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episode90 ホントの気持ち

 


 月で見つかったミスリルの謎を明らかにする為、月で大きめのミスリル鉱石を用意して、それを太陽光に当てて、N(ニュートリノ)D(検出)E(実験器)でミスリルから放出された魔力を調べたら魔力の反粒子……黒魔力であることがわかった。


 これをエクセル上でやりたかったが、エクセル上では太陽に当てるどころか、空気に触れた瞬間に性質が変わるからできなかった。


 月からの黒魔力の正体はミスリルから放出されたものであることは証明された。


 月の地下深くにあるミスリルが、ほんの少しの太陽の魔力の影響を受けて放っているんだ。


 ニュートリノと同じように魔力は地面を進めるからな。


 まぁ、ニュートリノよりは周りに影響を受けるみたいだけど、それは今はどうでもいい。


 ようはそんな微弱な魔力で結構な量の黒魔力が検出されるってことはだ。


 月にはミスリルが、そしてベータ崩壊で生まれたオリハルコンやアダマンタイトが大量に眠っているってことだ。


 これは夢が広がるねぇ!! ってところで――



「わい、帰還」


「……わい?」


「わいって何よ?」



 長期滞在を終えて、帰還する日を迎えてしまった。


 アイリスとクラリスが首を傾げているが、今、俺は某心臓を捧げる兵団の心境だ。



「何の成果も!! 得られませんでしたぁ!!」



 あんなに大言壮語で意気揚々と月に行ったのに……この体たらくだよ!!


 魔力の正体を突き止めることができなかった!!



「いや、電波望遠鏡建てたじゃないの」


「黒魔力の発生源がミスリルだったっていうのも突き止めたじゃないですか」


「……せやな」


「さっきから何なの? その口調?」


「どこかの方言ですか?」



 前世の日本の関西です。


 まぁ、楽しいひとときだったからいいかな。


 地球の出もとい、エクセルの出は大変美しゅうございました。



 ――


 ――


 ――



 数日後。


 リハビリを終えた俺は社長室で縮こまって座っていた。


 理由は単純。



 ――社長業等を半年放棄していて秘書であるリリーが怒っているからだ!!



「……マスター。月面ミッション、お疲れ様でした」


「あっ、はい。ありがとうございます」


「ミスリルの性質変化と永久影や地下での氷の発見、月面電波望遠鏡の建設と、随分充実した日々をお過ごしだったようですね?」


「はい。それはもう……」



 笑顔だけど瞳が笑っていない!!


 でも仕事が山積み残ってるって訳じゃなさそうだけど……まさか!?



「まさか……仕事全部片付けたの?」


「研究以外のものは全て対処致しました。研究報告に関しては私では対応出来かねますので。そのほかは領主でないと処理できないもののみ残しています」



 あらやだ!? この子優秀過ぎだわ!?


 元から優秀だって思ってたけど、やっぱりすごい!!



「す、すごいですね」


「……敬語、崩してください。怒っていませんから」


「あっ、はい」



 ほんとぉ?



「しっかり引き継ぎなどしてから月へ行ってくださいましたから……ただ、あまり突然宇宙に行かないでください。私もいっぱいいっぱいなんですから」


「それは……すまなかった」



 だよな。


 突然慣れてない仕事を短い期間でこなせるようにしろなんて、しんどいよな。


 ホントに悪いことをしてしまった。


 反省しよう。



「まぁ、勉強になったのでよしとします。こちら、溜まっている各研究室からの報告書と領地経営の各資料です」


「よ、よし! わかった! やっていくぞ!!」



 これから数日、俺は書類整理に没頭した。










 ◆










 書類仕事から解放されて、長期滞在を終えた後のリフレッシュ休暇を頂いた俺は実家に帰ってきていた。


 ……休む気なんかなかったんだけど、こんな機会でもないと休まないだろうとリリーに叱られてしまった。


 でも俺の家=会社なのでいやでも仕事内容が目に付いてしまう。


 そこで提案されたのが実家に帰ってはどうか? というものだった。


 確かに普段は両親の命日……正確な日付を知らないから気候的に春あたりに墓参りだけしてすぐ帰ってたから、今回は少しゆっくりしよう。



 アイリスとクラリスも休暇をもらっていて、二人も実家に帰っている。



 久しぶりに一人の時間だ。



「……ただいま。月から帰ってきたよ」



 この世界の両親の墓に帰還を伝える。


 記憶の中にある魔法の講師だった両親の顔と声。


 自身についても、六歳まで生きた「オレ」の記憶がある。


 しかし、それは「オレ」の記憶であって「俺」の記憶じゃない。


 でも、「俺」は、本当のアルファード家を知る唯一の存在なわけだ。


 今でも、「レオン君」の体を乗っ取っているという意識がある。


 でもだからこそ、「レオン君」から貰ったこの身体を大切にしていきたい。



「……」



 アルファード家の血を後世に伝える為に必要なことってやっぱ結婚だよな。


 なんてことを考えた時、アイリスとクラリスの二人の顔が浮かんだ。


 STS-400終了時に告白してくれた二人だが、俺はまだ答えを出せていない。


 告白から六年が経った今も、返事を待ってくれている……とは思う。


 帰郷する時、途中まで一緒だったんだが、二人の胸元には以前、俺がプレゼントしたエメラルドとサファイアが輝いていた。


 それだけで待ってくれていると思うのは自惚れているのだろうか?


 ……わからん。


 世のモテ男達に聞きたいわ。


 どうやって女の子の気持ちに答えているんですか? ってな。



 ――


 ――


 ――



「――ってことでアドバイスが欲しい」


『……お前、急に通信してきたと思ったらなんだよ、その相談内容はよ?』



 墓参りを終えて、俺は実家に帰ると早速クリスにマジホで通信を取った。


 クリスは今、俺と交代で月面のアルファードタウンにいる。


 ちょうどプライベートタイムだから出ると思ってコールしたんだけど案の定だった。



「もう六年も経つんだ。そろそろ決めたいんだけど……決められなくて……」


『ヘタレめ』


「……ぐうの音も出ねぇ」



 ズバッとクリスに指摘されたが、それは俺も同意見だったから何も言えなかった。



『ってか、一緒に半年(ここ)で過ごしてたろ? そん時になんか思うところはなかったのかよ?』


「それは……その……」



 俺はこれを言おうか言うまいか悩んだ。


 ……だって返ってくる言葉が想像できたから。


 しかし、このままでは先に進まない為、俺は諦めて言った。



「……黒魔力の発生源を探ることに集中して、一緒に過ごしているってことを考えないようにしてました」


『ヘタレめ』


「……ぐうの音も出ねぇ」



 本日二回目である。



「だってよ!? あいつら普段通り接してくるんだぞ!? 意識しない方がおかしいって!!」


『……普段通りってなんだ? 別に普段通りなら意識も何もないだろ?』


「タブレットの資料を一緒に見る時に頭を肩に乗っけてきたりだとか! 俺が読み物してたら後ろから抱きついてきて何読んでるのか聞いてきたりとか!! そんなのは恋人相手にしろってんだ!!」


『……えっ? それが普段なのか?』


「俺も言ってておかしいなって思ったけどそうだ!!」



 まだ付き合ってもいない相手と接する距離感じゃねぇ!!


 クリスも声出す前にスゥ……と息を吸ったの聞こえたぞ!?



『……まぁ、聞いてて思うのはさ。もうお前の中で答えは決まってんじゃねぇかなって思うぞ』


「……えっ?」



 どゆこと?



『……お前、アイリス達が最初にそのスキンシップ始めた時、なんて思ってた?』


「えっ……貴族女性がすることじゃないなって思ってた」



 それがどうしたんだ?


 質問の意図がわからない。



『……で? 今は?』


「それは……今でも変わらないぞ?」



 俺は正直に答えた。


 でも、クリスから見れば、その答えは不正解だったらしい。



『そうか? 最初期のスキンシップの時のお前と、今のお前とじゃ、反応が違う気がするんだけどな?』


「……」



 確かに……今の俺は何でこんなに困惑しているんだろう?


 今まで、過度なスキンシップを取られても気にしていなかったのに……


 そんなことを考えていたら、クリスがその答えを言ってきた。



『お前、二人のことが好きなんだよ』


「……」



 そう……だな。


 そうとしか考えられないか……


 どっちかなんて決められない。


 だから俺は今までズルズルとここまで引き伸ばしてきたのか。



 俺はアイリスとクラリスの二人のことが……好きなんだ。



 そう考えるとモヤモヤしていた気持ちがスッキリした。


 ……あぁ、なんだ。


 こんな簡単なことだったのか。



「そうか……そういうことか」



 しかし、自分の気持ちに気がついたからと言って見過ごせない問題がある。


 それは、好いた人が二人いるということだ。



「でも……どちらかを選ばなきゃいけないんだよな……」


『二人と付き合えばいいじゃん』


「お前……他人事だと思って……」



 真面目トーンから急にふざけたことを言ってきたから少しカチンときた。


 しかし、クリスは別に茶化しているわけではなかったようだった。



『いや真面目な話さ。別にお前なら二人娶っても問題ないだろ?』


「……えっ?」



 なんか……大分前にも同じようなこと言われた気がする……


 ……あっ!?



『大商会の会頭や貴族の当主には結構いるぞ? 第二夫人』



 大分前に陛下にも言われた奴ぅ!?



「で、でも二人はゼーゲブレヒト侯爵家の令嬢だぞ!? 俺みたいな平民が相手していいのか!?」


『……それ、他の人に言うなよ? ぶん殴られるぞ』


「あっ、ごめん」



 気を取り直して、咳払いをして……



「んんっ! 商会の会頭ではあるけどさ? 相手は侯爵令嬢だぞ? どう頑張ったって無理だろ?」


『……お前、自分の肩書きを言ってみ?』


「えっ? えぇっと……」



 なんかクリス怒ってる?


 いや、なんか呆れてるって感じかな?


 一先ず、思いつく限りは――



「アルファード領領主、レイディアントガーデン代表、魔術省大臣……くらい?」



 十分な肩書きだと思うけれど、これで侯爵家とタメ張れるんすか?



『……他は?』


「……へぁ?」



 まさかの続きを要求されて変な声が出た。


 他……他!? ねぇよ! そんなもん!!



「ない……けど?」



 俺がそう言うと、スピーカーの向こうからクソデカため息が聞こえた。



『はぁ〜……世界で初めて空を飛べる魔道具を作ったのは?』


「えっ……俺」


『世界で初めて人が乗って空を飛べる乗り物を作ったのは?』


「……俺」


「世界で初めて宇宙に行ける乗り物を作ったのは?」


「……スゥ……俺」


『世界で初めて魔法について革新的な理論を提唱したのは?』


「俺です……」


『……これで侯爵家に見劣りするとでも?』


「えっ!? しないの!?」


『しねぇよ!! それこそ王族が求婚してきてもおかしくないだろうよ!!』


「ふぁ!?」



 俺ってそんな立場なのか!?


 ……えぇ!?



「い、いや……でも、俺は平民出だし……」


『優秀な血を入れたいって思うのはどこも一緒だと思うぞ』


「……えっ? 婿養子決定なの?」



 まぁ、平民出の俺がとやかく言える立場じゃないけど。



『別に決定じゃねぇさ。結婚……つまり家と家の繋がりができたらOKって考える貴族が多いってことさ』


「そ、そうなのか……」



 そのあたりは前世と同じなんだな。


 と言うか、ルナちゃんもグランウィード家に嫁いだ形だもんな。


 伯爵家から平民に。


 レン君も英雄と呼ばれるくらい有名人だから、境遇は結構俺と似ているな。


 ……いや、向こうは賢者と導師の息子って肩書きがあるわ。


 あと、彼らのラブラブっぷりを見てると、「愛の力で結婚にこぎ着けました!」っていう感じがしていたから例外だと思ってたけど、別に例外じゃなかったんだな。


 ……ん? 待てよ?


 身分もクリア、倫理的にも複数人と付き合ってもおかしくない立場にいるからそれもクリアってことはだぞ?



「俺、アイリスとクラリスと付き合っても問題ないのか!?」


『だからそう言ってんじゃねぇか!?』


「えぇ!?」



 俺の悩みは一挙に解決した。

来週3/7 9時、12時、15時、18時、21時に一話ずつ投稿しようと考えています。


よろしくお願いします。

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