お誘い
みんなとの下校の途中でパトカーのサイレン音がたくさん聞こえてきた。今までこんなことはなかったので、僕は音の鳴る方が気になっていた。
「何か事件でも起きたのかな?」「どうせ大した事ねえだろ。」「でもパトカーの数多くね?」「早く帰ってゲームしようぜ。」
僕はみんなとの会話に適当な返事をしながら辺りを見ていた。そのせいで前から歩いてくる人に気がつかなかった。
ドンッ
「あれ?」
僕は気がついたら後ろに倒れていた。尻もちをついていて、視界には僕の他にあと2人分の足があった。数秒の間何が起こったのか理解できなかった。
「お、おい。大丈夫か?」
みんなが声をかけたことで僕は我に帰った。やがて気持ちの整理がつき、見上げるとぶつかったのが女性であることを知った。
「ごめんごめん。私ちょっと余所見しちゃってたからさ、ごめんよ!」
「何度謝るんですか。もう行きましょう。」
彼女は手を合わせてペコペコと謝ると、手を差し出してきた。僕は彼女の手を握り、力を借りながら立ち上がった。もう1人の青年はスマートフォンを操作しながらこちらをチラチラと見ていた。何か用事があるようだから、僕を急かしているのだろう。僕が立ち上がったことを確認すると、2人は足早にそのままどこかへ去っていった。青年は何事もなかったかのように歩いていたが、女性の方は何度か振り向いて「ごめんよ」と伝えてきていた。
「何だったんだ?」「さあ?」「まあ、怪我してないんだろ?」「行こうぜ。」
女性がいなくなった後、みんなと一緒に歩き出したが僕はぶつかって倒れたときのことを考えていた。
(見上げてあの人と目が合ったとき、僕はどんな顔をしていただろうか? まさかぶつかっただけで倒れるなんて考えてもいなかったな。それにあの男の見下ろしてるときの目ときたら。ははは...ダッサ。)
「おーーい!さっきのキミーー!」
しばらく歩いていると、突然背後から大きな声で呼びかけられた。
「なん…え?」
振り向くとついさっきぶつかった女性が走ってきていた。それから遠くにあの青年。彼女は僕らに追いつくと、今買ったであろう缶ジュースを1本僕に差し出した。それから僕を予想外の展開へと誘ってきた。
「ねえ、キミ暇でしょ。そこの公園でちょっと話さない?」
「はい?」「何なんだこの人。」「警察に連絡した方が…。」
あまりにも突然だったので、みんながザワついてきた。僕としても断るつもりだったが、次の瞬間目を疑うような事が起こった。
「お誘いは嬉しいですけど、この後用事が…」
「他のみんなは暇だって。みんなで一緒にお話ししよ。」
彼女がそう言うとみんなが急におかしくなった。ある者は「塾に行く」、ある者は「買い物をする」と言って帰りはじめた。やがて全員居なくなり、僕と謎の2人組だけになった。
「みんな暇じゃなかったみたい。じゃあ、お話ししようか。」