宿を出た先
「おはよー…」
「お、おはようございます、草花様…」
「うん……おはよう、ショコラ」
起きてすぐに、荷物をまとめて、ゆっくりと階段を降り、チェックアウトをした。
「あ、不足していた料金をお渡ししておきます」
「え…? 大人が4人…? え…? 4人…?」
戸惑う受付人を放って、俺たちは宿を出た。目に入る限りの島民は、全員疲れていそうな目をしている。
「なんで全員疲れてそうなんだ…?」
「と、とりあえず、アルデスト島を出ましょう?」
俺たちは、用も済んだし、宿にも泊まったし、これ以上ここにいる理由がないので、アルデスト島を出ることにした。
「魔力が回復したから、瞬間移動で行くぞ…」
「……それがいい」
プレスは、あの戦いの後、少し無口になっていた。
「いくぞ……瞬間移動!」
6人分の瞬間移動で、俺の魔力の10分の6(5分の3)が削れた。周りが光で包まれた後、テーマパークのような出入り口前にいた。
「案内人さん! 自分たちもう帰りますっす!」
「はい、じゃあさよなら〜…」
「案内人も疲れていたぞ…この島、どうしたんだ…」
俺たちは、島から飛び降りて、帰りの船に飛び乗ろうとした。だが、島の端を超えた時、向かい風のようなものが俺たちを島の中へ返す。
「うおっ…なんだ!?」
「兄貴、これは…」
「何かが動き始めてるわ…!」
俺たちがそれに気づいた瞬間、石が歩き出し、店はひとりでに壁をへし折り翼のようにして飛ぶ。
「……妙だ」
「何がですか…?」
プレスが短い文を話す。俺は、少し耳をすませて続きを聞こうとした。
「……こんなに広範囲の技が人間に使えるわけがない」
「確かに…ウィークモンスターやリーダーモンスターはおろか、カシラモンスターでもこんなのは不可能っすよ」
人間でも、ウィークモンスターでも、リーダーモンスターでも、カシラモンスターでもこんなことはできないだろう。俺は、瞬時にあることを察した。
「ミソロジーモンスター…?」
「…‥おそらく」
全員が同じ考えだったらしい。俺たちがそれに気付いたと同時に、空も大地も人間も、ありとあらゆるものが赤と青と黄と緑の4色がパズルのように形を埋め合うような色合いになっていた。
「本体は正体を表さないか…」
(まず相手の能力を探るとこから始めようか…万物創造は温存しておきたい…ここは…)
「魔法:謎!」
色々考えた末に、行き着いた結果がこの魔法。謎だ。相手の弱点や能力を探るにはぴったりの魔法だろう。この魔法で分かったことを俺の後ろにいたタクリカルが尋ねてきた。
「兄貴、こいつの能力はなんなんだ?」
「…!」
謎が書いてある紙を収納箱から取り出して内容を確認した。俺とタクリカルはこの内容に驚き、少しの間だけ動けなくなった。
「"選んだ相手を洗脳する能力"…?」
「条件がないなら、トップクラスの能力…そう簡単に攻略完了とはいきませんぜ…兄貴」
選んだ相手を洗脳する能力。それだけでは、周りの世界がおかしくなることはない…それに、石や店も操られていた。もしかして、"洗脳"は生き物に限定しないのか…? 俺は、そんな疑問を頭の隅に置いて、とにかく他のことを考え続けた。
「魔法:異常守護!」
「ラティス! これは?」
「これは、相手の精神的な攻撃を遮断するガードの魔法っす」
ラティスがこの状況にうってつけの魔法を使ってくれたが、この魔法はおそらく長持ちしない。ガード系統の魔法は、魔法発動時に込めた魔力をガードのHPとしてカウントするため、洗脳に何回も選ばれると、ガードは消えてしまうだろう。早めに倒してしまうのが得策だ。
「だが、どうするよ兄貴? まず、相手の実態がないぞ?」
「ないわけじゃないんじゃないか? そうだな…少し探りを入れてみるか…」
相手がどこかに隠れてるのか憑依してるのか、それとも見えてないだけなのか。可能性がどれにしても、タクリカルの能力を使えば当てるのは容易だろう。
「タクリカル、あれだ」
「…あれを使うのか、了解」
タクリカルの能力は、相手の"肉体"が持っているエレメントを感知する、取得だ。
「取得!」
だが、この能力には、エレメントを察知するために条件が必要らしい。タクリカルによると、デメリットもあるんだそう。
(相手の肉体に含まれているエレメントはざっと、Se、Kr、Sr、Y、Pr…)
「含まれるエレメントは"幽体"と同じだ…」
少し遠くから、プルーリの大声が聞こえてくる。
「なら、相手はもう幽体と見ていいのね?」
「あぁ! おそらくだが……聖系統の魔法を使えるやつはいるか? 光や雷でもいい!」
プルーリとタクリカルのコミュニケーションはこう続いた。どうやらこの世界では、幽体にもエレメントが含まれているようだ。
「それならラティスだろ! あと、俺は一応雷属性らしい!」
「……俺もできる」
そうか、プレスも光属性。あまり魔法寄りとは思えないが…今は猫の手も借りたいくらいピンチだ。プレスが猫の手なのかは知らないがな。
「いくっすよ、プレス」
「あぁ」
ラティスとプレスは深く呼吸をした後に、魔法を発動した。
「魔法:一段・粒子光線!」
(一段…? いいや、今は雷魔法を発動することが最優先だ…)
「くらえ! 魔法:雷!」
強烈な光が発生したとともに、どこからともなく唸り声が聞こえる。俺たちは、その大音量の唸り声
を耳を塞いで遮断することしかできなかった。
「おい、地面から何かが出ていったぞ!」
「周りの洗脳も解けていきます!」
洗脳が解けたからか、石も店も人も、地面や周りの景色も元通りになっていく。そんな中、謎の声が全員の耳に入る。
「つまんねーなー」
「誰っすか!」
一体何が起こっているのだろうか…今までのミソロジーモンスターとの戦いよりも状況が複雑だ。混乱中に、俺の目にカラフル何かがふと目に映った。
「やぁ、初めましてクスカくん…」
「一体何が目的だ…?」
(こいつ…俺の名前を…)
俺の目に映ったものは、妙な見た目をしている。鳥のようだが人型とも言えて、なにより、赤青黄緑
の色の体が俺に不気味を感じさせたのだ。
「おっと、敵対意識が強いようだね……私はテスカトリポカ…ミソロジーモンスターさ…」
「テスカトリポカ…」
次はアステカ神話か…と呆れつつも、どこか、俺は「いつもの」を感じていた。
「フフ……」
(しまった…魔法体制に入られた! こんなに間近では完全に避け切ることなんてできない…)
頭がものすごい勢いで回転する。その末に、行き着いた結論は、自分も魔法を繰り出すことであった。俺は早速この作戦を実行する。
「魔法:猛毒連撃!」
(魔法が来た…!)
「今だ! 魔法: 雷!」
自分が発動した魔法の衝撃で、俺は少しだけ後方にふっとばされた。そのおかげで相手の魔法をかわせたようだ。無駄に高い幸運値のおかげだろうか。
「はぁ…私の攻撃をかわせるなんて…よほどの運をお持ちのようで…」
「俺は無駄に運が高いんだよ…」
「草花! 私たちも援護に入ったほうがいいー?」
またもや、遠くから響くようなプルーリの声が聞こえた。俺の口から、咄嗟に返答が出る。
「あぁ! 思う存分! でも、町や島は壊すなよ!」
「了解だ、兄貴」
「いくわよ!」
「ほう…私と戦うと…フフ…命知らずどもめ…」
1つの小さな石の形が崩壊した。ここから、俺たちとテスカトリポカの、本当の戦いが始まっていくのだろう。




