第1話 学校一の美形女子、二階堂累
「きゃー!累様だわ♡」
「本当ね♡今日もとってもイケメンだわ」
窓の外を桜が舞う中、廊下を歩く美形を見て、女子高生たちが次々に黄色い声を上げる。パッと見て眩いほどの美男子のようだが、よく見ると制服はセーラーでスカートを揺らしている。手提げバッグを肩に担ぐようにして持ち、黒い長髪をなびかせながら教室に向かった。
彼女の名は二階堂累。この浦島高校の学園トップクラスのイケメンであるが、性別は女性である。いつも黒い長髪を下していて、黒い布マスクと黒い手袋をしている。口数が少なく顔も男性的であるうえ声も(一般的な男性ほどではないが)低く、左目の泣きぼくろがさらに彼女を王子のように輝かせる。背は女子の平均よりも少し高く文武両道、口調も辛口で表情にあまり変化がないことから高校中の女子が彼女に夢中であった。
――しかし、彼女もまた一人の女子である。
累は窓際の自分の席に座るとツインテールの女子が大きく手を振りながらやってきた。
「おはよー!累」
女子を見ると累は穏やかな笑顔を作る。
「…あぁ、おはよう。ゆりがいると私も落ち着くよ」
そのツインテールの女子――早乙女ゆりは累の幼稚園からの幼馴染であり大親友でもあった。他の女子と違い、累を"普通の女の子"として扱っているので累はとても嬉しかった。
すると、ゆりがいつものような明るい顔で興奮して話した。
「そういえば今日、転校生が来るんだよね?」
ゆりの言葉に累は目を丸くする。
「…そうなのか?初耳だ」
ゆりはバッグからチョコレートを取り出して累の机に前のめりになる。
「男の子かな、女の子かな?可愛いかな、かっこいいかな?チョコ食べる?」
「…ゆり、気が早いぞ。私は別になんだっていいが」
累はゆりのチョコの箱に視線を落とすと、ゆりの顔に視線を戻した。
「…ゆり、私は甘いのそこまで好きじゃないぞ?私は生粋のビター派だ」
ゆりは箱を見るとそこには『ストロベリーチョコレート』と書かれていた。ゆりは舌をペロッと出して「てへぺろ♡」と言った。そのゆりのドジに累は僅かに口角を上げる。
「…本当にお前のドジは可愛いな。気を付けろよ」
すると、累たちから離れたところでクラスの女子の黄色い声が聞こえた。
ゆりは頬をハムスターのように膨らませる。
「本当に皆、累をクールスパイシーな王子様にしか思ってないよね」
「累だって青春時代なんだからさ。恋した方がいいよ」
累はゆりの言葉に少し眉が動く。しかし、ため息をついた。
「…ゆり、私はまだ若いからよくわからないが、人の生き方には個性がある。その言葉、他の奴らには言うなよ」
そう言うと、累はスカートのポケットからミントタブレットを一つ、口に放り込んだ。
ゆりはその累の辛口な台詞に傷つかず満面の笑みを浮かべた。
「そうだね!累はミントが好きだもの」
ゆりの言葉に累は眉をひそめる。
「……どういう意味だよ」
二人が話していると、教室に先生が来た。慌ただしく教室を生徒たちが走り回りそれぞれの席に着いた。少し高齢の女性でショートボブである――原山先生が教壇に立つ。
「皆さん、今日から2年生ですね。早速ですが、転校生が来ました」
原山先生の話を聞きながら、累はさっきのゆりの言葉を思い出していた。
――『恋した方がいいよ』
(確かに私は女子から好かれるが誰かを好んだことはないな)
累は視線を教室に向けると男子は皆、明らかに累に対して嫌悪感を抱いていた。累が学園中の女子を無意識に魅了するため、女子が男子に目を向けなくなってしまったからだ。
その様子を確認した累は深いため息をついて自分の立ち位置を思い知らされてしまった。
(私には、金輪際不可能な話だ。恋だなんて…)
累は好みの男性がいるわけでもなく、かと言って女子と付き合いたくもない。
しかし、『浦島高校のトップクラスの王子様』というポジションが、今の累の重い呪いとしてこれ見よがしに存在しているのであった。
累はこのとき転校生が男女どちらでも自分を嫌うと思っていた。男なら女子の視線を取られて妬み、女なら累を表面しか見ないだろう。ずっと累は桜を眺めながら頬杖をついて考えていた。
――閉まっていた教室の前のドアが開いて足音が聞こえた。
累は顔を合わせまいと持っていた小説を顔の前に出して読んだ。
――しかし、この累の予想は大きく外れることになる。
※この物語はフィクションです。




