第15話 再会
晩餐会会場を離れ、別室で私は、すっかり男らしくなってしまった親友と向かい合っていた。
「ごめんなさいね。申し訳ないと思うわ。でも、あなたはきっと待っていてくれると、信じていたの」
気が緩んでいるのか、令嬢のような口調で、地声のまま話す親友を、私は軽く睨みつけた。
「そんなに怒らないで欲しいわ。待っていてくれるはずと思いながら、自信がなくて、兄に確認するのが遅くなってしまったの」
会わずにいる間、ずっと男性として過ごしていたはずだ。体格はすっかり立派になったのに、優雅な口調と仕草がそのままで、違和感と懐かしさの間で、私の気持ちは揺れていた。
「兄には、本当に叱られたわ。『根回しはしてやる。他は知らん。謝罪して承諾をもらうのはお前の責任だ』と、手紙をもらったの。必死で使節団に紛れ込んだのよ。ほら、誰が行くかは、事前に相手に伝えるでしょう。もうこの国に伝えたあとで、私の訪問を正式に伝えることはできなかったの。あなたを騙すつもりはなかったのよ。本当よ。信じてくださいな」
親友は、騙すつもりはなかったと言うが、結果として私は騙された。自分が誰かを名乗らず、私に求婚した、大変失礼なことをしでかしてくれた親友を、私は黙ったまま見つめた。
「兄から『お膳立てはしてやったから、あとは自分でなんとかしろ、承諾を得るのはお前の仕事だ』と、言われて、私も必死だったのよ。だからつい、忘れてしまったの」
つい忘れることではないだろう。
「自分の立場くらいわかっているわ」
記憶にあるよりも、男性らしくなった、骨ばった大きな手が私の手を握る。
「どうか、怒らないでくださいな。立場が何であれ、私は私なの」
再会が嬉しかったのは私も同じだ。嬉しくて確認を怠ったのは私だから、一方的に怒っては不公平だ。それに私は別に怒ってなどいない。ただ、色々と、言いたいことがあるだけだ。
情けない表情を浮かべる懐かしい親友の頬を、私は両手で包んだ。
「怒ってなどいません。きちんと帰ってきたとおっしゃってくださらないから、ご挨拶ができなかったではありませんか」
私の言葉に、親友が首を傾げた。
「お帰りなさい。ご無事で何よりでした」
ずっと私が伝えたかった言葉だ。
親友の目に涙が浮かんだ。あの日私は、どうかご無事でと、お別れをした。だから、お帰りなさいと、無事を喜ぶ言葉を伝えたかったのだ。
突然立ち上がった親友に、私は椅子から引き抜かれた。
「ただいま帰りました」
力加減をわかっていない親友に抱きしめられて、苦しくて、嗚咽混じりに耳元で囁かれた声に、感動しようもなかった。必死に背を叩いて抗議したが、厚い胸板は、私を解放してくれなかった。




