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転生したら推しの飼い猫だった ~モフモフ毛玉は無双できない~  作者: サモト
登場人物たち

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5.陽気な旅商人 ジンジャー=ペッパー

 外に出ると、都が一望できた。

 ここはいつも、住んでいるマンションの屋根から見えるお城だった。川の対岸に、イルの住んでいる区画が見える。


 見も知らないところに連れて来られたわけじゃないと分かって、ほっとした。

 坂を下り、橋を目指す。


 大人の歩幅で、十歩以上も幅のあるこの広い橋は、カヌレ橋という。

 ゲーム中にもよく登場した橋だ。

 たくさんの人が行き来していて、橋の両端では露店や見世物、靴磨きなんかの商売が行われていた。にぎやかだ。


「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 貴重なモンが目白押しやで。

 金持ちの間でもてはやされとる若返りの実に、あの有名女優が使うてる化粧水、ここらじゃ手に入らへんアクセサリー!

 そこのお嬢はん、これ、どう? このブローチ。隣の国で仕入れてきたんやけど、こういうの、絶対これから流行るで!」


 近くで演奏されているバイオリンの演奏をかき消すほどの、威勢のいい声。

 あの物売りの人も、知っている。陽によく焼けた肌をした、赤い髪の若い男。


 攻略キャラの一人、ジンジャー=ペッパーだ。


 彼は旅商人で、ローズ菓子店に通う客の一人であり、都でなかなか手に入らない素材を仕入れて来てくれる業者でもある。


「買うてくれるん? おおきに。

 ほな、一万カロリの預かりで、お代が七千カロリやから、お釣、三千万カロリな」


 女性にブローチの勘定をしながら、ジンジャーはド定番のしょうもないネタを飛ばす。

 聞いての通り、方言が特徴のあきんどな兄ちゃんで、陽気なおしゃべりキャラだ。


 攻略キャラなので、ジンジャーもイルのライバルになるわけだけど……憎めへんねん。

 コテコテの大阪弁使う仲のええ親戚おんねん。親近感湧いてしゃあないねん!


「はー、やっとメシが食えるわ。今日は朝からバタバタして、忙しかったな。猫の手も借りたいって、こういうことやな」


 いって、ジンジャーは欄干の白猫に、私に気がついた。


「ええ匂いがすると思たら、あんさんか。

 野良か? でも、花の匂いさせて。おしゃれやなあ」


 ジンジャーは私を抱き上げ、自分の座っていた木箱に座らせた。


「店番頼むわな」


 猫に店番頼むの!?

 びっくりしたが、それは冗談だったようで、ジンジャーはちゃんと、となりの果物売りのおばちゃんに店番を頼んでいった。

 使いこまれた木のスープボウルをもって、川沿いに立っている市場の方へ消えていく。


 別に果たす義理もないんだけど。

 頼まれると、なんとなく果たさなくちゃいけない気になって、私は神妙に店番をした。

 木箱の上で背筋を伸ばし、きちんと前足をそろえて座る。


「わー、猫さんだ。ふわふわ、ふわっふわ」


 通りすがりの子供が、目をキラキラさせながら手を伸ばしてきた。

 ああっ、私に触るのはいいけど、お店のものを乱さないで、お願い。


 母親に連れられて子供が去っていくと、私は前足や鼻先を使って商品の位置を直した。やりにくいなー。


 しまった、隣のおばちゃんが不審そうな顔をしてる。

 猫らしくないよね、これ。


 十五分ほどして、ジンジャーがもどってきた。

 自前のスープボウルには、こってりとした感じのスープが入っていた。一緒に白いパンが突っこまれている。


「ただいま。店番、おおきに」

「あたしがしなくても、猫がちゃんと番をしていたよ。賢いね、その猫は」

「そーなん?」


 スープの染みたパンを頬張ったジンジャーは、少し考えて、自分の荷物の中から干し肉を出してくれた。


「店番のお礼やで」


 お腹が空いていたので、ありがたくいただく。

 猫になってから、味覚が変わったので、肉がいやにうまく感じる。


「にゃう」

「うん? 干し肉、もっと食う? まだあるで」


 十分です。ごちそうさまです。

 私はかるく頭を下げて、ふたたび橋を渡りはじめた。

 ところが、十歩ほど行ったところで、急に横合いから手が伸びてきて、私を無遠慮につかんだ。


「アニキ、猫なんて捕まえて、どうするんですか?」

「金持ちに売れそうだろ。前にどっかの王様がこんな猫を飼ってたんだよ」

「さっすが。目の付け所が冴えてますね、アニキ!」


 いかにも小悪党、といったふうのヒゲ面の男が二人、私を麻袋に放りこんだ。

 にゃうにゃう鳴くが、たかが猫一匹のこと。

 だれかが立ち止まって、この小悪党たちを呼び止めてくれるような気配はない。


 いやあああ、またおうちが遠くなるううう! イル様あああっ!


「――ぶっ!」


 心の中で叫んでいると、突然、地面に落とされた。

 袋からはい出て見ると、小悪党のアニキ分が鼻を押さえていた。


「何しやがる、てめえ!」

「それはこっちのセリフや。ワイの猫に、なにすんねん!」


 ジンジャーだ。小悪党二人に指を突きつけ、怒鳴る。


「おまえの猫だあ? ウソつけ。連れてなかったろ」

「今さっきそうなったんや」

「ふざけたこといってんじゃねえぞ!」


 アニキ分が殴りかかったが、ジンジャーはひょいと避けた。腹に拳をめりこませる。

 次に弟分がつかみかかってくると、これも頬に拳をヒットさせた。


「高い品あつこうとると、よくない連中に狙われることもあるでな。用心は怠っとらへんで」


 ジンジャーは油断なくかまえる。

 右のこぶしには指輪が、左の手には腕につけていたブレスレットが、ナックル代わりとなってにぎられている。ケンカ慣れしているなあ。


 二人組は、怖気づいた。尻もちをついたまま後ずさり、逃げて行った。


「災難やったなあ、猫はん」


 ありがとう、ジンジャー! なんて朗らかな笑顔の通りにいい人なんだ!

 感謝の意味をこめて、ぺろぺろと顔をなめると、ジンジャーが台無しなことを言った。


「確かに。ええ毛並みしとるし、高う売れるかもしれへんな」


 値踏みするように触られ、私は毛を逆立てる。噛みつくぞ。


「ウソウソ。売ったりせえへんよ。冗談冗談」


 ジンジャーは笑って、自分の首に巻いている布をはずした。

 濃い黄色をした正方形の布地には、ラクダっぽいマークと文字が染め抜かれていた。


「これ、巻いといたるわ。このバンダナはな、ワイが所属しとる商人組合の標なんや。

 何か首に巻いとけば、野良じゃないって思われるやろし、この標見れば、何かあった時にワイの仲間が助けてくれるやろ。つけとき」


 正直、バンダナはちょっと汗がにおった。

 けど、気遣いが心に染みる。


「気ィつけてな。しばらくここにおるで、困ったら来るんやでー!」


 ええやつやな~。惚れてまうがな~。

 私にとってイル様が一番であることには変わりないけど、やっぱり陽キャの輝きは世界を明るくするな。



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