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第11話 演劇会

 とうとう演劇会当日となった。


 朝、綺羅が張り切って校門を潜ると大きな人だかりがあった。ある女子が持つ看板には「累様グリーティング会」と書かれていた。綺羅は背伸びをして中を覗くとマイクを持った累が立っていた。


「今日の演劇、私が主役だから是非来てくれ!」


 マスクを外して見せた累の笑顔は綺羅には偽物だとはっきりわかった。


(…なんか作り物みたいだな。)


 綺羅はそのまま累の長い演説を聞いていた。


――30分後


「じゃあ、そろそろ時間だから私はこれにて…。」


 累が人だかりを一瞥してやっとサイダーのペットボトルを飲んでいる綺羅に気が付いた。すぐに累は彼に近づく。


「あれって月詠君?」

「今話題の累様の片思いの相手?」

「累様にもついに春が♡」


 累は女子の歓声の中、綺羅に小走りで話しかける。このとき、累の胸は高鳴っていた。しかし、綺羅の暗い顔に表情を失った。


(自転車置き場の近くだからか?…なんだか暗い)


 しかし、綺羅の表情は一転して――


「二階堂!今日は一段と人気者だな!俺もグリーティングとかやってみたいよ!」


 見上げた綺羅の顔はいつもの太陽だった。サイダーの透明感でさらに青春を感じさせた。


「…お、おう。月詠も元気そうだな。」

「あぁ!時間には余裕があるけど、走ろうぜ!」


 累は綺羅に手を引っ張られて仕方なく走って校舎に入った。


*****


 教室では小道具や衣装が所狭しと並んでいる。どれも小説の内容を細かく分析して足りない部分はAIで補って自然に、なおかつ鮮やかになるよう仕上げてある。


「累、黒い服似合ってるよ!」


 累は早速衣装に着替えた。ダークグレーのシャツに黒いジャケットをマントのように羽織って、革靴に足を入れる。


「リハで何度か着てるだろ。それに普段着もわりとこうだろ。」


 ゆりのテンションには驚きを隠せないが、綺羅のテンションの方が別の意味で驚く。しかし、今の累はそれに嫌気がさすこともなく、なぜか内心嬉しかった。


 二人で話に花を咲かせていると一人の女子が現れた。彼女は藤井ゆかり。浦島高校で絶大な人気を誇る美女だ。クール王子様系の累とは真逆で男子から人気がある。容姿は可愛らしく、茶髪のショートボブが彼女のつぶらな瞳をより一層輝かせていた。これで空手黒帯というギャップがファンクラブを生み出した。


「今日はよろしくね。累さん。」

「あぁ、人気者同士で頑張ろう。」


 ゆかりは今回の演技のヒロイン役で主人公に恋愛感情を抱く人物である。しかし、お互い女子なので累もゆかりも”同じ境遇の親友”として仲良くしていた。


「累様とゆかりんがデートしてる♡」

「これはまたとない光景だ♡」


 男女の黄色い声が累とゆかりの耳に入ったが、二人とも普通の光景なのでどうも思わない。


――しかし…


「そう言えば、累さん。最近恋人出来たんでしょ?」

「…っ!」


 ゆかりの直球の一言に累の肩が大きく跳ねる。すぐさま累は顔を真っ赤にして言い訳する。


「…ち、違う。月詠はただの、友達だ!私が男に好かれるわけないだろ⁉」


 ゆかりは初め目を丸くしたが柔らかい笑顔を見せる。


「顔に出てるよ。ゆりたんから聞いてたけど本当に女の子らしい反応になるね。」


 累は全身が炎に焼かれてるかのように熱かった。このまま機関車のように蒸気を出して走り出してしまいそうだ。


――そのとき、プログラムを知らせるアナウンスが鳴り響いた。


「…よし、皆全部を出し切るよー!」


 ゆりの大きな声で累はキリッと顔を切り替えてゆかりに向き直る。


「…さぁ、私たちはトップバッターだからな。今は演劇に集中しよう。」

「はい、そうね。」


 累の気持ちの切り替えに驚くことなく、ゆかりは水色の光沢のあるワンピースを整えて温かく返事をした。


(…累さんの恋愛、私が天使(エンジェル)になる!)


 ステージの脇で水とミントを口に入れる累をゆかりは温かく見守った。


*****


 演劇はその後、見事に成し遂げられた。


 ちなみに棒読みがひどすぎた井上煌は、台詞のない館の天使を模した花瓶の役となり、このことにステージを見ていた北斗はその場で大笑いしたのだった。

※この物語はフィクションです。

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