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第2話 その男、最低ゲス野郎

 雲一つない晴天。トンビだか鷹だかが空を気持ちよさそうに飛んでいるのを見る俺の心は、いつ雨が降ってもおかしくないどんよりとした曇り模様。


 ──デロンド・ゲシュタル。


 それが俺が転生した男の名前らしい。

 ゲシュタル家はこの国でも有数の貴族家で、そのトップがこの男というわけだ。

 これだけなら転生先としてはこの上ない優良物件ではあるのだが……。


「お風呂に入りたいのですが、お風呂をいただけますか?」

「ひゃ、ひゃい?! お風呂でございますか!?」


 俺がメイドらしい女の子に声をかけると、その女の子は不意をつかれたような声を出した。

 声をかけたメイドだけでなく、周りにいる皆が一様にキョロキョロとし始める。


 この世界にはお風呂という文化がないのだろうか?

 衛生管理の程度はその時代や国、文化によって大きく変わる。ましてやここはたぶん異世界。なくて当然、あったらラッキーといったところだろう。


「(風呂がなかったら嫌だなぁ…)」


 たしかにこのデロンド・ゲシュタルという男、異様に臭い。自分の体臭は、本人にはわからないと聞いたこともあるがこれは異常である。肌もギトギトして、よくコレで気持ち悪くないなと感心する。ずっと風呂に入ってないだろうということはすぐにわかった。

 しかしメイドたちは汚いわけでもなく、逆に清潔感さえ感じる。


「す、すぐにご用意します!!」


 俺が話しかけたメイドは勢いよく頭を深く下げ、慌てた様子で駆けていく。周りにいた手伝いの者たちも忙しなく動き始めた。


「(どうやらお風呂はあるらしいな)」


 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、お風呂に通された俺は驚愕する。

 お風呂は大理石でできていて、とても大きい。ただそんなことはこの屋敷のサイズ感から考えたら、特に驚くことではない。俺は別のことに驚愕していた。


「ななな!?」


 湯船には10人の裸の女達が待っていた。

 女たちは俺の驚いた顔に戸惑っている様子でこちらを見たり、互いの顔を見合わせたりしている。女の1人が戸惑いつつも口を開いた。


「“風呂に入る時は女を10人は用意しろ”とおっしゃってましたので…」


 コイツ…。

 俺が転生したデロイド・ゲシュタルという男は、なんていう暮らしをしてるんだ。

 いや、もしかしたらこの世界の貴族というものはこういうものなのかもしれない。

 俺がいた現実世界でだって、金があるやつはこういうことはしているだろうし、金持ちの道楽の一つか…。


「だから、あのメイドは戸惑ってたのか…。急に10人も女を用意しろと言ったようなものだもんな」

「い、いえ。ゲシュタル様がお風呂を用意しろと言ったことに驚いたのかと」

「?」

「…失礼ですが、ゲシュタル様は入浴がお嫌いで、一年に一度決まった日に入るのみでしたので」

「?! 一年…?」

「今年の入浴が半年先の予定でしたので」


 半年も風呂に入っていないのだ。臭いわけだ。

 女たちは湯船からスルスルと出ると、俺の手をひき湯船に誘導する。

 タオルで石鹸を泡立て、慣れた手つきで俺の身体を擦り始める。


「お、俺、自分で…ひゃ!」


 気持ちこそばゆく、変な声が出てしまう。

 よくよく見たらここにいる女性たちは、人間だけではないようだ。

 耳がツンと尖っている美女はエルフだろうか?

 金色の長い髪がなびくたびに、明かりを反射し、太陽の陽をうけた川のせせらぎのようにキラキラと光る。


「綺麗…」


 俺がそう口から漏らすとエルフの女性は「ふふ」と微笑みかけてくる。

 すると横にいた女性──こちらは人間だろうか?が大きな胸を俺に押し付けて来る。


「う…!」


 気持ちよかった。あれやこれやと致され、体の垢はとれ綺麗になった。ギトギトだった髪もこれで気持ち悪くない。匂いも幾分かマシになるだろう。

 転生したのがイケメンならよかったのにと内心思っていた。しかし生前の俺の上司もハゲで太ったおじさんだったが、清潔感があって女性社員からも人気があった(まぁ妻子がいて、それを大事にするような人柄ってのも大きかったが)。俺はその路線で行こうと強く決意する。


「(異世界、悪くないかも)」


 そんなことを思いながら風呂を上がろうとすると、一緒に風呂に入っていた女性達が俺の前にずらっと並ぶ。


「お選びください」


「??」


 わけがわからなかった。皆、真剣な面持ちで立っている。

 一人は泣きそうな顔で。一人は固く口を結び下を向いている。


「選ぶって…?」


 エルフの女性が口を開く。


「私たち奴隷の中の…誰を捨てるかです」


「!?」


 …奴隷。そうかこの人たちはこの男の奴隷だったんだ。

 この男に買われ、ここにいる。


 小柄な女性が声を絞り出す。


「ゲシュタル様の、い、一年に一度のお風呂の日、一緒に入る奴隷の中からいらない奴隷を、捨てるんですよね」

「捨てられた女の子は、みんな…」


 今にも泣きそうな女性が声を振るわせながらポツポツとそう呟くと、皆が恐怖で肩をすくめた。


 俺はなんて馬鹿だったんだ。


 異世界が悪くないかもって?

 前言撤回だ。


「選びません」


 俺がそう小さく呟くと、泣いていた女性が顔を上げた。

 エルフの女性も困惑したような表情をしている。皆が俺の次の言葉を待っていた。


「ここにいる誰も、俺は捨てません」


 胸糞悪い。

 お風呂に入ってないとか、贅肉だらけとか、そんなのどうだっていい。


 奴隷を買い飽きたら捨てる。捨てられた女性がどうなるかは、こんなことをしてでもここに残りたいと思うほど、悲惨なのであろう。

 デロイド・ゲシュタル…こいつ最低ゲス野郎だ。


 ──俺はそんな最低ゲス野郎に転生してしまったんだ。


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