第5話 隣国の事情
隣国は長く荒れていた。今の国王は、父と兄を殺して国王になった。血塗られて始まった統治は、血塗れの時代への幕開けだった。
この国と隣国を隔てる国境線は長い。互いの領地が隣り合う貴族も多い。古い歴史を持つ高位貴族ほど、隣国の同格の貴族と血縁関係がある。隣国から、少なくない貴族が、親族を頼ってこの国に亡命してきていた。
さらに多くの貴族が、若い子女を次々とこの国の学園に、留学させていた。学園に通う彼ら彼女らから、隣国で新国王が行っている恐怖政治の話を、私達は耳にしていた。
学園で、私の親友は、高位貴族の御令嬢方と、にこやかに微笑みを交わし、穏やかな時を過ごしておられる。隣国の惨状など、気に留めておられるご様子はなかった。
お屋敷に戻られると、私の親友は、ドレスを纏ったまま、令嬢の仮面を脱ぎ捨てた。
公爵様とご友人のお話し合いから、透けて見える程度だった公爵様の御意向が、はっきりとした形になりつつあった。場違いな私は、常に同席を求められた。貧乏伯爵家の娘も参加するような会話だと周囲に知らしめるためだ。隣国の政と関係のない私は、公爵夫人と刺繍を刺しながら、お茶とお菓子を楽しむという役割を与えられた。
公爵様は、少しずつ事態を進めていた。隣国からの亡命貴族達と公爵様のお屋敷で、顔を合わせる機会が増えた。あくまでお茶会だ。親友と私は、当然のように参加し、彼らの話に耳を傾けた。
公爵様と亡命貴族達の計画に正当性を持たせるためには、私の親友の存在が必要だ。現実味を帯びていく話に、私の親友の顔からは、徐々に笑顔が消えていった。