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「ショコラ! 魔法打てるか?」
「はい! 魔力が少し回復したので、1発だけなら!」
相手が紙に似た体質に変化したとなれば、ショコラの魔法が活躍するはずだ! 紙装甲の代わりに攻撃力は極限まで増しているだろうがな。
「魔法:腐敗・水菌!」
テスカトリポカの体が、腐敗とふやけに襲われてもうすぐ消えそうだ。だが、なんだろうか…とても嫌な予感がする。
「時は満ちた」
「…! まずい! クスカ! 防御魔法を!」
今、万物創造は魔力不足で使えない。今使える魔法は、雷、瞬間移動、謎、疾風迅雷。今残っている魔力は10分の2(5分の1)。つまり、この中の魔法の内、2つしか使えない。
「よし、これでいこう」
「草花さん!?」
「魔法:疾風迅雷!」
俺は、疾風迅雷を使って壁画に向かって飛んでいき、そのまま島をぐるっと輪の形で囲むようなテスカトリポカを、回転刃のヨーヨーで真っ二つにした。
「ここまで…やるとはなァ…この魔法を使ったら私も倒れるだろうが……お前も道連れにしてやるよォ! トキタ クスカァァァ!」
「避けられ…」
「魔法:汚染爆毒!」
俺は微笑んだ。俺を仕留めにくるなら、範囲を極小にして威力を莫大に上げ、確実な方法を取ってくるに違いない…つまり。
「魔法:瞬間移動!」
「草花様!」
ショコラは、冷たいがどこか暖かい手で、瞬間移動先を少しY座標高めに設定してしまった俺をキャッチしてくれた。テスカトリポカの体は、すっかりボロボロで、子供が1回つついたら破れて消えて原型が消えてしまうだろう。
(…私の負けか…すまなかったな…ケツァルコアトル)
<テスカトリポカの過去>
私の人生は、ケツァルコアトルが全てだった。私は彼女に尽くし、彼女に尽くすためなら私は命を捧げる。
「ケツァルコアトル様、こちら、紅茶でございます」
ケツァルコアトルは竜の王女だった。私はよく紅茶を差し出し、彼女に好かれようとしていた。今となってはそんなこと夢物語だがな。
「お紅茶、ありがとうございますわ、テスカトリポカさん」
彼女は人に変身するのが上手だった。私が彼女に惚れた理由の一つはそれだ。
「いえいえ、私はあなたに紅茶を献上したくて差し上げただけですよ」
「まぁ、素敵…」
(まるで王子様みたいだわ…でも、本人の前でこんなこと言えない…)
私は毎日を至福のような時間を過ごしていた。純粋な彼女を目の前にして、私は徐々に心を打たれて行った。そんな毎日の中で起きた絶望の事件がある。それは、ある日に起きた。
「見つけたぞ! 怪鳥だ!」
「直ちに駆除しろ!」
私の見た目のせいだ…あんな事件が起きたのは。私は、私を本当に情けないと思っている。
「危ない!」
バン!
そんな音があたりに鳴り響く。私は膝から崩れ落ちて、倒れている彼女を抱き抱えた。
「テスカトリポカさん…私は…あなたのこと…本当にす…」
「あぁ…あぁ…」
彼女は、もう喋らなくなっていた。動かず、目を閉じて、とても美しい顔を血で汚して、私に見せるべきではない美しい顔をして。
「私がもっと強ければ…私が…私がぁぁっ!!」
私の感情は強い怒りと苦しみに塗れた。我を忘れ、暴走し、そこらの植物を食らいつくした。
「うぅっっ…ぐああああああ…!!」
体の節々がピリつき、骨がひしめいた。さっき私が食べたのは毒の植物だったのだ。
「ぐあああああ! ぐるるるるる!」
私は唸って毒魔法を連発し、森一体の"人型スライム"を重く負傷させた。怪物は、心を無にし、森を蹂躙し尽くして、全人類の討伐を目標としていた。私が、この先の未来に喋っている時には、"私"はこの体から消えてなくなっているだろう。私の恋は、夢物語で終わってしまったのだ。
<読み終わり>
「テスカトリポカ、お前は恋に洗脳されていたんだな」
俺は、小声で誰にも言われないようにそう言った。回復した魔力で発動した謎で手に入れた紙を握りしめて、くしゃくしゃに丸める。
「どうかしたの? 草花」
「いいや、なんでもない……ストーリー、今日は助けてくれてありがとうな、ドロップアイテムは全部持っていってくれ」
「なっ…いいのか…?」
ストーリーは少し困惑していたが、すぐに冷静になった。俺は、ドロップアイテムを引き渡してストーリーに別れを告げた。
「じゃ、俺たちもう行くから!」
「あ、あぁ…」
(いいやつだな…クスカ…いや、草花)
俺たちは、出入り口まで走った。足に極度の負荷がかからない程度に走り続けて、気を失いかけたが、気づけば船のところについていた。
「ショコラ、ついたぞ…下すからな…」
「草花様、ありがとうございます…」
背負っていたショコラを下ろして、帰りの船に乗らせてもらった。
「どこまでですか?」
「フェロウ王国まで!」
「ん? なんて?」
聞き取れなかったのだろうか。と、何回も聞いてみたところ、何回も同じ返答が返ってきた。この少女は耳が不自由なのだろうか。俺は、謎で手に入れた髪の裏に、"フェロウ王国まで"と書いてその少女に見せた。
「あ、はい、すみません…フェロウ王国までですね…料金は3000チャリンとなります」
「はいはーい…1ガッポでいいですか?」
俺は、1ガッポを支払って、7000チャリンをお釣りでもらった。
「1ガッポ…はい、それでいいですよ」
そうして船は出航した。ラティスとプレスは寝て、プルーリはその2人に何かが起きないように見張っている。タクリカルは棍棒の修理をしていて、ショコラは疲れて俺の背中にへばりつくようにもたれている。そういう俺は、少女の話をひたすら聞いている。
「私の名はシップといいます…親はいないけど、まだ8歳で…心もとないんです」
シップは気難しそうだが、どこか安心感を求めているような水色の目で、海を見ている。シップは、自分の白い短髪の先を触りながら言った。
「あ、雨です…雨が来ます…しかも結構な量」
「そうですか…でも、水魔法使える奴がいるんで…そいつに言えば…」
俺は、慣れない指文字を使ってそう表した。言葉でも発したが。
「ん? 私のこと? 雨を全部集めればいいのね! なら、魔法を使うまでもないわ」
「おう、頼んだぞ」
プルーリは、徐々に勢いが増していく雨を集めながらラティスとプレスを見張っていた。フェロウ王国まであと何時間かかることやら。
「助かります! ありがとうございます! それにしてもすごいですね…あれほどの量の飴を全部集めるなんて…」
「こいつ…水魔法だけは長けてるんで」
「だけはとは何よ…失礼な…間違いじゃないけど…」
タクリカルは黙っていた。棍棒の修理がなかなか終わらないそうだ。そういえば、ストーリーたちはどうしているだろうか。
<一方その頃、ストーリーは>
「おぉ…なんだこのドロップアイテムは…「ごい! すごいぞブック!」
「これはすごいわストーリー!」
目の前には、夢のようなアイテムが5つ置かれていた。私は、このアイテムたちをじっくりと見つめて、我が妻であるブックと目を輝かせていた。
「ブックは武器の扱いが上手だから…この、"邪獄珠"というやらを持つといい!」
「あら、いいのかしら!」
他にも、"テスカトリポカ物語"、"ミソロジーのかけら汚染の害獣"、"アームウォッチ・洗脳"、"テスカトリポカのフィギュア"があった。私は、草花に感謝しかない。
<草花視点に戻る>
「また会えるといいのだが…まぁ、どっかで再開するだろ」
「ストーリーさんのことですか? 草花様のことを気に入っていたようでした…」
俺たちはこれから、とんでもない悲劇に会うなんて、この頃思っていなかったのだ。




