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猫と話をさせてくれ  作者: ポン酢
ロープと猫缶
9/25

ロープと猫缶⑦

 俺は今、物凄く理不尽な気分で、猫を眺めている。


その猫はと言うと、恍惚とした表情で、俺が買ってきた猫缶を食っている。


もっちゃもっちゃと、ゆっくり味わいながら、食ってる。

あんなに腹を空かせていたから、ガツガツ食うのかと思ったら、意外と上品だった。


言葉遣いは荒いのに、変な猫だ。



「う~む♪やはりゴールドは格が違うな。悪魔的な旨さだ。」



器を綺麗に舐めとり、手と舌で口の回りを拭うと、猫は満足げにそう言った。


悪魔的な旨さって何だよ?

俺には今、お前が小さな悪魔に見えるよ。


猫の足元には、青い花柄の小さな子供用の茶碗があった。

脅されて買ってきた茶碗だ。



「で?次はどれを食うんだ?」



俺は半ば諦めたように、言った。


しかし猫は、黙って寝転んで寛ぎだした。

どこまでもマイペースな奴だな。



「お~い、猫~。」


「うるせーなー、余韻を楽しませろよー!」



本当にわがままだ。


理不尽だな~と思いつつ、俺は黙って猫を観察していた。

納得はいかないが、何故だか嫌でもなかった。


伸びきったまま、目を閉じていて、たまに鼻や口元がひょこひょこ動く。

腹の皮が、規則正しく膨らんでは萎んだ。


ふと、触ってみようかと思った。


誘惑に負けて手を伸ばしたが、猫はすぐに目を開けて、ぎろりと睨んできた。



「な、何だよ?」


「お前、俺をさわろうとしなかったか?」


「してねぇよ。」


「ふ~ん。」



納得したのかしないのか、猫はそう言うと体を起こし、綺麗に座って、姿勢を正した。



「もう、帰っていいぞ?」


「え?後の猫缶はどうするんだ?食べないのか?」


「1度に全部、食ったりしねぇよ。何事も、足りないくらいでちょうどいいんだよ。」


「なんだよそれ?」


「いいか?今、全部食うこともできる。」


「うん。」


「だが、食ってしまえば、それで終わりだ。この後、3つ食ったのと同じ位の喜びがいつ来るか解らない。」


「うん。」


「だが、1つずつ食べれば、3回楽しめるし、猫缶1つ分の幸せなら、3つ食ったときの幸せより、今後巡り合う可能性が高い。」


「うん?」


「3つ食っちまった幸せを覚えていたら、次に1つ分の幸せが来ても、物足りなくなるだろ?」


「そうかな?」


「多分、そうなる。」


「ふ~ん。」


「だから今日はもういらねぇ。」



猫の考えていることは、わかるようで解らず、しっくりこない感じがした。


でも、猫がいいと言うなら、それで良いのだろう。



「じゃあ、帰るよ。」


「残りの猫缶はとりあえず持ってけよ。」


「は?俺が持って帰ってどうするんだよ?」



帰ろうと立ち上がった俺に、猫は猫缶を持って帰れと言った。



「さっきも言っただろうが、猫が猫缶、どうやって開けるんだよ?」


「いや、でも、、、、。」


「また明日、お前が持ってこい。そんで俺に食わせろ。」



俺は黙って、猫を見つめた。


猫も、黙って俺を見上げていた。




「明日、またお前が俺に食わせるんだ。」




猫はそう、繰り返した。


とても静かな声だった。



「別に良いだろ?明日、1缶、明後日、もう1缶。それで終わり。簡単だろ?」



素知らぬ感じで猫はそう言った。


俺は猫缶を袋に戻すか悩んでいた。

ぎゅっと握ったビニールは、それなりの重さがあり、カサカサと小さな音を立てていた。



「お前が、その袋に入っているものを、今日、使うってんならそれでいい。でも、猫缶は持って帰れ。お前の買ったもんなんだから。」



袋に残っているものの事を指摘され、俺はかっと顔が熱くなった。


置いてある猫缶を掴むと、俺は何も言わず、振り返らず、足早に草むらを後にした。



ただ、ただ、無心で家に帰った。


部屋に入り、鍵を閉めた俺は、言い様のない気持ちで溢れていて、その場に踞った。


足元には猫缶が転がり、すがるように掴んでいるビニール袋には、ロープが入っていた。

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