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episode96 第三の魔力

 


 さて、彫刻で描かれていた魔法は魔力から魔力波とは違う波動を出す魔法だったことがわかった。


 ファンタジー作品なら、こういう場合、すごく強力な魔法が描かれていて、主人公の新しい必殺技になりそうなものだけど、なんとも地味な魔法が伝えられたものだ。



 数日後、ロムルツィア神聖国から帰国した俺達は早速波動を計測、解析を実施した。


 全ての国民が持っているパーソナルカードに使用されている魔力波長を計測する方法をとったが、多少のエネルギー励起を観測しただけで特にそれ以外に何も出てこなかった。


 その結果に俺とアイリスは二人してうんうんと頭を悩ませていたら、クラリスがこんなことを言ったのだ。



「相対論の数式とか書かれてるところに彫られてた魔法だし……もしかして重力波が出てるとか? なんちゃって!」


「「……」」



 言った後に照れくさそうに頭を掻くクラリスを置き去りにして、俺とアイリスは顔を見合わせた後――



「それだ!!」


「それよ!!」



 ――叫んだ。











 ◆










 数ヶ月後。


 俺は研究室の床に某龍玉に登場する敵の自爆技に倒れたキャラの格好で倒れていた。


 アイリスも机に突っ伏している状況で、普段通りなのはクラリスだけである。



「……何があったんですの?」



 そんな状況を見たユリアの開口一番がこれだ。


 宇宙のフリーダムステーションから帰ってきたばかりで、この研究の詳細を聞きに来たらしいが、こんな状況になっていたら驚きもするか。



 で、俺が倒れているのは例の波動のことが原因だ。


 クラリスの言った重力波なのでは? という仮説を元に実験と観測を実施したが、そもそも魔法を発動できる時間が短く、それ故に観測できる時間も短い。


 そして重力波や魔力は観測しづらいときた。


 しかし、数ヶ月の時間を要して、その波動が重力波であるということを突き止め、なんとかデータを揃えることができたからそれはなんとかなった。


 問題があったのはその後、その観測データから穴だらけだったオベリスクに刻まれていた数式を完成させようと作業を進めていく過程で一つ、問題が発生した。



 ――魔力が足りなかったのである。



「魔力が足りない……って量がってことですの?」


「いや、そうじゃなくてね……」



 アイリスが近くに置いてあった紙の束をユリアに手渡す。


 そしてそれを見ていくユリア。


 数十分後、読み終えたユリアは一息吐くと、俺達が落ち込んでいる理由を理解してくれた。



「なるほど。魔力が足りないというのは魔力の()()が足りないってことですのね」


「うん……」



 アイリスが力なく答える。


 魔力の種類は現在確認されている、通常使用している白魔力と、魔物の発生原因でもある黒魔力だ。


 しかし、波動の魔法が重力波だというのがわかり、数式を組み立てていくと、刻まれた数式は重力データであることがわかってきた。


 それは喜ばしいことだったが、理論発動でこの魔法を安定して起動し続ける為にはどうやっても説明できないところがあった。


 それがさっきユリアが言った魔力の種類が足りない問題である。


 この魔法を確立させるには魔力は三種類必要であることが数学上明らかになったのだ。



「確かにこの魔法を発動させると黒魔力も観測されてたの。無論、白魔力も。でも……」


「数学上では存在する筈の第三の魔力。これだけはなんなのか全くわかんないのよ」


「なるほどですわね……」



 もう、どうすればいいのかわからん。


 ちくしょう……ホントに俺のアラが出てきたぞ。


 これが科学者とかの専門家ならある程度の糸口が出てきたと思うけど、俺は一般人だったんだ。


 少なくとも自分自身はそう思っている。


 そんな人間にこんな問題ぶつけちゃいけないって……


 未知の魔力があるんじゃ? って予想はしていたけど、目に見えんもんをどうすればいいのか俺にはわからん!!



「前世でもそうだったよ。ある時までは事象を説明する為に理論があったのに、ある時からは理論が先にきてその後観測や実験で事象を証明するっていう逆転現象がさ。その転換期に俺達は立ち始めたのかなって」


「そう言われると誇らしくもありますが……」


「あまりにも先が真っ暗すぎて進むのが難しいわよ……」



 前世ではその転換期に大活躍したのがあのアルベルト・アインシュタインだ。


 あの人が特殊相対性理論や一般相対性理論を提唱し、その理論で重力レンズ効果を示唆して、ブラックホールの存在を予言した。


 他にも速度が上がったり重力が強くなると、流れる時間は短くなり、速度が光速までいくと時は止まるっていうのも数学的に示し、その理論はGPSで使用されている。


 GPS衛星は高速で飛んでいる為、時間が100億分の2.55秒遅れている。


 それを補正することで地上の正確な位置が特定出来ているのだ。


 相対性理論が無ければGPSは実用性に欠けるものになっていただろう。



 閑話休題



 まぁ、何が言いたいのかというとだな……



「よぉわからん」


「諦めないでくださいよぉ……」



 アイリスに涙目で可愛らしくそう言われてもわからんもんはわからん。



「魔法の出力上げたら見えてくるものもあるとか? そんなわけないか……ハハハ」



 ポロリと自嘲気味にそう言葉をこぼす。


 ――が、これが光明になった。



「「「「あっ」」」」



 その場にいた全員の声が重なる。


 この魔法は要求される魔力制御技術やイメージ力が桁違いに高い。


 故に理論発動に慣れすぎたクラリスやその他レイディアントガーデンに所属する魔法士達は軒並みこの魔法の発動時間が短いのだ。


 しかし、魔法士はここ以外にも沢山いる。


 そして、その魔法士の頂点に立っている人物を俺達は知っていた。



「レン君だ」


「レンさんですね」


「レンね」


「レンさんですわ」



 ほぼ同時に、俺達は一人の青年の名を口にした。










 ◆










 アケルリース王国 王城


 レン君は今やアケルリース王国の特殊任務部隊であり王太子直属の部隊の隊長を務めていることから、あの日すぐにアポを取ってここに来た。


 俺の他にはアイリスとクラリスも一緒である。


 目の前にはレン君とアラン殿下が座っていて、渡した論文を読んでもらった。


 そして、読み終えたところを見計らい、俺は頭を下げて頼んだ。



「お願いします! この研究に協力してください!!」


「「お願いします!!」」



 アイリスとクラリスも同じように頭を下げてくれた。


 しかし、返答が返ってこない。


 何か粗相をしただろうかと考え始めたところで、レン君が口を開いた。



「まず、頭を上げてください」


「……協力は、難しいですか?」



 俺がそう聞くと、レン君もアラン殿下も、なんとも言えない表情を浮かべていた。


 そして二人は互いの顔を見合わせた後、こちらに向き直って返答に困っている理由を話してくれた。



「あのぉ……大変恐縮なんですけど……」


「何を言っているのかさっぱりわからん」


「……おん?」



 予想外の返答だった。


 俺達が手渡した書類には「魔力波観測における重力波発生時の第三の魔力について」と題名されていた。



「えぇっと……どこのあたりでしょう?」


「全部だ」


「これを読んで、わからないということがわかりました」


「……」



 アレェ?


 アイリスやユリアらに確認してもらってわかりやすいってお墨付きをもらったんだけどなぁ。



「あれ? ダメでしたか?」


「すっごくわかりやすく書かれてると思うんだけど……」



 アイリスはこれで行けると思っていたところにこの反応だからびっくりしている。


 それにあまり論文に縁がないクラリスですらもわかりやすいって言ってるから俺も自信あったんだけど……



「専門用語が多すぎて、ちょっと理解できないです」


「で、でも注釈付けたよ?」



「ほらここ」と、教科書のようにページの隅に用語の解説を入れていることを伝える。



「その注釈すらも意味がわからんのだ」


「……そうですか」



 俺はアイリスの方を向いてジトーと睨みつけた。



「べ、別に手を抜いたわけじゃないですよ!? ちゃんとわかりやすいって思ってGOサインを出しましたよ!?」


「じゃあなんでこんなことになったんだ」



 アイリスに問いかけたその質問には、アラン殿下が答えてくれた。



「もうレイディアントガーデンの者達は知識が何百年も先に行き過ぎている。我々に理解できるわけがない」


「……えっ? 私もその部類に入ってるの?」



 自分はどちらかというとアラン殿下側だと思っていたのか、クラリスが虚をつかれたような声でそう言った。


 それにアラン殿下とレン君は無言で頷く。



「もう私達、普通じゃないのね……」


「そうね……」



 アイリスとクラリスが遠い目をし始めた。


 俺は元凶故に、何も言えん。



「じゃあ……説明させて頂きますね」


「よろしく頼む」



 ――


 ――


 ――



「というわけで、この第三の魔力の存在がわかればより効率よく重力波を発生させられる……というわけです」


「……なるほど、全くわからないという状態からはかろうじて脱出できた」



 アラン殿下は顎に手を添えながらそう言った。


 全て理解したわけではなさそうだが、さっきの全くわからん状態よりは良くなったそうなのでよしとしよう。



「ようは、その数式をより深く追求しないと魔道具に落とし込むことができないってことですか?」


「そういうこと」



 レン君の質問に答えると、その返答を聞いて別の疑問ができたようで、さらに質問してきた。



「……あれ? じゃあ、なんで俺の飛行魔法やM(マギリング)D(デバイス)F(フライト)S(スーツ)なんかは飛んでるんですか? あれって重力波で飛んでると思ってたんですけど」


「俺もそう思ってたんだけどね。どうもヒッグス場をコントロールして浮いているみたいなんだ。あれ」



 ヒッグス場っていうのはヒッグス粒子が形成する場のことだ。


 このヒッグス場の抵抗を軽減させることでMDFSは中に浮かぼうと動いてくれていたのだ。



「ヒッグス場? 聞いたことはあるんですけど、どんなものなんです?」


「よく例えられるのが、ヒッグス場をハチミツに置き換えたものだけど、俺は雪原をイメージしてもらった方がわかりやすいんじゃないかなって思ってる」


「というと?」



 ヒッグス場をハチミツに置き換えると俺達はそのハチミツの中を歩いているのと同じであり、ハチミツから受ける抵抗が質量であると説明させるものの、「じゃあ光は?」って言われるといまいちわからなくなる。


 光は質量0のゲージ粒子だからな。


 でも雪原だったらイメージしやすくなる。


 例えば電子。これはスキーを履いた人であるとイメージしてくれればいい。


 雪の上を滑っていく時にほんの少しの抵抗を受けるから電子も同じくほんの少し質量が生まれる。


 次に中性子と陽子を作るクォークはかんじきを履いた人に置き換える。


 スキーよりも雪の抵抗を受ける為、それなりに質量が生まれる。


 続いてボソン。これはただのブーツで雪の上を歩く人に置き換える。


 当然足は雪に取られて進み辛くなるから、質量は大きくなる。


 じゃあ光子やグルーオンはどうなるのか?


 それは空を飛ぶ鳥に置き換えられる。


 空を飛んでいるのだから当然雪なんて関係ない。


 だから質量が生まれないのだ。



「――この例えでいうなら、君の使う飛行魔法やMDFSに付与された魔法は、ブーツからスキー板に変えてくれる魔法だったってことだね」


「へぇ……」


「……なるほど」



 レン君もアラン殿下も少しは理解できたようだ。


 てなわけで、本題に戻る。



「で、ヒッグス場は通常の白魔力でいくらかはコントロールできるみたいなんだけど重力は白魔力と黒魔力と、あと一つの魔力が合わさってないとコントロールできないみたいなんだよね」


「ようやく理解できた。その重力波の魔法は現在イメージ発動しかできず、長時間の発動にはかなりの魔力制御が必要故に私達に依頼に来たのだな?」


「その通りです。殿下」



 レイディアントガーデンでは理論発動が主流だし、戦闘を主に担っていない。


 航空魔法士隊があるにはあるが、彼らはどちらかっていうとMDFSの扱いに長けた魔法士だ。


 魔力制御は殆どマギリング・コンピュータが担っていて、コンピュータが処理できるのは白魔力だけ。


 だから今回の魔法は個人の魔法力がかなり重要になってくる。


 だから世界最強と名高いレン君に依頼に来たのだ。



「改めて、私達に協力して頂けないでしょうか?」


「「お願いします!!」」



 俺とアイリスとクラリスは改めて頭を下げた。


 すると今度はすぐに返事が返ってきた。



「頭を上げてほしい。そういうことなら喜んで協力しよう。な? レン」


「ああ。レイディアントガーデンの研究に携われるなんて光栄ですよ」


「ありがとうございます! レン君もありがとう!」


「いえいえ」



 こうして、レン君の協力を得ることができた。


 これで第三の魔力と重力の謎がわかるかもしれないぞ!!



「それで、この魔法をどれくらい維持すればいいんですか? 皆さんが維持できたのが最大1分ってことですから、5分ですか? それとも10分?」



 そうか、それを言ってなかったな。



「最低一時間。長ければ長いほどいいかな」











 ◆










 レイディアントガーデン 実験棟



 そこにレン君を筆頭としてアラン殿下の直属部隊であるセイバーズのメンバーが勢揃いしていた。


 レン君と奥さんであるルナちゃんとアラン殿下、アケルリース王国でロケットの機体開発をしているジェイ君に魔道具開発を担当しているキャサリンちゃんの他、俺の知らない人もいた。


 全員で12人。


 さっき魔力制御量を測ったけど、皆規格外と言える数値だった。


 その中でもずば抜けておかしかったのはやはりレン君だったけどね。


 ホント、例えるならレン君以外は街を破壊できるくらいだけど、レン君は国を地図から消せるくらいの実力を秘めている。


 ……例えが恐ろしいが、それくらいしか思い浮かばなかった。



 だが、実力があるのは喜ばしいことだった。


 長時間、重力波を維持してもらえれば、それを観測して色々見つけることができる。


 交代で重力波魔法を発動してもらい、観測を開始してから二時間半。


 お陰で結構なデータを取ることができた。



「ありがとう皆さん!! かなり有意義なデータが取れました!!」



 ホクホク顔で俺は、セイバーズの面々に声をかけた。


 しかし、彼らはそれに答えてくれなかった。


 何故なら――



「もう……魔力出せない……」


「……きっつ」


「……うぇ」


「ちょっと……吐かないでよ?」



 ソフィー・ウッドウィル、ルーシー・チルコット、オードリー・グルーエン、ソニア・フォン・エヴァンスの女性陣と――



「ヤベェ……レイディアントガーデン、マジヤベェ……」


「……」


「……おい、アレック死んでんじゃないよな?」



 スティーブン・ジーンズ、アレック・フォン・フランクリン、リアム・フォン・ハーヴェイの男性陣と――



「……こんなことになるんじゃないかとは思っていた」


「……俺、皆より魔力制御量少ないからかなりキツいっす」


「これ……維持がかなり難しいわよね……」


「はい……レンくんが一番維持できてましたね」


「……俺、レイディアントガーデンの実験に関わると毎回こうなってない?」



 アラン殿下、ジェイ君、キャサリンちゃん、ルナちゃん、レン君がそれぞれ言葉を交わしている。


 ……皆、床に転がりながら。



 彼らですらもこうなってしまう重力波魔法は本当に規格外の魔法なんだなってつくづく思う。


 セイバーズの皆さんには魔力ポーションを配り、それを飲んで回復に努めてもらっている間に俺はデータを見ていく。



 そして、俺は一人、口角を上げた。



「やっと……やっとだ……」



 データには一つだけ……たった一つだけ、既存の魔力とは全く違う動きをしている魔力があった。


 確定したわけじゃない。


 でも、今までの魔力とは違う()()がそこにあることは明らかだった。



「やっと見つけたぞ! 第三の魔力!!」

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