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私はそこにあるものを、見なかったことにしたはずだった  作者: 海堂 岬
神様から加護を授かった少女の物語
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第2話 だから見ていません

 どうしても目が、かの御方の首元にいってしまう。


 私は正直な視線を、無理矢理手元の刺繍に落とした。これを仕上げなければならない。私は、八歳になったお礼のための礼拝のとき、幸いなことに、加護と呼ばれる特殊な能力を神様から授かった。神様から加護をいただくというのは、大変に稀なことで、素晴らしい幸運だ。私の加護は、目が良いというものだった。


 歴史書に記されている伝説の加護には、天気を当てる事ができるとか、水脈がわかるとか、素晴らしいものが多い。私が加護を授かったとき、私が持つ加護に期待して、婚約の打診があったそうだ。だがその打診はみな、私の加護の内容を聞いて、打診に終わった。


 父母は残念がったらしい。成長してからその話を聞き、私は安堵した。妙に期待されてから婚約をし、こんなはずではなかったと、婚約解消だ、賠償だなどとなったら、我が家はますます貧乏になってしまう。

 

 私は私の加護が大好きだ。私の身の丈にあった加護を授けてくださった神様に、私は心から感謝している。


 ちょっとアレな、残念な、期待外れと周囲に言われる加護を生かして、私は刺繍をしている。周囲には内緒だが、作品を売り、お小遣いを稼いでいる。


 刺繍の仕事は私の楽しみでもあった。私はまだ学生だ。自力でお金を稼いでいると、少し、大人になった気がした。


 目を上げると、談笑している公爵家縁の御令嬢達の姿がどうしても目に入る。


 公爵家のご令嬢であり、隣国王家のお血筋を引くやんごとなき御方は、周囲の御令嬢よりも背が高い。喉元をかくすような意匠のドレスを身につけておられる。ドレスにかくれる足元を見たことはない。


 芝生にのこる足跡を見る限り、履いている靴は、踵が低いものだ。


 私はまた、手元に目を落とした。刺繍を仕上げなければならない。私の大事なお小遣いのもとだ。


 そうやって、何度も視線を上下させていたときだった。とうとう、やんごとなき御方と目が合ってしまった。


 かつて隣国の王太子を射止めた御母上によく似ておられる美貌で、ニッコリと微笑んでくださり、私も目礼した。そう簡単に、声をかけさせていただける立場ではないのだ。


「あなた、刺繍がずいぶんとお上手でいらっしゃるのね」

「おそれいります」

 まさか、やんごとなき御方から直々に、お声をいただけるとは思っていなかった。


 私は、歴史があるだけの、立派に貧乏な伯爵家の娘である。

「素敵ね。一度お話ししてみたいわ。屋敷にいらっしゃいな」

 笑顔のお誘いだが、来いということだ。私は、観念した。


 やんごとなき御方の手袋で覆われた手は、周囲の御令嬢とくらべて、明らかに骨ばっている。背丈が高いから、手が大きいのは当たり前だと思っていた。


 喉仏に気づいてからは、その手が、喉仏と同じものを意味していることに、私は気づいてしまった。



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