気持ちに気づけるかもしれないからな。」


 累は初めは理解できなかった心臓の高鳴りの意味をこの日、交換日記のおかげで少しだけ靄が晴れたような気がした。

 半ばスキップをしながら累は真顔で綺羅にノートを渡した。クールな顔が少しだけ緩んでいたのは綺羅の輝く瞳によるものだった。


「交換日記?俺と?」

「…あぁ、私も女だからな。こういうの月詠とやってみたいんだ。」


 真っすぐ綺羅の顔を見て話しているはずなのに、累の視線は天井や壁に時々いきそうだった。ずっと眺めてると体がオーバーヒートしそうで体が反射的に綺羅を避けていた。

 心を落ち着け、綺羅を見ると彼は輝かしい笑顔を見せる。


「いいな!やろうぜ!俺もやってみたかったんだ!」

「そ、そうか。じゃあ、私が書いたから明日よろしくな。」


 累は震える手でノートを綺羅に渡した。


――それから二人の交換日記が始まった。


累『初めまして…は変だよな。今日からよろしく。改めて自己紹介しよう。私は二階堂累。誕生日は4月10日で好きな食べ物はミント。月詠のことも知りたいから教えてくれないか?』


綺羅『ニーハオ!二階堂の誕生日って過ぎてるじゃんか⁉来年は祝わせてくれ。俺は月詠綺羅。誕生日は7月27日で好きな食べ物は炭酸飲料だ!そーいや、ポアロは元気か?』


累『あぁ、元気だぞ。つーか、お前”ニーハオ”ってカタカナで書くんだな。てっきり”你好”って書けると思ってた。結構ポジティブだから羨ましいよ。もしかして一人っ子か?』


綺羅『ニーハオ!累の字、可愛くていいな!家族なんだが、俺には姉貴がいるぜ。今アメリカでファッションデザイナーの修行中だ。家には祖母ちゃんがいる。両親は共働きだから普段は祖母ちゃんと二人だけだ。二階堂も家族厚生教えてくれ。』


――カ、ゾク?


 累はこの日とんとん拍子に進んでいたシャーペンの手を止めた。

(…まぁ、気の毒がられるとは思うが言っていいだろ。)

 すぐに累は日記の空白に自分の丸い文字を次々に埋めた。


累『自慢はできないけど教える。先に書くが”家族構成”だ。間違えるなよ。あと字が可愛いって書いてくれて嬉しかった。お前の字も生命力を感じられて最高だよ。話を戻す。


私は施設育ちで家族はポアロだけだ。施設の人から、”大地震の土砂崩れで町が丸吞みにされてその被災地のある神社の2階に赤ん坊がいた”らしいんだ。神社の2階で”二階堂”、そのとき片手にあやとりを持っていたから”累”なんだ。血眼になって警察も探したんだが結局私の両親は見つからなかったんだ。


暗い話になったな。それより今度課外授業で神社仏閣を回るよな。月詠と同じ班で嬉しいよ。何が楽しみだ?』


――しかし、この文章を境に綺羅からノートが返ってくることはなく、2日後に返ってきたのはチャットだけだった。


『紅葉』

「今夏の頭だぞ。紅葉はない。」


 累は施設のベッドで画面が真っ暗のスマホを眺めながらしばらく見てない綺羅の笑顔を思い浮かべていた。

※この物語はフィクションです。

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