表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と話をさせてくれ  作者: ポン酢
ロープと猫缶
7/25

ロープと猫缶⑤

 ホームセンターは意外と込み合っていた。


え?不用不急の外出ってしたらダメなんじゃなかったっけ?

何故か子供が走り回る店内を見て、俺は拍子抜けした。


あれ?世の中、生存の危機に瀕してるんじゃなかったのか?

危険はもう、なくなったのか?


子供のはしゃぐ声の裏、店内放送が感染のリスクを語る。


誰の耳にも入っていないそれは、日本語なのに、異国の音楽か何かのようだった。

もしくは、お経や祝詞のように、必死に見えない何かを鎮めようと唱えられている様に聞こえた。


いくら祈っても、守るべきものがこれでは、守りようがないだろうけれども。


もう、俺には関係ないけれど、その祈りをありがたく受け取ろうと思った。



とにかく、買うものを買って、さっさと出よう。

俺はまず、猫缶を探しにペットコーナーに向かった。


猫缶はめちゃくちゃたくさん種類があった。


高いのと言われたが、どれが良いのか解らない。

猫はそれなりの大きさがあったし、高くてもあんまり小さいと食い出がないだろうし、大きければ良いって訳ではないだろうし。


悩む俺に、誰かがぶつかった。



「あ、すみません。」



反射的にそう言ったが、相手のオッサンは舌打ちして、



「ぼさっと立ってるな!不用不急の外出しやがって!!感染広めるな!」



と、言って、持っていた消毒薬を吹き付けてきた。



「ちょっと!何するんですか!!」


「お前らが出歩くから感染が広まるんだ!消毒してやったんだからありがたく思え!!」


「私は用があってきました!今日まで1週間ほど出歩いてなどいません!」



信じられなかった。


何なんだ?この人は?!

と言うか、そう言うお前は何なんだ?!と思った。



「てめえが悪いのに言い訳するな!」



言い返されて頭に来たのか、オッサンは大声を出しながら、また消毒薬を吹き付けてきた。


さすがに頭に来て、どうしてやろうかと思ったその時、



「こっちです!警備員さん!ここでまた、暴れています!」



女の人の声がした。


マスクのせいで少しくぐもった声だった。


その声にオッサンは舌打ちして、素早く逃げようとしたので、俺は逃がすまいと行く手をふさいだ。



「邪魔だ!!」



オッサンは猿みたいな勢いで突っ込んできて、俺はひっくり返った。


ひっくり返った俺の脇を、店員さんと警備員さんが駆けていく。



「大丈夫ですか?」



そう言われて顔をあげると、同い年位の女性が覗き込んでいた。


「お怪我はございませんか?」


彼女は起き上がるのを手伝ってくれようとしたが、その時急に、猫に臭いと言われたことを思いだした。



「だっ大丈夫です!すみません!一人で立てます!」



俺は慌てて立ち上がり、女性と微妙に距離を取った。

心の底から、今度出歩くときは、風呂に入ってからにしようと思った。



「ごめんなさい、近寄られたら嫌ですよね?」



思わぬことを言われ、俺は慌てて顔を上げた。


女性は白衣を着ていた。


マスクの上から覗く目が、申し訳なさそうに俺を見ていた。



「違うんです!俺、昨日、風呂に入ってなくて!臭かったらと思って!!」



勘違いさせてしまったと慌てた俺は、ついうっかり、本当の事を言ってしまった。

(正しくは数日、入ってないんだけどね)


そう言うと、女性はきょとんとした目をした後、笑ってくれた。



「よかった。最近はお釣りを触られるのも嫌がる方がいらっしゃるので、何か色々申し訳なくて。」


「大変なんですね。」


「それだけ危機意識が高いって事なので、良いことだと思ってます!

 とはいえ、他の方に消毒薬をかけてくるような方は困るのですが。」



女性は屈託なく、そう言った。


何か眩しくて、自分がみみっちく思えた。

居たたまれなくて、誤魔化すように話題を探した。



「…このお店、薬局があるんですか?」


「申し訳ございません。当店には調剤薬局はありません。ドラッグストアーと同じ市販のお薬があります。何かお薬をお探しですか?」


「いえ、俺は猫缶を買いに来てて…。」


「猫ちゃんがいるんですね!羨ましい!」


「い、いえ、知り合いに買ってきて欲しいと頼まれただけで、、、。」


「そうなんですね!係りの者にご相談されますか?」


「い、いえ、大丈夫です。」


「承知致しました。この度はご迷惑を御掛けしまして、申し訳ございませんでした。後でお怪我など見つかりましたら、ご相談下さい。」



彼女はそう言うと、綺麗に45℃のお辞儀をして、去っていった。


訳の解らないオッサンと、マスクで顔のわからなかった優しげな女性はいなくなり、俺はまた、たくさんの猫缶の前に1人、頭を悩ます事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ll?19071470r
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ