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episode94 オベリスクに刻まれたもの

 


 カラート様が魔力を使ってエクセルと融合し、魔法サーバーとなった。


 もしそうならエクセル大気圏内の魔力と呼ばれるものは、カラート様の支配下にあるということになる。


 月のミスリルとエクセルのミスリルでは性質が違うのは魔力が関係していて、カラート様がミスリルとオリハルコン、アダマンタイトの状態を魔力を通じて状態を固定しているというのなら、ユリアが実験した時に金色に光ったという話だが、それこそがエクセルが魔力でミスリルに介入したという証左だろう。



 さて、まぁそれはそれとして、まずはオベリスクを調べたいなぁなんて思ったけど……



「レオンさん……今はお休み中だってこと、忘れてないですよね?」


「……忘れてないよ」


「声、小さいわよ」



 アイリスとクラリスに注意された。


 まぁ、言いたいことはわかる。


 俺にとってはこういうのは趣味でやっているところがあるが、二人や他の皆にとっては仕事にあたるのだろう。


 アイリスもクラリスも俺に休んでほしいってことでここオシニアに連れてきてくれたんだ。


 自重したいけれども、鉄は熱いうちに打ちたい。


 ……あっ、そうだ。



「ここら辺でカラート様にまつわる観光スポットってある? あのオベリスク以外で」


「ありますよ!」


「露店も多いから、散歩しながら回る? 何回も来てるから案内はバッチリよ!」



 俺がオベリスクのことから離れてくれたことが嬉しかったのか、二人の表情が晴れやかになった。


 よし、これで観光しながらカラート様の足跡を辿れそうだ。


 もしかしたら、オベリスク以外にも何か残してるかもしれないしな。



 ――


 ――


 ――



 アイリスとクラリスにカラート様の活躍を解説されながらオシニアを周る。


 色々と案内されてわかったことが一つあった。



「お前らカラート様に関して詳しくね?」



 露店で買った串焼きを頬張りながら二人に質問する。


 アイリスとクラリスはオシニアにあるカラート様に所縁のある場所の説明を澱みなく説明してくれるから非常に勉強になった。


 けどすごく詳しく説明してくれるものだから、そっちに驚いてしまう。



「お父様が敬虔なカラート教信者なので、私達も詳しくなったんですよ」


「あれはもう歴史蒐集家の域に達してるわね」


「へぇ」



 知らなかった。


 そんな趣味をクラウスさんが持っていたなんて。



「お父様が言ってたのよ。レオンはカラート様に似ているって」


「似てる?」


「振る舞いがカラート様のそれによく似ているんです。カラート様のご活躍を説明しましたよね?」


「あぁ……」



 カラート様に似ている……それは俺がレイディアントガーデンを立ち上げて、航空機や魔道具を開発していったせいで生活水準が大幅に上がったことが、まるでカラート様が人々に生活の知恵や技術を教え導いたエピソードと似ているからだということだった。


 カラート様は善意で知恵を与えていったかもしれないが、俺はただ宇宙に行きたいなって思っただけで、今の状況は結果論でしかない。


 なんというか……申し訳なさの方が立つ。



「にしても、カラート様は本当に温泉好きだったんだな」


「ええ。このオシニアを作る際にはそれはそれは熱心に意見を交わしたそうですよ」



 話題を変える為、ここまで案内してくれた内容を反芻していく。


 カラート様は自身の意見を通そうとすることがかなり少なく、人々の意見を尊重し、問題点だけを指摘するだけに留めていたそうだ。


 しかしこのオシニアで温泉施設を建設するとなった時には、色々と口を出したそうだ。


 当時の弟子達や民も、普段好きにさせてもらっている分、カラート様の言うことを叶えてあげようと特に反発することはなかったそうだ。



 ……ある一点以外は。



「でも……カラート様がまさか温泉に裸で入るように言ってたなんて……少し幻滅したけどね」



 クラリスの言う通り、カラート様は裸の付き合いと称して温泉では全裸を推奨したそうだ。


 しかし言わずもがな、これだけは弟子も民も反対したそうだ。


 ……うむ、薄々思っていたがカラート様は転生者である可能性が高くなった。


 しかも日本人。



「多分、カラート様は浴場を男女に分けることを言い忘れてたんじゃないか?」


「あっ、そんな記述があった気がします」


「確かに……もしかしてレオンにもあったの? そういう公衆浴場の構想」


「いや? 単純にそう思っただけ」



 なんてな。


 でも、今まで聞いたエピソードはただの趣味趣向の話だ。


 カラート様が何故この地にオベリスクを建ててあのフォンノイマンエントロピーの公式を載せたのかはわからずじまいだ。


 まぁ、なんにせよ、カラート様がエクセルと融合し、その情報を維持する為に金色の魔力を使用している可能性は非常に高い。


 その情報もカラビ・ヤウ空間……所謂プランクブレーンに保存されているのなら、プランクブレーン内には大量の魔力があるかも。


 やっぱり、なんとかしてM理論を完成させてカラビ・ヤウ空間の非コンパクト化を実現させたいな。



 ――


 ――


 ――



 そして最後にやってきたオベリスク広場。


 昨日見た時は陽が落ち始めていたから、全体を見ることができなかったが、今はまだ陽が高い。


 故にオベリスクの全体がよく見える。



「気にせず見てたけどこうして見ると所々に数式が出てくるわね」


「ホントね。カラート様は何故こんなものをオベリスクに刻んだのでしょうか?」


「わからん」



 でも、こうして石に刻むということはただ一つ。


 伝えたかったんだ。


 いつか誰かがこの数式を理解してくれることを信じて。


 それを何故行ったのかは、俺にはわからないが、何にせよ好都合。


 存分に利用させてもらおう。


 オベリスクの周りを見ていく。


 正面だけじゃなく、側面や背面にも何か書かれていないか確認する為だ。


 そうやって周って見ていくと、背面に見慣れた数式が出てきた。



 E=mc^2



 特殊相対性理論のあの数式だ。


 それがあるということは……



 俺は背面に書かれてあるものを全体的に見ていく。


 すると、あるものが見えてきた。



「これ……重力を数値化させたものか!?」



 オベリスクの背面に刻まれているものは重力場の数式である可能性が高かった。


 断言できないのは、俺じゃすぐに理解できなかったからだ。


 俺は懐からスマホを取り出して写真を撮る。


 撮った写真を拡大したりして画像が荒くならないか確認したり、詳細に見たいところをズームして撮ったりして資料採集を続けた。










 ◆










 レオンがオベリスクの周りをぐるぐると周りながらパシャパシャと写真を撮っていく姿をアイリスとクラリスの二人はジッと見つめていた。



「休んでくださいって言ったのに……」


「あれがレオンにとっては休みなんでしょ。業務に追われることなく自由に研究できるんだから」



 休暇とは身体を休ませる意味もあるが、自身の好きなことを行うことも含まれている。


 それを押さえ込んでしまったら逆にストレスになることをアイリスとクラリスはよく知っていた。


 宇宙での長期滞在時には好きなことをしてストレスを発散させて、半年もの間、窮屈な宇宙ステーションでの暮らしを満喫できていた経験が二人にはあったからである。



「それにしても、オベリスクに数式を刻んでおくなんて、カラート様は誰かが理解してくれるのを期待していたのかな?」


「でしょうね。でないとあんな……あら?」



 ジッと見つめているのもあれだった為、二人もレオンと同じようにオベリスクを見る為、時計回りに歩き出した。


 オベリスクの正面から見て左側の面を見た時、アイリスが声を漏らした。



「どうしたの? 姉様?」


「あれ見て」



 指差す場所はオベリスクの面……ではなくて台座の方だった。


 そこには文字などは書かれておらず、模様が書かれていた。


 その模様は立体的に彫られた波だったり円だったりと、特に何か意味を持たせているようにはクラリスは見えなかった。



「ただの模様に見えるけど?」


「うん。ただの意匠と思っていたら気がつかないと思うけれど、これ……もしかして魔法の発動イメージなんじゃないかな?」



 アイリスの意見を聞いて、クラリスは改めてその模様を見ていく。


 レオンに出会い、魔法を教えてもらってからは理論発動を使用して魔法を起動させていたクラリスだが、台座に描かれている模様を見て、確かにそれは魔法起動の発動イメージに見えた。



「でも、こんな簡単なイメージじゃ発動なんて難しいわよ? それにレオンがこれに気づかないわけが――」



 クラリスは自身の発言でハッと気がついた。


 そう、レオンは知らないのだ。


 エクセルでの魔法授業の内容を。



「初等部や中等部での魔法授業ではまず、イメージ力を鍛える為に本を読んだり、絵画を見たりして魔法発動の基礎を作る。けれどそれがレオンさんはできかったから、前世の知識を使って理論的に魔法を起動させる方法を編み出した。それが理論発動」


「そっか!? 絵や文字から魔法をイメージすることはイメージ発動が主流だった私達にとっては普通だけどレオンには馴染みがないんだ!?」


「もしかするとカラート様は、数式を理解できて、この彫刻の意味を理解できる人が現れることを願い、このオベリスクを建てたのかも。もしくは……」


「理論と想像……それぞれが得意な人達が協力してこれを解き明かせるように願ったのかもしてないわね」


「そして、それを成し得ることができるのは……」


「ええ……」



 そして、それができる者達を……組織をアイリス達は知っている。


 そう、それは――



「「レイディアントガーデンしかいない!」」










 ◆










 ホテルに戻り、部屋で写真の整理をしていたら、アイリスとクラリスが話があるということで俺の部屋を訪れてきた。


 そこで聞かされたのが――



「なるほど、理論とイメージ……そのふたつを使って解き明かせということか」


「はい……どうでしょうか?」


「いい線いってると思うんだけど……」



 少し不安そうに見つめてくる二人。


 しかし、俺は台座に目を向けていなかった為、すごく助かる仮説だった。



「かなりいい指摘だよ。俺は台座になんか目もくれていなかったし、それにそれを聞いて納得した」


「納得? 何に?」


「これ、見てくれ」



 俺は写真から数式を書き写したノートを二人に渡す。


 そしてそれを二人は読み進めていってから口を開いた。



「「数式が未完成?」」


「そう。まぁ、どっちかっていうと空白があるって感じかな」



 双子故か、声を揃えて数式の特徴を言ってくれた。


 未完成……というよりかはどちらかというと二人に言った通り、数式に空白がある状態だった。



「空白というと?」


「完成している数式をバラバラにして、その一部をオベリスクに刻んだ……のかもしれないけど、多分違う」


「それって……まだどこかにヒントがあるかもってこと?」


「ああ」



 というより、もう大体の見当はついている。



「このロムルツィアにはオベリスクがいくつもあるよな? それこそカラート様が直々に建てたっていうものが何軒か」


「なるほど! それぞれに刻まれているものを繋ぎ合わせれば一つの数式が出てくるかもってことですね!」


「そうだ。まぁ、長い年月の間で模倣されたり壊されたりしたものがあるかもしれないけど、調べる価値はある!」



 もしかしたら、これを解き明かせば重力の謎が判明するかもしれない。


 そうすればM理論完成に近づく……というより完成するだろう。


 これは夢が広がるな!!

次回は21時に投稿します。

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