目覚め
夕焼けに照らされた彼女の姿…
机に並べられた証拠品…
警察署内の冷たい牢獄…
周りの人間からの疑惑の目…
またこの夢か
ピピピ ピピピ
「僕の人生はあの日からずっと孤独で退屈だ。」
午前7時
スマートフォンのアラームで僕は目を覚ました。それでも起き上がる気力が湧かなかったため、しばらく部屋の天井を見つめていた。しばらくすると1階から大きな声が響いてきた。
「ちょっとーー!早く起きないと高校遅刻するわよ!」
「母さん、そんな大きな声を出さなくても。もう起きてるよ。」
1階にいる母に返事をしながら、ゆっくりと体を起こした。部屋に射し込む太陽の光をたっぷりと浴びて、ぐ〜っと背伸びをした。
1階の居間では父と母、妹の希が壁に掛けてある教会のシンボルマークに向かって祈っていた。僕も急いで顔を洗い、祈りをはじめた。しばらくの沈黙の後、やがて父がパンッと手を叩いて音を鳴らす。それを聴くと僕たちは祈りを終えた。我が家では父が手を叩いたら終了の合図なのだ。
祈りの後はみんなで食事をする。朝の報道番組ではこの近辺にある銀行で起こった強盗事件について報道していた。犯人の男は拳銃を所持したまま逃走中で、現在は行方をくらましているらしい。
「いやー、やはりお祈りをすると気分が晴れるな!ご飯が美味い!」
突然にニュースの音をかき消すように父が大声で話しはじめた。犯罪や災害などの悲しくて恐ろしい話は情報として聴きはするが、家の雰囲気を暗くしないように明るく振る舞うというのが我が家の規則なのである。
「うん。お兄ちゃんもすっかり参加するようになったしね。やっぱり家族みんなでの方がいいよ!」
「そうね。やっとお祈りの大切さに気づいてくれたわ。」
「まあね。」
いつもの何気ない会話。いつもの美味しい食事。いつもの平和な登校。いつもの楽しい学校生活。
昼の休み時間になると学校全体が騒がしくなる。お昼ご飯はみんなで食べるため、特に僕の周りはいつも賑やかだ。おかずの交換やふざけあい、なんとも高校生らしい光景である。
ガララッ
「おーい、みんな!廊下にこの黒いハンカチが落ちてたんだが、誰か見覚えあるやついるかー?」
昼ご飯を食べていると急に担任の先生が入ってきた。どうやら黒色のハンカチの落とし主を探しているようだ。みんなは黙って知らないアピールをしているが、おそらくだいたい誰の物なのか予想できているだろう。実際僕もそうだ。クラスにいる隠キャのメガネ女子藤谷さんの物だろう。わかってはいるが、親しくもない彼女のために手を挙げる人はいない。
そして彼女はというと緊張と恥ずかしさからだろうか…手を挙げられずにいた。こうなると僕の出番である。
「はい、先生。それ僕のです。」
僕は手を挙げて先生に自分の物だと伝えた。僕を信じた先生からハンカチを受け取って、それを藤谷さんへ渡した。
「どうぞ。これはあなたの物でしょ?」
「ヒューヒュー」「やっさしいー!」「よかったなー藤谷!」
彼女はハンカチを受け取りながらコクリと頷いた。小声でお礼を言っているようだったが、みんなの茶化す声でそれは聞こえなかった。
(午後の授業は体育と英語か…。)
キーンコーン カーンコーン
午後の2科目の体育と英語が終わると、みんなは帰宅モードになり、急いで準備をしはじめた。ほとんどの人が早く帰りたいのである。僕も帰りの準備をしていると、外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。