逢いたい時に猫はいない⑥
「にしてもあのアンタがねぇ~。」
師匠はゆらりと動いた。
その優雅な動きを見ると、気品だなんだと言われても仕方ない気すらする。
だが猫は、フンッとばかりに顔を背けた。
それを美しい妖猫は笑う。
「随分、若いのを可愛がってるじゃないかい??宗旨替えかい??」
そう言ってニヤッと笑った顔を猫は見た。
そして悟った。
このババア!全部知ってやがる!!
「……いつから見てやがった?!」
「フンッ、こっちが気配を出してやらなきゃ気づかないようじゃ、アンタもまだまだだね。」
「うるせぇ!!後、一年もすりゃ!!ちゃんと尻尾は割れる!!」
「そうかいそうかい。」
「クソッ!!後少しだったのに!!何で今更、俺の前に現れやがった!!」
「そりゃ、その後、少しだからさ。たとえアンタみたいな下品で出来の悪い見習いだって、アタシが受け入れた子だ。見届けるまでが師となった者の務めさ。」
「ぐぬぬ……っ!!」
下品だの出来が悪いだの言われ、猫はフウッと体を膨らませた。
だが、言われた事の意味を考えれば、悪くない話だ。
「……って事は、もう直ぐなんだよな?!」
「ふふふっ、さぁてね??だが、その間際ってのはとても危うい時期さ。猫又見習いは数多くいても、猫又はそんなに見かけないだろう??」
怪しく笑って師匠は猫にそう言った。
その言葉に猫の表情は固くなる。
確かに同じ猫又見習いには何度か会った事がある。
だが、猫又とは殆どあった事がない。
正直、自分とてこの師匠に会えた事が奇跡だったと思っていた。
「………何がある?この先に、何があるんだ?!」
「何もないさ。」
「嘘をつけ!!だったら何で猫又は少ない?!何でアンタは見届けに来た?!」
「言っただろう??猫又になるってのは、古来より格式のある存在に変わるって事さ。存在が変わる時、アンタが何を選択するか、それが答えさ。」
「存在が変わる時、何を選択するか、だと?!」
「ふふふっ。思ったより、まだ時間がかかりそうだね?」
師匠である猫又はそう言ってふわりと宙を舞った。
普通の猫では考えられない跳躍で、遠くにストンと降り立つ。
「ま!待て!ババア!!選択って何だ?!」
猫は慌てて声をかけるが、追いつく距離ではない。
月を背に、二本の尻尾が揺らめき、笑った。
「自分で考えな、小童。その時が来ればわかるさ。じゃあね。」
そう言うとその影は、夜の闇の中に消えてしまった。
残された猫は悔しさと苛立ちで頭がおかしくなりそうだった。
「チックショウ!!今に見てろ~!!ババアめ~っ!!」
遠吠えならぬ、猫の叫びが月明かりの中に響いて消えた。




