度を軽々と超えた怒り
「……テコォォォォォ!!!」
ラティスが力一杯、喉を枯らして友を思い叫ぶ。だが、無情にも隕石は降るのをやめない。
「あぶないわ! 魔法:大津波!」
「間に合え! 武器攻撃:氷結棍棒!」
波は地をぐるぐると流れ、隕石の勢いを弱める。氷は、その波を凍らせ、隕石の動きを完全に停止させる。
「あんたは私たちが食い止める、草花とショコラの出番はないわ!」
「同じくだ! お前のような冷酷無比は俺たちだけで十分!」
「そんなのはただの見栄っ張りだ、お前ら如きが俺を倒せるわけがないだろう」
プルーリとタクリカルは、本当にやる気だ。だが、正直あのコンビにはあいつも太刀打ちはできないのではないか。まぁ、それは相手の能力や付録効果によるがな。
「魔法:対象瞬間移動」
俺はラティスとプレスをこっちに避難させる。2人とも、動ける体力は微塵も残っていないようだ。
「魔法:万物創造! 擬似魔法:段階治癒!」
「ラティスとプレスさんの傷が、治っていきます!」
「段階治癒は回復量分のまでには時間がかかるが、最大回復量は大きいからな」
ラティスとプレスは意識を取り戻したが、まだ動けるほどではないだろう。一方、プルーリとタクリカルは、テコと激闘を交えていた。
「魔法:水輪!」
「武器攻撃:麻痺棍棒! 余裕だ!」
「隕石を壊せるくらいで、何を調子に乗っている」
壁が破壊され、隕石の如く飛んでいく。その後に、何故か破壊された壁が再生する。これも国滅ぼしメンバーのせいだろうか。
「ここから、本体にも攻撃を仕掛けていくわよ! 魔法:水結晶! 結晶の形をした水の中に閉じ込めたわ! タクリカル! やっちゃって!」
「あいわかった! 武器攻撃:氷結棍棒」
タクリカルが技を発動した後、一瞬にも満たない間に、水は凍って本物の結晶のようになっていた。
「これで、傷は治った…段階治癒が早く効いたようだな」
「ラティス! プレス! この、憎き奴にトドメを刺したいなら、好きにすればいい…無理ならば、俺とプルーリがトドメを刺す」
タクリカルは、ラティスとプレスに、自身でトドメを刺すかどうかを問いかける。
「タクリカルさん、ありがとうございますっす、プレス、いくぞ」
「……あぁ」
結晶には、少しヒビが入り始める。残された時間はもう少ない。2人は、光のように走って同時に魔法を唱える。
「魔法:粒子光線!」
結晶は、粉々に粉砕され、地には赤く、滲んだ液体が飛び散っていた。まさか、プレスもこの魔法を使えるなんて。
「やったっす、テコを倒したっすよ!」
「でも、俺はこの件で国滅ぼしをやめることになる…次の行き場を探すしか…」
ラティスは、ひたすらに喜び、プレスは行き場に迷っている。タクリカルとプルーリはぐったりして、互いに寄りかかる。
「じゃあ、フェロウ王国の国民になるか?」
「……いいのか?」
「うん! それがいいっすよ!」
新たに1人仲間が増えた。歓迎という意味も込めて、今日は宿でパーティでもしよう。
「ここに何時間もいるのはごめんだ、疾風迅雷を使うぞ」
「お願いします!」
「うっ…乗られる人数5人になると重いな…魔法:疾風迅雷!」
俺たちは、国滅ぼしのアジトを抜け、西のウェルデリア、北のジェムデリア、東のニャクデリア、南のキュアデリアへと進み、宿へ辿り着く。
「えーと、6名様でよろしいでしょうか」
「はい、間違いないです」
「子供3名成人3名、1日宿泊で2700チャリンです」
俺は、2700チャリンを支払って、6人で部屋へ向かった。皆の、宿への期待がこもった足音が聞こえる。
「ついた! 2段ベッドにふわふわのマット、大きめの円卓テーブル…豪華だなぁ…」
「プレス、ベッドで一緒に寝よう」
「……おう」
「無口なのか?」
宿について、もじもじする者もいれば、約束を交わす者もいる。俺は、ショコラに話しかけた。
「……ん? どうしたんだよ、もじもじして」
「15歳以上が大人料金で、私、見た目は13歳ですけど…本当は998歳の不老不死…少し心が痛みます…」
「…じゃあ、帰りの時に言おう」
ショコラは、俺の言葉を聞いて少し安堵してくれたようだ。俺はふとアームウォッチを見た。今の時刻は、17時59分。そろそろ宅配が届くはず。
「宅配でーす」
「予想通り来た…はーい」
「こちら、約束のモノになります」
言い方が悪い。ただのエーグリーなのに。しかし、宅配の人はやけに痩せていて、声はかすれていた。ただ疲れていただけなのだろうか。
「重っ…はい、宅配を頼んでおいたんだ…エーグリー」
「美味そうだな…兄貴、どこのエーグリーなんだ?」
「たまご達人のところだ、たまご料理専門店のところな?」
たまご達人のメニューの中でも、美味しそうで程よい値段のものを頼んだつもりだ。実際、エーグリーは名物らしいからな。俺たちは、その後、全員で合唱をした。
「いただきまーす」
割り箸1膳、先割れスプーン1つがついてくるのもたまご職人の工夫なのだろうか。
「ふわふわであっさりしてて食べやすいです!」
「美味しいっす!」
「……美味い」
俺たちは、ワイワイとエーグリーを箸やスプーンで食べ終わって、次に風呂に入る。
「兄貴、今は19時だ、21時くらいに消灯するとして、20時までには風呂を済ませたいぞ」
「そうだな、プルーリ…は魔力を温存してるし、風呂は絶対に使わないとか…じゃあ、2人ずつで入るか?」
「自分とプレスは一緒に入るっすよ?」
プレスは、照れ隠しにラティスとは目を合わせずに風呂へ入っていった。
「私、タクリカルと一緒に入るわ」
「…? あぁ、そうするよ」
「じゃあ、残りは…私と…」
「え?」
つい、マジトーンで震えた声が出てしまった。俺は、とても驚いてしばらく動くことができない。ショコラも、頬を赤らめて放心状態に陥っていた。時計のチクタクする音が耳に入ってくる。
(……はっ! 今何分だ!? 19時18分…)
「ふー…いい湯だったっす」
「気持ち良かった」
ラティスとプレスは風呂から上がってきた。すかさず、プルーリとタクリカルは一緒に風呂に向かった。
「ちょっと長引いて、45分くらいまで入りましょう…2人きりでいたら、ショコラがのぼせるかもしれないから」
「そうだな、兄貴が耐えられないだろうから」
プルーリの鼻歌が扉越しから聞こえる。俺もショコラもいまだに現実を直視できていない。
「私、スライムだけど、シャワーは気持ちいいわね…」
「人間の技術はすごいよなぁ…本当に」
「さて、そろそろ43分になるし、お風呂から上がりましょう」
もう43分。風呂から上がる足音が聞こえる。俺は顔を上げて、体育座りをやめた。
「く…草花様…行きましょう…?」
「う、うん」
俺とショコラは、やや早歩きで扉を開けて、風呂に向かった。
「ショコラ……湯…どうだ……?」
「……い、いい湯ですよ…」
「なんで、肩まで湯に浸かっているのに俺たちは顔を合わせていないんだ?」
俺は疑問を投げかける。恥ずかしく、気まずい空気が流れ、ほんの少しずつ後退りする。
「うわっ! なんだ!?」
後退りを続けていくと、ショコラの、後ろで結んでいた髪が俺に当たる。思わず、振り向いてしまった。
「ひゃっ!」
「あ、ごめん!」
「あ…」
俺とショコラはうっかり目を合わせてしまった。互いに赤面させて、すぐに後ろを向いた。もう52分だ。早いが、もう耐えられないので、出ることにした。
「もう出よう、7分くらいしか入ってないけど、シャワーはもう済ませたし…」
「そ、そうですね、草花様、先に上がってください」
2人とも着替えて、俺はげっそりとして風呂から出た。ショコラは、背筋がピンとしている。だが、俺のことを流し目で見て、俺と目があったら、目を逸らしてを繰り返していた。
「疲れた…」
俺たちは、すぐにベッドで寝た。2段目では、プルーリがラティスとプレスの隣にいたので、親のように見えた。俺がベッドで寝そべったのは1段目のベッドで、ショコラが隣でずっと俺を見つめている。
「俺、もう寝るから」
「……」
俺が寝た瞬間、懐に、冷たいけど、どこか暖かい、人の体が優しくぶつかるような感覚を覚えた。




