2.始動
レティシアは戦車に入る直前、確かにこう言っていた。
「さようなら…かよ。戦う前から負ける気でいてどうする」
目覚めたら既にあの施設の中にいた。過去の記憶もない。
覚えているのはこの場所を守るという使命感。
それが何故なのかも分らない。しかし今はあいつを…レティシアを助けたい。
頭で考えるのではなく、先に体が動いていた。
先程までいた軍事施設へと走る。
(あの施設にはあったはずだ。レティシアを助けられるものが)
背後で無数の爆発音が辺りに響き渡っており、戦闘が激しさを増していることが分かる。
「レティシアが引き付けてくれたお陰でなんとかたどり着けたな」
この施設の1階奥に目当てのものはある。
穴が開いた床や瓦礫に気を付けながらひたすら施設の奥へと向かう。
時折戦闘による地響きなのか、施設が揺れて小さな瓦礫が上から落ち、建物全体が軋む音がする。
「これはまずいな。急がないと」
ようやく〔格納庫〕と書かれたプレートが埋め込まれている扉の前へと到着した。
扉を開けると、広い格納庫の中にポツンと戦車が一台、放置されていた。
俺は迷わずハッチを開けて戦車に乗り込む。
「乗り込んだはいいが……どうやって動かすんだこれ」
複数あるボタンやレバーを触ってみるが、反応はない。
「どこかにマニュアルみたいなものは無いのか」
戦車の中をくまなく探してみるが、それらしいものは見つからない。
「クソ!分らない!」
(戦車の動かし方なんて知っているはずがない。俺にはレティシアのところに行く力も無いってことかよ)
レティシアから託された勲章のようなものを握り締め、心の中で強く念じる。
(頼む、動いてくれ!。動いてさえくれればいいんだ。そうすればレティシアのところに!)
〔使用者の登録を完了〕
「!?」
突如エンジン音聞こえ、戦車の始動システムが起動したのか画面に文字が表示された。
〔エンジン始動。システムチェック、オールクリア〕
「何だかよくわからないが、動くってことだよな」
操縦桿を握り、ゆっくりと戦車を方向転換させる。
「待ってろよ。今行くぞ」
格納庫の壁を突き破り、施設の外に出る。
ハッチを開けて周囲を確認するが、レティシアの戦車とエナの姿は見えない。
恐らくエナを俺から遠ざける為に東方面に向かったはずだ。
しかし何とか戦車を動かしたのはいいものの、一人では操縦と同時に攻撃は出来ないな。
見晴らしのいい場所に移動して、遠距離から攻撃するしかないな。