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それから数日間、老人は時々小指の欠損した少女のことを考えて過ごした。しかし彼にはもう彼女に何かしてやれる術がなかった。そしてあのピアノがもう聴けないのだと思うと、やはりそれなりに残念だった。
何日か経った夕方、老人はいつものように散歩をし、なんとなしに少女の住む家のある路地を通った。特に少女のことを意識したわけではなく、単にいつものルーティンとしてそこを通ったのである。
すると、少女の家の前に先日会ったおばあさんが立っているのが見えた。
「こんに――」
老人がにこやかに挨拶しようとすると、おばあさんがそれに勢いよく言葉を被せてきた。
「ああ! ああ、良かった! この時間に、またそのうち通られるんじゃないかと思っておりました!」
「はい?」
老人は面食らった。このおばあさんは私が通るのをここでずっと待っていたのだろうか?
おばあさんは皺の多い、相変わらず化粧の濃い顔を強ばらせて、叫ぶように言った。
「あの、先生! また孫に会ってお話してもらえませんでしょうか!?」
「はい?」
「あの子、こないだ先生にお会いした次の日から、学校に行きはじめたんです。先生のお話に元気づけられたらしく……お願いします。このままいけばあの子、不登校を止められるかも知れません」
そこまで言うとおばあさんは腰を折ってお辞儀をした。老人はかあっと、体が熱くなるのを感じた。
「そうですか! それは良かった。そういうことでしたら、またおじゃまさせていただきます」
おばあさんはさっと頭を上げると、ありがとうございます、……ありがとうございます、と繰り返して両手で顔の下半分を覆った。




