混乱と混沌の混戦
ささやかな風の音が聞こえ、急に途絶える。その空気感の圧は尋常ではなかった。
「ふはははは、喰らうがいい!」
「毒攻撃…プレス! 鉄で毒を消してくれ」
「…はい!」
プレスの精一杯な返事が聞こえた。小さい毒を鉄が次々と打ち消していく。だが、毒が出る頻度は増していくばかりだ。
「相手は毒属性かぁ…?」
「わからないが、恐らく違う…ミソロジーモンスターにしては威力が弱すぎるだろう…」
能力が洗脳なら、わざとこちらのHPをあまり減らさないようにしてるとも考えれるがな。
「はっ……魔法:邪獄」
「なんだと!?」
辺りが暗い膜に覆われたような感覚を覚えた。冷気がその場に漂い、またもや、俺たちの不安を煽った。その暗い膜は、ただ振り解いただけで消えたが、あの感覚は心の奥底にしっかりと残っている。
「ん…なんだか調子が悪いわね…」
(デバフみたいなものだろうか…技を出す力がフルに発揮できない…)
「魔法:残滅毒杯」
テスカトリポカのこちらを覆ってくるような毒魔法が飛んできた、しかも、今までとは比にならないほどのとんでない威力で。
(間に合わない…こうなったら…)
「魔法:疾風迅雷!」
俺は咄嗟に魔法を出していた。だが、少しだけかすってしまっていたのだ。当たった箇所のヒリヒリを我慢しながら反撃の用意をした。
「大丈夫ですか? 草花様!」
ショコラが俺のことを心配してくれている。かすっただけでとこの威力とは、ミソロジーモンスターとはやっぱり恐ろしいものだ。
「反撃だ…といいたいところだが、魔力が10分の3しか残っていない…きっと6人分の瞬間移動のせいだな…」
「俺たちが攻撃をする! 兄貴は指揮にまわってくれ!」
「そうっすよ! 草花さんのことなら、とんでもない作戦の1つや2つあるっすよね!」
みんなは俺に期待してくれているようだ。それなら、期待に応えなければいけないだろう。俺は頭の回転をより一層早くして情報の整理を繰り返す。
(相手の攻撃方法は洗脳と毒攻撃…持続ダメージが残る毒と洗脳は絶望的に相性が悪い…何か裏があるだろう…)
そのとき、俺の目に映ったものは"洗脳された壊れた石"が毒状態で再生しているものだった。俺は全てを理解した。同時に作戦もできた。これを皆に伝えなければ。
「皆ーっ! あいつ! 相手が洗脳かつ毒状態の時に再生する能力を持っているみたいだ!」
洗脳する能力に、相手が洗脳かつ毒状態の時に再生させる能力。この仮説が正しいとしたら、テスカトリポカは能力が2つあるということになるな。
「つまり! 相手は俺たちを毒状態にさせることが目的だ! 弱った体ならそこから洗脳まで持っていくことは容易だからな!」
全員が納得の顔をしていた。なぜなら、辻褄が合うからだ。俺は、いよいよ本格的な指揮をとった。
「ラティスは異常守護を主体な立ち回りをして、余った魔力で光魔法を打ってくれ! タクリカルは相手の攻撃をできる限り打ち消す役だ!」
「はいっす!」
「わかった!」
次に、プルーリとショコラとプレスに説明をする。特に、今回はプルーリとプレスが要になるだろう。
「ショコラは相手の体を腐敗させて弱体化させてくれ! プルーリは水魔法を少量!」
「わかった! やってみせるわ!」
「はい! 頑張って弱体化させます!」
最後、プレスへの説明だ。いや、これはラティスの力も借りることになる。
「プレスはプルーリの水魔法が相手に当たったところで水魔法を鉄で包み込め! ラティスは未来感知で水と酸素の割合を水2:酸素1の時間を精密に計算してくれ!」
「俺たち…」
「ハードっすね…」
ラティスが異常守護、プルーリが水魔法を発動した。
「魔法: 異常守護!」
「魔法:二段水波動!」
一段だの二段 だのこれはどういう意味なんだ? 俺はそんな疑問を抱えつつ、洗脳されないように気を張った。
「プルーリさん……感謝する」
「何を企んでいるか知らんが、そんな水魔法の1つ後とかでは蚊に刺された程度にも感じない!」
プレスは、細かな鉄で水魔法を少し穴を開けるように包み込んだ。あとは、ラティスの未来感知で決まる。
「いくっすよ…未来感知!」
(水の量が78%、酸素の量が22%…ここ!)
「今、水の割合が約66%、酸素の量が約33%になったっす! プレス! 鉄を封鎖してくれっす!」
水と酸素は、完全に鉄の中に封鎖された。あとは、俺の残された魔力を尽きない程度に使って、テスカトリポカに大ダメージを与える作戦を遂行完了させる!
「魔法:雷!」
鉄はみるみる熱くなり、中の水と酸素がテスカトリポカのSrと化学反応を起こす。
「プレス! 鉄をしまって今すぐこっちに来い!」
「……了解!」
その瞬間、テスカトリポカの体にとてつもない大規模な爆発が起きる。
「うわぁっ!」
テスカトリポカの姿は、すっかり消えていた。島に異常はなし、皆もやけに疲れている様子はなさそうだ。
「倒したの…?」
心臓に響くような不気味な声が聞こえる。辺りが赤、青、黄、緑の壁画で囲まれているようだ。地面も石も店もその壁画の色に伴って変化してきた。俺たち以外の住民は洗脳されている。これが絶体絶命というやつだろうか。
「私を本ッッッ気で怒らせるとは本ッ当に死にたいようだなァ!」
「俺も皆ももう魔力がない…体力もギリギリ…相手は霊体とかそんな括りで表してはいけない存在になりつつあるだろう…」
洗脳されないように、頑張って気を張った。気を張り続けた。それと同時に、壁画の前に大量の毒魔法が発動されたことが、朦朧としていく意識の中で悪夢のような感覚であったがしっかりと確認した。
「姑息な生き物どもめ……終わりだ」
毒魔法が大量に飛んでくる。俺は死を覚悟して体にグッと力を入れた。同時に、張れるだけの気を張った。
「能力応用:笠礼」
どこかで聞いたことのある声が上から聞こえる。俺は瞬時に起き上がった。周りの仲間たちも元気を漲らせている。なんと、体力と魔力が8%だけだが回復していたのだ。
「ふん、クスカよ、お前はこんなとこでやられるやつではないだろう?」
人形の石が昔の笠を頭に乗せて喋っている。
「そうか、笠地蔵ではわかりにくいか……これでいいだろう」
石が一瞬で剥がれ落ちて姿がくっきりと見えた。見たことのある顔に変わった。
「お前…ストーリーか…? 王会議にいた…」
「それは仮の名だ、厳密には違う」
この状況をストーリーが助けてくれた。何故だろうか…徳もないのに。
「ミソロジーモンスターは国で危険視させている、だから助けてやったんだ」
「そうだったのか、ありがとう」
「あ…兄貴…」
タクリカルがこちら側に寄ってきた。他の仲間たちを次々に。
「おぉ、皆…無事で良かったよ」
「さて、笠地蔵の笠はあいつの毒魔法を20秒以上耐えられない…そこでクスカ、次の手を考えてくれ」
俺は、頷いて頭を高速回転させた。情報が頭の中でぶつかり合って、なかなかまとまらなかった。
(あいつの弱点…能力によって洗脳と相性がよくなっている毒魔法…おそらく毒属性か…じゃあ聖系統の魔法を…いや、魔力がない…ならストーリーに頼もう! 仮を作ることもない、それで行こう)
「ストーリー! 聖系統の攻撃は扱えるか?」
「それならかぐや姫が使える!」
ストーリーの背後に月とかぐや姫が現れる。ストーリーの姿はというと、童話でかぐや姫を迎えにきた月の使者の格好をしていた。
「攻めるぞ! 能力応用:月光反射!」
ストーリーの掌から出た月の光線が毒魔法を打ち消した。さらには壁画、テスカトリポカにも直撃して光属性のダメージを与えたのだ。
「ここからやまなしの技が入る!」
「おう! やってくれ!」
ストーリーの手がカニの手に、足が魚に、顔のパーツが消えて、顔がやまなしに置き換わっていた。
「能力応用:正体不明謎概念的存在!」
ストーリーは、自分の体を光で包み、糸のように細い光を無数に出してその糸を無限に伸ばしている。
「能力応用:川蝉投下!」
テスカトリポカは言葉を発しなかった。自分の体が次々と紙のように破かれ続けているのだから。




