第16話 気のおけない仲間
「こら、お前、じゃない、陛下、相手は御令嬢だぞ。絞め殺す気か」
かつての留学生、使節団の団長が、怒鳴ってくれなかったら、私は気を失っていたかもしれない。
「久しぶりに親戚に会うつもりできたのに。全く手がかかる根性なしだ」
遠慮なく文句を言う彼は、隣国の侯爵だった。
「我が国は、あなたを歓迎する。我が国王陛下は、即位される前から、心に決めた人がいると宣言しておられた。それでもすり寄ってくる女性がいたら、美女に化けて、追い返しておられた。今、我が国に、国王陛下に嫁ぐことを願う貴族の女性は、我々が把握する限りは存在しない」
公爵家の御令嬢であった親友ならではの、女性の撃退方法に、私は呆れた。
「我が国の紋章を刺繍したハンカチに顔を埋め、懐かしい香りがしなくなったといって嘆き、執務室に飾られている、我が国の王家の紋章を刺繍した旗が届いた日、会いたい人の香りがするといって、抱きしめて離そうとしなかった変態だ。申し訳ないが、あなたがこの変態を引き受けてくれるのが、我が国の最善だ」
侯爵が、赤裸々なまでに語った話に、私は気恥ずかしくなった。思わず緩んでしまった口元を扇で隠した。
幸いなことに、根性無しと呼ばれ、変態と罵られ、奇行を暴露された親友は、きまり悪そうに余所見をしていて、私の様子に気づかなかったようだ。
「そのくせ、あなたに手紙一つ送らなかった、とんでもない根性無しだ。私達は、あれだけ惚気ているのだから、手紙くらいは送っているだろうと思っていた。亡くなられた先代公爵様も、当代公爵様もそのように思っておられたらしい。連絡一つ寄越さない不実な男を、あなたが待っていてくれたことに、心から感謝している」
敬愛すべき自国の国王陛下の変態行動を赤裸々に語り、根性無し、不実な男と、罵倒した侯爵は、私には笑顔を向けてくれた。
この国の貴族の多くが、隣国の親族に何らかの支援をしていた。先代公爵様が亡くなられた後も、私も、勇気を出して誰かに尋ねれば、親友の消息を知ることくらい出来たはずだ。
「確かめるのが怖くて、何もしなかったのは、私も同じですから」
私の親友、隣国の未来を背負う若き国王は、満面の笑みを私に向けた。
「甘やかさなくて良い。御令嬢を待たせすぎだ。反省しろ」
侯爵からの手厳しい言葉に、一瞬で萎れた御方に、私は笑ってしまった。少し安心した。
気のおけない仲間が、容赦なく手厳しい言葉を浴びせかけてくれる仲間がいるのであれば、親友はきっと道を踏み外さないだろう。




