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猫と話をさせてくれ  作者: ポン酢
ロープと猫缶
11/25

ロープと猫缶⑨

 俺は猫に乗せられてると思う。


いくら精神が弱っているからって、乗せられ過ぎだと思う。


そんなことを思いながら、俺は特盛の牛丼を頬張った。



「なぁ~1枚肉くれよ~。」


「黙って秋鮭食えよ。楽しみにしてたじゃんか。」


「そりゃな、モンプーランの期間限定、秋鮭は旨ぇよ?やっぱ、最高だわ。でもよ、魚食ったら、肉も食いたくなるだろ?」


「知らねぇよ。」




猫と出会って3日目。



俺が何で、猫缶を食う猫の横で、特盛の牛丼を頬張っているかと言うと、こう言うわけだ。


明日、てめえも何か食うもん買ってこいと言われた。

ただの食いもんではなく、一番好きな食べ物で、腹がいっぱいになるようなものと指定された。


何でだよって言ったら、最後の晩餐て知らねぇのかよと言われた。

なるほど、と思った。


それを聞かれるまで、自分が何を食べたいかとか、考えてなかった。

腹は減ったけど、とりあえず何か食べて、何を食べたかはよく覚えていなかった。


そうか、最後なら何か好きなもの食べてもいいんだよな。


でも特にはあまり思い付かず、ただ、部活帰りに友達と食った牛丼の事を思い出した。


すっげー好きなものでもなかったし、もっと高くて旨いもんもあったと思う。


でも思い出したら無性に食いたくなって、最後の晩餐だしと大盤振る舞いして、特盛を買ったのだった。



「人間だって、言うじゃねぇか。高級料理の後に、違うものが食いたくなるって。」


「いや俺、高級料理とか、食ったことねぇし。」


「いいだろ~肉くれよ~。」


「腹、壊すぞ?」


「野良猫ナメんな!そんな肉1枚で!腹なんか壊さねぇよ!」


「人間の食い物、動物にあげたらいけないって言うしな。」


「俺は猫又だー!」




本当にこいつは訳が解らない。


俺は肉を1枚、箸で摘まむと、すでに空になっていた猫の茶碗に落としてやった。


猫は変な雄叫びをあげながら、ふがふがしていた。



少しだけ、空を見上げた。


今日はいい天気だった。

外で弁当食うには、とてもいい日だった。



俺は残りの牛丼を一気に掻き込んだ。


ガキみたいに行儀悪く、口いっぱいに頬張った。

頬張りすぎて上手く噛めず、飲み込むのが辛かった。


猫はそれを、黙って横目で見ていた。


俺が意地になって最後の一口を飲み込むのを見届けると、猫は姿勢を正して言った。



「ごちそうさまでした。」



何か不思議な感じだった。


空になった、テイクアウトの牛丼の容器を見つめる。

箸にまだ、米粒がついていたので、俺はそれを食べた。



「ごちそうさまでした。」



手を合わせて、俺は言った。


猫はいつも通り、ぐでんと横になると大きな欠伸をした。


他には何もなくて、妙に鳥の声が響いていて、風が吹くと草たちが擦れあって、さやさやと微かな音を立てた。


猫の腹が、膨らんだり凹んだり。

たまに髭がひくひく動く。


半開きの口から牙が見えたけど、別に怖いとは思わなかった。


むしろ、間抜けな顔がかわいいような気がした。


触りたいと思わなかった訳じゃない。

でも、俺はそうしなかったし、ただ静かに、猫のいるこの空間を感じていた。


それが、この口の悪いわがままで勝手な猫と俺の、しっくり来る関係だった。



俺は立ち上がった。


猫は寝転んだまま、薄く目を開けた。



「またな。」


「うん。またな。」



俺たちは、それが嘘な事を、お互いわかっていた。


でも、それで良かったんだ。

俺たちは。

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