狂気と再会
瞬間移動を使って逃げたが、あいつが倒れたのか未だにどうかわからない。少し眠っていたようだ。時間が経ってようやく俺は目を覚ましたらしい。
「う…うう…」
瞼が徐々に開いていく。開き切って少し経った後、ぼやけが完全に消えて、目の前にはショコラとラティスとプレスがいた。
「草花様! 大丈夫ですか?」
「急に現れるなんてびっくりしたっすね〜」
どうやら3人同士はすでに合流していたようだ。探さなくていいのは助かるが、海は危険。傷とかはないだろうか。
「ほんと、ひやひやするわよ…」
「まったくだぜ…兄貴…」
「すまん…」
3人は俺たちが巨大な化け物に襲われたことを知っているみたいだ。シップが話してくれたらしい。
「皆さん、本当にすみません…お客様にこんな怖い思いをさせてしまって…」
「いえいえ、お気にせずです!」
指文字が当たり前のようにできてきた。誰かの通訳もしないといけないから大変だよ本当に。
「さて、海から出るか…」
「あ、草花さん…それなんですが…」
「厄介ごと…巻き込まれた」
俺は、落ち着くのはまだ早いと気を引き締めて立ち上がった。そして、ラティスとプレスに厄介ごととはなにかを聞いた。
「厄介ごとってなんだ?」
「見たらわかるっす…左向いてください」
左に見えるのは、泳ぐように水の中を優雅に移動する無数の柔らかそうな紙。俺の体はそれを見た途端、ぶるっと震え、とてつもない嫌悪感を感じさせた。
「まさか…あれって…」
「ティッシュペーパーっす」
最悪だ。俺はそう思うと同時に死を覚悟した。防水の付録効果を持っているようだ。ウィークモンスターは付録効果がないんじゃないのか…?
(防水となると、プルーリは不利だな…ショコラもティッシュペーパーには弱気だし…そういう俺も魔法の質と魔力量が増殖し続けるあいつらと相性がいいわけではない…シップを巻き込むのは論外だ!)
「タクリカル、ラティス、プレス…有利に戦えるのはお前らだけだ」
強い魔力を感じる。あのティッシュペーパーはより増殖し、力を蓄えているのだろう。覚悟を決めると、全身に力が入った。
「くるぞ!」
「ティシュー!」
淡々と聞こえるティッシュペーパーの鳴き声。それは次第に強くなる。それに、さっき感じたえげつないほどの魔力は、ティッシュペーパーの攻撃力や防御力の高さを俺に暗示させている。
「兄貴! 取り敢えず棍棒で攻撃してみるぞ!」
「あぁ、火属性で思いっきりぶち当ててくれ!」
タクリカルの棍棒の一振りが、ティッシュペーパーを風圧で跳ね除けた。中には、棍棒に直接当たって燃え尽きた奴もいる。
「自分たちも負けていられないっすね!」
「ラティスは光魔法、プレスは神力の攻撃で頼む!」
「…わかった」
プルーリは自分がやることを必死に探している。ショコラはずっと怯えて俺の後ろに隠れている。魔法が強いのは確かなんだけどな。
「あ! 魔法:水加護!」
「それは何だ?」
「移動速度のバフよ!」
プルーリは、戦ってくれている3人に対してバフをかける。確かに移動速度が上がっていて、ティッシュペーパーの攻撃を全て避けられるようになっていた。
そこからは戦況が少し楽になった。前の3人がティッシュペーパーをどんどん倒してくれて、倒しそびれたティッシュがこちらに向かってくることもなくなり、怯える必要も無くなったからだ。
「コア、見つけた」
「本当か!」
プレスが細かい鉄を何本も操作して塔を作り、その上からコアを探していたらしく、ついに見つかったそうだ。塔を作っていた細かい鉄がコアを襲い、激しく攻撃した。
「硬っ…!」
「プレス! 大丈夫か?」
今回のコアは硬いようで、細かい鉄が何回も攻撃しても壊れない。俺は、その原因は一発の火力の問題だと思い、こう叫んだ。
「プレス! 鉄を投げろ!」
「石……わかった」
そう、プレスの通常攻撃は一発の火力が恐ろしいほど高い。たとえどんなに硬いコアでも、それを続ければ確実に壊せるだろう。
「ほっ!」
石がコアに命中したが、壊れていない。まだ足りないようだ。だが、プレスはもう鉄を持っていないらしいし、近距離での戦闘はタクリカルに全て任せて、ラティスに攻撃をしてもらう。これしかなさそうだ。
「ラティス! コアに向かって攻撃を頼む!」
「わかったっす…全開で行くっすからね!」
ラティスから出る魔力が張り切り出す。薄い青色に光る線がどんどん多く空気を漂っていく。
「魔法:三段粒子光線」
一瞬だった。薄い青色に光る線が、一斉にラティスの元に向かって行った後、激しく、細い光がラティスの掌から放たれる。激しい光は、コアに突撃した後に幻想的な爆風を撒き散らし、急に消えた。コアは見事に破壊され、周りのティッシュペーパーも散って行った。
「残りのティッシュペーパーも全て倒したっすよ!」
「これで一安心だな…」
ティッシュペーパーは、体の一部から虫食いのように徐々に消滅していく。緊迫感が薄まって、俺も皆も安堵していた。
「もう…いませんか?」
「倒したよ」
「さて、あとは脱出だな…兄貴、どうする?」
そうだ、脱出しなきゃなんだ…瞬間移動は魔力的に使えないし、疾風迅雷は上に移動することができない。俺は頭を回転させて必死に思考を巡らせる。
「……はっ」
急に1つの案が頭の中に浮かび上がる。俺はその策を実行するため、仲間達に声をかける。
「プルーリ、螺旋階段みたいに水を凍らせてくれ! 最小の魔力でいい! ショコラはその階段の上に腐敗魔法を使ってくれ!」
思ってた以上の働きをしてくれた。さて、早くしないと氷が割れてしまう。この上を疾風迅雷で駆け抜けないとな。
「皆! 俺の上に乗れ!」
声に出して言えないが、結構…いや、かなり重い。7人分にしたら軽いのかもしれないが、今、腰が非常に痛い。
「魔法:疾風迅雷!」
俺が走ったわずかな衝撃で氷が次々と割れていく。腐敗魔法で氷の表面がぬるぬるになったおかげでギリギリ今なっている氷は割れない。次の氷に乗り移った直後に、前乗っていた氷が割れるのだ。それは、ただただ俺に恐怖を感じさせた。
「もうすぐだ!」
「もういいのね…?」
ショコラの魔法は10回使うとほぼ魔力切れになるらしい。8回まででたどり着けてよかった。
海を飛び出ると、そこには少しの霧が待ち受けていた。モンスターが出ない海であることがゆついつの救いだった。
(やっと旅をしている商人みたいな体制じゃなくて済む…)
でも、まだ終われなかった。これから水の上を走らなければいけない。まだ休めないし、気も抜けない。もう少しだけ、頑張らないと。そう思って、左足を前に出した。
(そうだった…帰るなら水上も走らないといけないのか……まだこの体制じゃないといけないのか…)
「無駄に高い体力で乗り切ってやるよ!」
少し走ると自国があった。でも、まだまだ遠い。無駄に高い体力でも、あの距離ではあとほんの少しのところで尽きてしまう。足を加速させる。ただの無駄な足掻きだ。だが、仲間やシップは助けられる。俺がどうなろうとも、こいつらが助かったら、それでいい。
[その時、草花の心が感覚の変化を感じ取る]
(…なんだ?)
俺の脳内に文章が浮かび上がる。
"魔法が魔導に進化する、疾風迅雷が電光石火に進化する"。
こんな文章だ。俺の魔法は、土壇場で覚醒した。それは魔導というらしい。この状況では、唱えないなんて、俺はできなかった。
「魔導:電光石火!」
今までの、風と電気を纏って走っていた感じとは違う。この魔法を唱えた時、10割が電気での走行の感覚に変化していた。
「魔導!?」
一同が驚いていた。きっと珍しいものなのだろう。仲間も、シップも、魔導なんて一度も使ったことを見たことがないからな。
ビリビリと音が鳴った後に、足が帯電する。今の俺の脚力なら、時速1066kmは出せる。俺はそれを確信した。
「すごいっすよ…魔導…初めて見たっす…」
「凄まじい速度ですよ…私の船の何十倍でしょう…」
あっという間だ。1分もしないうちに、フェロウ王国に着いた。俺が覚醒したスキルは、とんでもない性能を持っているのかもしれない。




