逢いたい時に猫はいない④
「あら、ずいぶん乳くさいのがいるじゃない?」
「…乳臭ぇ訳ねぇだろ。」
街灯と人工物が作り出す、幾何学的な影の中を走っていると、何の前触れもなくその声が響いた。
足を止めて、声の方を睨む。
わざとなのか、街灯のない夜の中に声の主はいた。
ご丁寧に月を背にして、高い位置からこちらを見下ろしている。
「やだわ~口汚い。」
「うっせぇな~。」
「ずいぶんね。口のきき方を思い出させてあげようか?」
そう言って笑う逆光の影は、ゆらりと二又に別れたしっぽを揺らした。
面倒くせぇ。
非常に面倒くせぇ。
耳を後ろに立て、身を低くする。
本当に面倒くせぇ。
しばらく睨みあった後、吹き上げた風に埃が混ざって、思わず盛大なくしゃみをした。
「へっぶしゅ!!」
「…本当、相変わらず品がないわね。」
そう言うとそいつは、ひらりと音もなく真横にいた。
「やだも~!元気にしてたのかい?!」
「あ~!うっせぇ~!近寄るな~!」
「少しは大人になったかと思いきや、まだまだガキだね。鼻水たらして。」
けたけた笑うそいつに顔を嘗められそうになって、慌てて距離をとる。
「寄るな!年増ぁ!!」
「……やはり、口のきき方を思い出させてあげようか?」
「…遠慮します。」
少し不機嫌そうに2本のしっぽを揺らす相手に、仕方なく礼を尽くす。
「…ご無沙汰しております。師匠。」
「なんだい、まともな口もきけるようになったかい。」
「あんたが叩き込んだんだろ!面倒くせぇ!」
相変わらず気にくわない。
シャーと威嚇するも、子猫の威嚇など屁でもないと言うかの如く、平然としている。
そして一番、言われたくないことを言いやがった。
「お前、まだしっぽが割れてないんだね。」




