表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

2面性

 半ば強制的に近くにある公園のベンチに座らせられ、知らない女性とお話をすることになった。


「あのー、さっき急いでるような雰囲気出してませんでした? それに何で僕を呼び止めたらなんかしたんですか?」


「あー、あれはどうしてもジュースが飲みたくてね。走ってコンビニ行ってきた。呼び止めたのは、お話しをしたかったから。」


 カシュッ ゴクゴク


 彼女はジュースを飲みながら答えた。本当に飲みたかったのか、嘘なのかはわからない。みんなが急に帰りだした理由も不明なままなので、どちらにせよ彼女は信用ならないと判断した。


「ぷはーっ。さてと、私の名前は己恋(ここい)(れん)。キミは?」


「知らない人に個人情報を言うわけないじゃないですか。幼稚園児でも知っている常識ですよ。」


 プシュッ ゴク


 僕も同じようにジュースを飲みながら彼女に対抗した。彼女はこの状況を楽しんでいるのか…笑顔で僕のことを見ていた。


「そんな事言わずにさ。教えてよ。」


「そうですね。己恋さんの住所と電話番号を教えてくれたら考えてあげてもいいですよ。」


「え! は、恥ずかしいな。もしかして私に異性としての興味がある?」


「いやいや、そうじゃなくてですね。住所と電話番号を聞いたのは、もしもの事態のための保険です。みんなが急に帰りだしたのがあなたたちの仕業だったとしたら怖いですし。」


 僕と己恋さんが探り合いをしていると、青年の冷静さと怒りが混じった声が割り込んできた。


「いい加減にしてください。」


 おそらく僕たちの言い争いに耐えかねたのだろう。彼は僕のことを睨んで「少し黙っていろ」と威嚇してきた。


「いつまで茶番劇をするつもりですか。これ以上は時間の無駄です。ここから先は自分がやります。」


「いや、でも今こうやって…」


「公園でお茶会してるだけじゃないですか。」


 己恋さんの反論は青年によって容赦なく叩き斬られ、彼女は完全に黙ってしまった。彼は僕の方を向き、淡々と語りはじめた。


荻原(おぎわら)(まこと)白華(しらばな)高校2年生。5年前に当時19歳の(もり)和恵(かずえ)さんを()()()()()()()()()()()殺害。彼女の住む木造一軒家の合鍵を所持していたことや首にかけられていた紐からお前の指紋が検出されたこと、服用したと思われる睡眠薬の小瓶がお前の家の机の引き出しから発見されたこと。以上の証拠により逮捕。取り調べでは殺害は認めるも、犯行理由については黙秘。逮捕されてからは約1年間少年院で生活。模範囚と言われるほど真面目だったそうだな。」


 彼らは知ることができないはずの情報を知っていた。この事を知っている人などいないだろうと思っていたので、僕は黙っているしかなかった。それをいいことに彼は語り続けた。


「逮捕された当時は小学生ということもあって世間にお前のことが報道されることはなかった。両親と妹は少年院から出たお前を心よく受け入れたが、近隣には黒い噂が広まっていた。今までの生活ができなくなったため、東京都千代田区から事件を知る人物がいない神奈川県伊勢原市に移住。お前の罪についてはこんなところか。」


 僕のことを想像以上に知っていた。ほぼ全ての真実を知られている。僕は恐る恐る口を開いた。


「お2人は記者か何かで? 今頃僕から事件の情報を聞きだして特集記事でも組むつもりですか?」


 青年は己恋の方にチラリと目をやり、彼女が何も口出ししない態度をとっていることを確認した。


「いや、記者じゃなくて"警察"だ。それに聞きたいのは現在この近辺で起きている事件についての情報だ。」


 驚くべきことに2人の正体は警察だった。確かめる術はないが、和恵さんに関する情報(あの事件)を知っている、知ることができる人物は限られている。おそらく本当なのだろう。言われてみればそういう雰囲気をまとっている。


 このとき僕は過去に取り調べを受けた際のことを思い出していた。特に捜査に熱心だったあの2()()()()()()のことを。


「今起きている事件について…ですか?」


 彼はそうだ、というように小さく頷いた。


「昨日この近辺の銀行で強盗事件があったのを知っているな?」















「何も答えることはねえよ。馬鹿が。」


「なっ…!」


 彼らのことを最大限煽るように、笑みを浮かべながら答えた。青年の方は期待通りの反応を示してくれた。


「ようやく本性を見せたね。」


 己恋さんは本当の僕を引き出せて嬉しそうだった。期待外れだ。しかし、彼女は得体の知れない相手だったので、薄々そんな気もしていてた。


「いつから自分の方が優位に立っていると勘違いしていたんだ? ペラペラと話してくれてありがとう。」


 貰った缶ジュースの最後の一口を飲み終えると、立ち上がり缶をゴミ箱の中に投げ入れた。


「僕は聴きたい強盗事件の情報を知らなので、これで失礼します。」


 軽くお辞儀をして歩き出した。


「待て、犯罪者!」


 チラッと青年のことを見たが、彼の言葉は心に響かなかったので無視して歩き続けた。


「いいの?今のままで。」


 このまま去るつもりだったが、己恋さんの言葉で僕はピタリと足を止めた。


「君には本音で語り合える人がいない。だから君を見てると思うんだ。君は心から信頼できる人を、()()()()()()()を求めている。違う?」


「あなたに...何が...」


 彼女に核心を突かれた感じがして心がイラついた。もう何も喋らないつもりだったが、つい反応してしまった。


 僕が振り向くと名刺が投げられてきた。彼女は連絡先が書いてある名刺を投げてよこしてきたのだ。急にだったため、慌ててキャッチした。


「ヘイ!ウチは今人材募集中なんだよね。人生を変えたかったらいつでも連絡してきて。」


 名刺には以下の内容が書かれていた。


"警視庁 心理犯罪対策部 己恋戀"


「警視庁...。おい、あんた!」


 名刺に気を取られている隙に2人はどこかに消えてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ