第12話 晩餐会
公爵様にエスコートしていただいたことは、成功であり、失敗だった。私には不釣り合いな高貴な御方にエスコートしていただいた結果、私は周囲を高位貴族と、奥方様に取り囲まれてしまった。
晩餐会が始まる前から、気後れという言葉が、陳腐なものに思えるほど緊張した。先代公爵様のご友人で、公爵家でお会いしたことがある方々が、私との再会を懐かしんでくださったから、何とか持ちこたえる事ができた。
先触れに続いて、国王御一家、隣国からの使節団が入場された。促されて目を上げた私は、使節団の一人、末席に立つその人に目が釘付けになった。私の目が人を見誤ることはない。正直な私の口は、何を、と囁いてしまったけれどその先の言葉を紡ぐことはなかった。
何をやっているのかと言いたかった。隣国で、鬨の声を上げた集団は、当初反乱軍と呼ばれた。その反乱軍をまとめ上げ、救国軍と民に称えられる軍隊に育て率いた若い将軍は、隣国の国王になったはずだ。未だ安定しているとは言い難い隣国を離れて良い立場ではない。
今、私の大切な、たった一人の親友が目の前にいた。年月が姿形を変えてしまったけれど、私の親友以外にありえない。隣国を離れ、使節団の末席に立っている親友に、私の頭の中で、疑問が渦巻いた。私が無事を祈っていた若い将軍は、隣国の国王は、私の親友ではなかったのだろうか。それとも、ただの無責任な国王なのだろうか。私は誰のために祈っていたのだろうか。
私は、久しぶりに目にした親友の無事に安堵しながらも、拍子抜けしてしまった。
「帰ろう」
思ったことが、そのまま口からこぼれ落ちた。親友の無事を確認出来たのだから、私は晩餐会に出席した目的を果たした。色々考えてしまって、いや、考えていた日々がなんだか虚しくなって、私は立ち尽くしていた。ぼんやりとしている間に、国王陛下と使節団の方々とのご挨拶は終了した。
楽団が音楽を奏で始めた。私も、うまくはないが踊れる。公爵家で教わった。親友は、ダンスが本当にお上手でいらっしゃった。
公爵家にお邪魔するようになって日が浅い頃、まだ友人とも言えない関係だった頃に、ダンスの腕前を褒めてしまったことがある。
褒めたのに、ものすごい目で睨まれ、練習に付き合えと凄まれた。二人でドレスを着たまま、親友は私を相手に、男性としてのダンスを練習なさった。思えばあの頃から、親友は、どう生きるかを悩んでいたのだろう。
少し懐かしい思い出に、私は隣国の賓客を招いた晩餐会であることを、忘れてしまっていた。私をエスコートしてくださっていた公爵様の弾んだ声で、私は我に返った。




