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猫と話をさせてくれ  作者: ポン酢
ロープと猫缶
12/25

ロープと猫缶⑩


 空が白み始めた。


太陽が昇ったのだと、五感が察知した瞬間、俺は立ち上がった。


気づいた時には、無我夢中で走り出していた。




「ね、猫ー!」




息が切れて、大声が出したいのに出なかった。

かすれた精一杯の声で、つまりながら叫んだ。


目の前の草むらが、不自然に揺れた。


俺は大量に流れる汗と、その汗で顔にへばりつく髪の毛が気持ち悪いと思いながら、呼吸を整えた。



カサカサ。


さやさや。



草むらが揺れる。



俺はしましまのロープを跨ぎ、揺れる草を追いかけた。


街の谷間の草むらは、まだ薄暗かった。


膝ほどの草を掻き分けながら、俺は進んでいく。

ほんの小さなビルの立間のはずなのに、そこはどうしてだか、案内がなければ迷ってしまう、草の海のようだった。


ザワザワ、ザワザワ。


暗い海原は、昼間とは違って、何かを互いに囁いていた。


やがて、小島のような小さな空き地に出る。


がさり、と横の草むらが揺れ、猫が顔を出した。

ビルの影になって暗いここでは、猫の表情はわからなかった。



「猫、、、。猫、俺、、、。」



猫は俺の横を通りすぎ、空き地の中央に、しなやかに座り、俺を見た。


猫を見たら体の力が抜けて、俺はがっくりとしゃがみこんだ。



「猫、、、。俺、、俺、、、。」



何を考えていたのだろう?


俺は俯いたまま、地面の砂利を掴んだ。



猫がするりと動いた。



俺の方に歩いてくる。


俺は顔をあげた。

汗だけじゃなくて、涙が出ていた。



猫は俺の目の前に来ると、すっと前足をあげた。




「よく、頑張ったな。」




猫の肉球が、労るように俺の額を押した。


もう駄目だった。



俺はその場に突っ伏して泣いた。


大声を上げて、俺は泣いた。



何で泣いているのかなんて、わからなかった。

何だかもう、ありとあらゆる感情が具茶混ぜになって、とめどもなく溢れてきた。


涙で出すのなんかじゃ間に合わなくて、俺はそれらを、口から嗚咽として吐き出していた。



猫は黙って、ただそこに居てくれた。



建物の谷間の空き地にも、ゆっくりと朝日が届き始めていた。

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