episode95 カラートの遺産
オベリスクに刻まれているであろう数式を回収、そして台座に刻まれているであろう魔法イメージを回収する為、オシニアから帰るその日、本社にいるリリーに連絡を取った。
『オベリスクの調査!? ってことはそのまま数日ロムルツィアにいるってことですか!?』
「うん!!」
俺は元気よく答えた。
『うん!! じゃあありません!! 全く、わかりました……こちらはなんとかします』
「ありがとう。いつもすまないな」
『マスターでないとわからないことがあると思いますから。今回のこれも何かを見つけたから調べたいのでしょう?』
さすがリリー、よくわかっている。
「一週間後に戻る。俺達を送ってくれたパイロットとそのご家族は先に帰ってもらうように言ってるよ」
『俺達? もしかしてアイリスとクラリスも残るんですか?』
「うん。二人とも手伝ってくれるみたいだ」
『そうですか……二人がいれば安心ですね』
「……ん?」
何が?
俺ってそんなに信用ないのか?
『マスターって研究に入ると寝食を忘れて没頭することがありますから。それを止めてくれるのは安心です』
「ああ、うん」
確かに数回……いや数十回……やらかしたことがある。
そして何回かアイリスとクラリスを泣かしたことがある。
そして今回も一人だったらそれをしでかす自信がある。
……うん、学習能力ゼロじゃないですか、俺。
『では、おかえりをお待ちしております』
「ああ。早めに終わったら、早めに帰るよ。あと――」
いくつか指示を出した後、通信を切り、後ろで控えていたアイリスとクラリスの二人に向き合う為に振り返る。
笑顔を浮かべて俺を見つめてくる二人に俺は少しドキッとしつつも、声を上げた。
「それじゃ、オベリスク調査に行くぞ!」
「「おー!!」」
腕を突き上げて気合いを入れる。
目指すはカラート様が手ずから掘ったというオベリスクが多い地……聖都カラートへ!
◆
――月面 アルファードタウン
岩石調査とレゴリスの溶解実験用に、EVAを実施していたクリス、ソフィア、エレアはサンプル採取の為、スコップやシャベルで懸命に地面を掘っていた。
「これ……結構……キツイ!!」
「動きやすくなったって言ってもまだまだ窮屈だからな。このEMU」
エレアが腰に手を当てながら伸びをする様を見て、クリスが着ているEMUのことを口にした。
ISSやフリーダムステーションに配備されているEMUと比べれば遥かに動きやすくなったが、まだまだ自然な動きとは程遠いのが現実だった。
しかし、そんな環境でも難なく動き回る人物がいた。
ソフィアである。
「そうですか? かなり動きやすいと思うんですけど?」
「魔力を身体強化に全振りしてる奴に言われたくねぇよ!」
「えぇ!?」
ソフィアは身体強化魔法を得意としており、魔法が発動しにくいEVAでも、その力を遺憾なく発揮しており、EVAではかなり重宝されている。
今回の月面活動では、岩石採取などが多くミッションに組み込まれている為、ソフィアがこういったミッションに任命されるのは皆、予想がついていた。
「まぁ、得意だからとは言っても、よくそんなに動けるな。関心するぜ」
「そうですか?」
クリスから贈られた賛辞を受けてもソフィアはあまり実感が湧かない様子だったが、そこにエレアも便乗した。
「そうですよ。なんでそんなに動けるんですか?」
「ん〜、慣れかな?」
「慣れ……」
身も蓋もない回答をされてしまい、エレアは言葉が出なくなった。
その時、ヘルメットのHMDに通信が来たことを知らせる表示が浮かび上がる。
表示されたのはミッションコントロールセンターだった。
「はい。こちら月面、クリスだ」
『お疲れ様です。作業をしながらでいいんで、聞いててもらっていいですか』
CAPCOMであるエルヴィンから伝えられたのは今後の活動でミッションが一つ増えるとのことだった。
その内容は――
『月面に大量にあるオリハルコンやアダマンタイトを可能な限りエクセルへ持ち帰るようにとマスターから指示が出ました』
「それはパーサヴィアランスなんかの往還船に載せろってことだよな? 俺達にそんな暇ないぜ?」
今課せられているミッションでも消化するのにギリギリだというのに……とクリスは思ったが、どうも長期滞在組にさせようとは思っていないらしい。
『いえ、今回の岩石採取でオリハルコンやアダマンタイトの鉱山を見つけていたら、往還船の船長に知らせてほしいってだけのようです』
長期滞在組に採集させるというのは酷だというのはレオン自身もわかっていてくれたようで何よりとクリスは胸を撫で下ろす。
一先ず安心したところで、今度はソフィアから質問が飛び出した。
「それはいいとして、なんでオリハルコンとかが必要なの? しかもマスターからなんて」
『それが、新しい数式が完成するかもしれないから……っていうのが理由なんだってさ』
「新しい数式って……例の万物の理論って奴?」
『そう、それ』
理由を聞いた所で、なぜ理論が完成したらオリハルコンが必要なのかは三人ともわからなかった。
「あのぉ、理論が完成するからって、なんで金属が必要なんです?」
『いやぁ……聞いて驚くなよ? 俺だって半信半疑なんだから』
エルヴィンがそう前置きすると、希少金属が必要な理由を話した。
『なんでも……永久機関を作るんだってさ』
「「「……」」」
三人は何を言っているのか、一瞬わからなかった。
永久機関なんてあるはずがないからだ。
魔力を放出したり蓄えたりできるマギリング・クリスタルでも、劣化して魔力の充填率が落ちていくし、クラウス型核融合炉でも燃料である重水素を入れてあげなければ炉は停止する。
無限に動き続ける機関なんてありえない……と思ってしまうが――
「まぁ、レオンがやることだからな」
「確かに」
「ど、どんな理屈で動くんでしょう……」
――レオンのやることだから。
それに尽きるので、クリス達はミッションを受諾した。
◆
――ロムルツィア神聖国 聖都カラート
ここにはオベリスクが点在していて、そのいくつかがカラート様本人が建築したと言われている。
で、数本オベリスクを調べてわかったことがある。
それは――
「やっぱこれらを繋げていくと数式出来上がりそうだ」
――ということである。
「台座の意匠も繋がりそうよ。でもまだ魔法イメージが掴めない……」
「そうなのか?」
「ええ。まだまだ抽象的で、発動はできないわ」
クラリスがいう魔法イメージをこの意匠から読み取れる時点で俺としては驚きだが、これが完成すれば魔法が発動できるのか?
「魔法イメージを掴むのに長けているクラリスがそう言うのですから間違いはなさそうです。それに順番もどうやって並べていけばいいのか……」
「それは確かに思う」
アイリスの言う通り、オベリスクに順番が彫られているわけじゃないから、調べたオベリスクが何番目なのかなんてわからない。
何かどこかにヒントがありそうだけど……どこにもそれらしいのがないんだよなぁ
自力で繋げろってことなのか?
だったら台座の順番もわかってくるだろうしな。
ホテルの一室で撮ったオベリスクの写真を並べていく。
大量の写真から繋がる数式を確かめていくが、あまりにバラバラな並びでオベリスクに刻まれていた為、繋げるのは一苦労だ。
そうやって丸二日。
アイリスのとクラリスの協力も得て、写真の並び替えが完了した。
「……うん! これならなんとかイメージできそう!」
「そっか。よかったな」
クラリスは全てが繋がった画像を見て、新しい魔法イメージが完成したことに歓喜しているが、俺の気分は沈んでいた。
「……こんだけさせておいて未完成ってなんだよ」
そう、数式は完全な形ではなかったのだ。
それはそれはもう、色んなところが穴だらけすぎて意味がわからない。
魔法イメージの彫刻は最後までできているのに、である。
何か余っているものがあるのか? とか考えたが、全ての写真を使って繋げたから、何か見落としているとは考えにくい。
……詰んだ。
「なんだよもぉ〜……ここまでさせておいてさぁ!」
俺は駄々をこねる子供のように床に転がった。
そんな俺を呆れた様子でクラリスが見下している。
「もう……そんなに落ち込まなくてもいいでしょ? 全く思ってもみなかった式が含まれてるって昨日は興奮してたじゃない」
「……あっ」
励ます為に近づいてきたクラリスの方を見た時に、俺は声を上げてしまった。
そして即座に上体を上げて、床に座る体勢に変える。
「? 何?」
「……ごめん」
「えっ?……ッ!?」
クラリスの今の格好はワンピース姿である。
スカート丈は膝上5cmくらいなのだが、俺は床に寝転がっていた状態で、そんなところに近づいてきたのだ。
……まぁ、要するに、見えてしまった。
「……見た?」
「……ちらっと」
クラリスはそれに気がついた瞬間、スカートを押さえて羞恥で顔を真っ赤にしたから、すぐに罵詈雑言が飛んでくると思ったんだけど……
悶えているだけで、それ以上の言葉は出してこなかった。
「きょ、今日何履いてたっけ? うぅ……こんなことならもっと可愛いの履いてればよかった……」
俺に背を向けて何か言っているが小声すぎてよく聞こえない。
とにかく、俺も見てしまった影響で顔が熱かったから、冷ます時間が欲しかった。
クラリスが向こうを向いている間に正常に戻しておこう。
そう思って手で顔を仰いでいたら、さっきからアイリスが何も言ってこないことに気がついた。
「どうした? アイリス?」
立ち上がってアイリスに近づく。
顔を覗いてみると、顎に手を添えて真剣な表情で魔法イメージの彫刻と数式を見比べていた。
「……レオンさん。ちょっと試したいことがあるんですがいいですか?」
「えっ? うん」
何をするかわからないが、アイリスのことだから危険なことではないだろう。
「ありがとうございます。ほら、クラリス、魔法練習場に行くわよ」
「うぅ……えっ? うん、わかった」
羞恥に悶えていたクラリスを現実に戻したアイリスはクラリスを連れて部屋を出ようとしていた。
俺も慌てて二人を追う。
着いた先は魔法練習場という、魔法士や魔法学園の学生が利用できる練習場だった。
もしかして彫刻で描かれていた魔法を発動しようとしているのか?
そんなこと一言も交わしていないのに……さすが双子。
「でも姉様、あの魔法だけど……」
「わかってるわ。ほんの少しでもいいからお願い」
「わかった。やってみる」
何やら二人はあの魔法イメージがどんな魔法なのか理解しているようだった。
いやまぁ、理解していなければ発動なんてできないだろうけど……
俺は懐からスマホを取り出し彫刻の画像を表示させる。
……わからん。
これがどんな魔法になるんだ?
球体やら波模様やらで描かれてもわけわからんぞ。
そんな風に思っていたら、クラリスは魔力を集め始めていた。
その魔力量は危険性を回避する為なのか、水1リットルを生成するくらいの量だった。
そしてそれを集めきると、クラリスはそれを魔法へと変換する。
「はっ!」
気合の声と共に、生成されたのは魔力障壁に似た壁だった。
魔力障壁とは、文字通り魔力を結合し、壁を形成する魔法戦闘に於ける基本の防御魔法だ。
だけど、クラリスが作ったものはただの魔力障壁には見えない……
何が違うのだろうか?
そう思っていたら1分も経たないうちに、障壁が崩れて消滅した。
「はぁ! はぁ、はぁ……」
「お疲れ様。ありがとう」
「これ、結構キツいどころじゃないわ。ヒトがする魔法じゃないわよ」
どうやら発動するのにかなりの集中力と魔力制御能力が要求されるようだ。
肩で息をしているクラリスにアイリスは飲み物を渡している。
……うむ。
一体何をしていたんですかねぇ!?
「お二人さん! 説明を求む!!」
「えっ? ……あぁ、ごめん。わからなかったのね」
「すみません、レオンさん。おいてけぼりしてしまいました」
「……いじめか?」
イメージ発動どころか、理論発動ですらも一発で魔法変換できない俺は、寂しさを感じた。
「いえ、そういうわけでは……ただ、この魔法なんですけど、魔力障壁のようでそうでないと言いますか……う〜ん」
あのアイリスが説明に困っている。
一体なんなんだ?
あの魔法イメージはどんなものだったんだ。
「理論発動の場合の魔力障壁は格子状に魔力を束ねていくように発動していきますが、イメージ発動の場合は魔力を固くしていくイメージなんです。氷を作るような感覚ですね」
「ほうほう……それで?」
「でも彫刻に描かれているイメージはそうじゃなくて……魔力でふんわりと壁を作った後、魔力一つ一つから波を放つようなイメージなんです」
「……えっ?」
俺はもう一度画像を確認する。
……これでなんで魔力一つ一つから波を放つってイメージが出るんだ?
俺にとっては芸術を理解するくらい難しいぞ?
まぁ、とにかくそういうイメージなのはわかった。
そして、クラリスがなぜへばってしまったのかも。
「魔力一つ一つから波を放つ……それをふんわりとでも魔力障壁を形成してから実施するから制御が難しいんだな?」
「そうです」
「魔力を束ねるだけでも結構な労力なのにそこからさらに魔力から波動を出すのよ? 頭がパンクしそうだわ」
波動?
……もしかして――
「その波動を観測、分析したら数式を完成させられるかもしれないな」
「あっ、なるほど!」
「それなら数式と魔法イメージを一緒にした意味がわかるわ。あの魔力障壁が数式となんの関係があるのかなんて初見じゃ全くわからないもの」
カラート様がオベリスクにしてまで後世に伝えようとしたもの。
フォンノイマンエントロピーや相対論の公式を載せてることから、情報と重力の二つの事柄を伝えたがっていることがわかる。
そしてその鍵こそがこの魔力から放たれる波動……名付けるなら魔力波……は既に使ってるからなしだな。
まぁ、それはおいおい考えよう。
とにかく、それだとしたなら、それを解析すれば――
「重力の謎を解き明かすことができて、魔力を用いた量子コンピュータもできる。そうすれば最終的には――」
M理論を完成させられる!!
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次回は3/21 9時に投稿致します。
よろしくお願い致します。




