episode9 アケルリース王国へ
前回の前書きで脱字を発見した
感謝の気持ちが前に出すぎたらしい
よもやよもやだ、穴があったら入りたい
747コックピットでは、全ドアのクローズを確認し、プッシュバック前のチェックを行っていた。
それもすぐに終わり、クラリスが地上スタッフに無線でプッシュバックを要請する。
「グランド、ノアセダル201、プッシュバックお願いします」
『ノアセダル201プッシュバック了解。リリースパーキングブレーキ』
クリスが機長席横にあるパーキングブレーキレバーを下ろしてブレーキを解除する。
解除されたことが確認されると機体をトーイングトラクターで後ろに下げてくれる。
そして、エプロンを離れて安全圏まで押されたら、エンジンをスタートさせるために再度、地上スタッフに無線で呼びかける。
「グランド、エンジンをスタートします。よろしいですか?」
『エンジンスタート了解しました。3番4番からお願いします』
「了解。3番4番からスタートします」
オーバーヘッドパネルにあるエンジン起動用のダイヤルを回す。
その後、スロットルレバー下にあるフューエルコントロールレバーを上げてエンジンに高出力の魔力を供給する。
全てのエンジンが起動したら、計器や機内の照明・設備に魔力を供給していたAPU(補助動力装置)を止めて、エンジン内に吸気された魔力を使用する状態にシフトさせる。
切り替えたタイミングでプッシュバックが完了した為、再びパーキングブレーキ掛ける。
「フライトコントロールチェックするか」
「了解。エルロンライト」
クラリスの指示に従ってヨークを右に傾ける。センターにあるモニターに表示されている翼の油圧を確認して、動いているかチェックしていく。
「チェック。レフト……チェック。エレベーターダウン……チェック。アップ……チェック。ラダーライト……チェック。レフト……チェック。コントロールチェックコンプリート」
「ありがとう。まだ人がいるな」
「じゃあ、ビフォータキシングチェックリスト進める?」
「そうしようか」
クラリスの提案で誘導路走行前のチェックを行なっていく。
それを終えると地上スタッフの退避が完了したという無線が流れた。
「タワー、ノアセダル201。リクエストタキシー」
管制塔に誘導路走行の許可を貰い、指示を受ける。
スロットルを少しだけ前に押して走行を開始して、滑走路まで進ませる。
「フラップ10」
「フラップ10」
離陸に必要な揚力を生む為にフラップを10°展開する。
『ノアセダル201。クリアードフォーテイクオフ。ランウェイ19』
「クリアードフォーテイクオフ。ランウェイ19。ノアセダル201」
滑走路に到着し、管制塔から離陸許可が下り、キャビンコールを鳴らして滑走路に進入する。
ラインアップ(滑走路の真ん中に機体を進入させること)を終えて、停止する。
「ヘディング190。ヘディングセル」
「ヘディングセル」
方位190°に機首を向けて、ダブルチェックを行う。
「よし、じゃあ行くか!」
「いざ! アケルリースへ!!」
クラリスが気合を入れ、スロットルを押していく。
表示されているエンジン回転数が50%を上回る。
「スタビライズ」
「スラストレフ」
クラリスのコールと同時にTO/GAスイッチを押してオートスロットルモードにする。
これで設定された出力まで自動で上げてくれる。
推力が上がり、グングンと速度を上げていく機体。
「80kt」
クラリスが速度を読み上げ、順調に行っていることを教えてくれる。
計器の確認をクラリスが担当することで、クリスは操縦に専念できるのだ。
「V1」
離陸決心速度を超えた。
これを超えると、エンジンが燃えようが止まろうが関係なく飛ぶしかなくなる。
「VR」
機首上げ速度を迎えたのでクリスはヨークを手前に倒す。
身体がシートに押し付けられる感覚が飛んだことを示している。
「V2」
安全離陸速度を迎え、対気高度計はゆっくりと上昇していることを示していた。
「ポジティブ」
「ギアアップ」
高度計が動いていることがコールされ、クリスはランディングギアを収納するよう指示する。
「ギアアップ、LNAVキャプチャー」
ギアレバーを上げてギアが上がり、水平方向のナビゲーションが起動した。
「スラストレフ、VNAVスピード」
上下方向のナビゲーションも起動したことを確認し、オートパイロットを起動する。
これで後は設定した高度まで自動で上がり、FMC(飛行管理コンピュータ)で設定した航路を飛んでくれる。
後は細々とした通信や確認だけとなり、二人は肩の力を抜いた。
ここからアケルリースまで約4時間のフライト。
今まで1時間ちょっとの飛行しかしたことがなかった為、二人はゆっくりと空の旅ができることを嬉しく思っていた。
◆
随行員席でレベルオフ(水平飛行)に移ってから頭を抱えている人は誰でしょう?
そう私です。レオン・アルファードです。
なんで俺も行く羽目になったんだ?
そもそもいつ決まったんだ?
「私は以前お話ししましたよ?外遊に同行するから準備してくださいねって」
隣に座っていたアイリスが抗議してきた。
「それはお前自身のことだと思ってたんだよ。だから指示通りドレスを買っただろ?」
「あれってそういうことだったんですか!? そもそもなんで私の準備をマスターに頼むんですか?!」
「おう、それ一番の疑問だったわ」
「疑問に思ったのなら訊ねてください!……ドレスをもらった時、プレゼントしてくれたと思って嬉しくて飛び上がっちゃったじゃないですか……」
「……なんかごめん」
確かに渡した時すげぇ嬉しそうだったけど、アイリスが用意しろっていうから用意したのになにを喜んでるんだろうと思ってたが、そういうことだったのか。
「だが代わりに俺はなんの準備もしてないぞ?」
「荷物の中にマスターの分がなかったので私が用意しましたよ」
「ナイスぅ!」
「ナイスじゃありません!!」
怒られた。
まぁ、とりあえずなんとかなりそうだから国王陛下に感想でも聞きに行こうかな。
「陛下達に会いに行こうと思うんだけど、来る?」
「はぁ……お供します」
――
――
――
「素晴らしい……素晴らしいよレオン君」
「ヘリより音も静かで揺れも少ない……それにこうして乗り物の中で温かいお茶と菓子を頂けるなんて……」
「こうしてゆったりと遠征できるなんて夢のようです。感謝いたします、レオン様」
貴賓室に行ったら感動しながらお茶と茶菓子を召し上がっている王族の姿があった。
そりゃ、外国に行くのに毎回決死の覚悟で遠征に挑まなきゃいけないんだから、しんどいよな。
空港を作ってやるって息巻くのも無理ないか。
ちなみに、このお茶や茶菓子を用意したのは随行している王城勤めのメイドである。
事前にギャレーの設備の使い方を教えていて良かった。
「お気に召して頂いて何よりです。今、朝食の準備をしてもらっていますのでしばらくお待ち下さい」
「えっ!? 食事まで出来るのですか!?」
「まぁ! 空の上で食事なんて夢みたいだわ」
「本当に至れり尽くせりだ。ちなみにアケルリースにはどれくらいで着くんだい?」
「大体、3時間半くらいで空港に着きますよ」
「「「3時間半!?」」」
そんなに早く着くとは思っていなかったらしい。
王族らしからぬ驚きっぷりだ。
「えっ、えぇ!? じゃあ、エシクン山脈は!?」
「そろそろ見えてくるんじゃないですかね?」
俺がそう言うと三人揃って窓の外を見た。
……親子だなぁ。
「あっ! お父様!! 真下! 真下です!!」
「おぉ!! エシクン山脈が遥か下に……」
「いつも決死の覚悟で登っていた山をこんなに軽々と……ッ!?」
姫殿下と国王陛下は興奮した様子で外を眺めて、王妃陛下は涙を拭っている。
王族が感動に震えているとドアがノックされた。
「国王様、王妃様、姫様。お食事をお持ちいたしました」
「入れ」
「失礼いたします」
ドアを開けて、食事と飲み物を乗せたワゴンと共にメイドが入室し、給仕を始めた。
「では、私はこれで」
「失礼いたします」
俺達もご飯にしようと思い、退室しようとしたが、国王陛下がそれを止めてきた。
「待ちなさい。レオン君達もここで食事すればいいじゃないか」
「えっ? よろしいのですか?」
「もちろん。いい機会だから君が今後なにをしようと考えているのかゆっくりと聞かせてくれ」
「まぁ! それは素晴らしいわ!! ご一緒してくださいますか? レオン様。アイリスもご一緒しましょう?」
姫殿下も話をしたいと同席を提案されたら、俺に断る理由はない。
「では、お言葉に甘えて」
「私も僭越ながらご一緒させて頂きます」
俺達の分の食事も持ってきてもらうように、国王陛下がメイドに指示してくれた。
メニューはオムレツにサラダ、コーンポタージュにパンというTHE朝食といったメニューだ。
用意ができたところで、神に祈りを捧げてナイフとフォークに手をつけ、舌鼓を打った。
――
「宇宙で暮らす……ですか?」
「移民ということかね?」
「それは飛躍しすぎですね」
食事も一通り食べ終えて、今後の展開を説明した。
宇宙ステーション計画。
わかりやすく宇宙で暮らせる施設を作ると言ったのだが、お二人の想像は先を行ってしまったらしい。
そこでアイリスが補足説明をしてくれた。
「無重力環境を利用した魔力・魔法の研究と新しい魔道具素材の開発、新しい薬の開発の為の研究が出来る研究施設を作ろうと考えているんです。研究の為には宇宙で何ヶ月も滞在しなければいけないので、暮らすと表現しています」
「なるほど」
「ソユーズではダメなんですか?」
国王陛下が頷いた後、姫殿下が首を傾げて訊ねてきた。
ソユーズにも軌道船内に実験器具を入れることができるが――
「あれは小さすぎるんですよ。なので簡単な器具しか持っていけないんです」
「加えて軌道上には長くて二週間ほどしか飛んでいられません」
「何故ですか?」
その質問にアイリスが答えた。
「高度200kmから300kmでも薄く大気がありますので空気抵抗で高度が下がるんです。高度を維持する為の燃料も多く持っていけませんし、食糧も同じですね。まぁ、それ以前に二週間も居られないんですが……」
「? 何か問題でも?」
そう。
ソユーズに二週間も滞在できない。
何故なら――
「「狭すぎるからイライラするんです」」
狭い所にずっと缶詰にされるというのは結構苦痛だ。
特にソユーズでは、プライバシーのプの字もないので余計である。
トイレなんて仕切りなんかないから、見られまくるし、狭いから体はよく当たるし……だからミッションクルーは男女混合で組まずに男性三人組あるいは女性三人組で組んでいる。
「なるほど。それを解消するには広いスペースが必要なんですね」
「まずは長期間、無重力が与える人体への影響を見ようと思っていて、実はもう宇宙滞在が始まってます」
「何!? もう始まっているのか!?」
「あなた達は本当にすごいことを次々にしていくわね」
両陛下が感嘆の声を洩らす。
実は2年前に空港や747建造の前にモジュールは完成しており、後は打上げを待つだけだったのだ。
それらを打上げて、自動ドッキングシステムを使用してモジュールを接続し、電源や各部システムチェックを終えたのが、1ヶ月前だ。
「その宇宙ステーション?には名前があるんですか?」
姫殿下が興味津々に質問してきた。
そのステーションの名は、前世で15年間、稼働した宇宙ステーション。
「ミール宇宙ステーションと名付けています」
◆
――アケルリース空港。
無事ランウェイ10へと着陸し、エプロンへと機体を移動させることができた。
……着陸の時にアケルリース王都の上空を通らざるを得なかったのだがよかったのだろうか?
まぁ、インパクトを与えたかったから良しとしよう。
今は建築時に持ってきていたタラップ車を横に付けてもらい、降りる準備をしている。
「そういえばあなた? 王都までの道のりはどうするの? 馬車は持ってきていないでしょう?」
王妃陛下が心配そうに国王陛下に訊ねる。
対照に国王陛下は笑顔でその質問に答えた。
「心配するな。馬車よりも良いものを用意してもらっているよ」
国王陛下が俺を見てウィンクする。
……顔がいい人は何やっても様になるな。
「馬車よりもいいものって……!?」
「それって……レオン様! まさか!!」
王妃陛下も姫殿下も気付いたようだ。
そう、ノアセダルの貴族達は既に車を保有している。
そしてそれは王族も同じであり、王族には特別な一台を用意しており、国内の短距離移動はそれで行っている。
L1ドアが開け放たれ、タラップのその先にその一台は停まっていた。
「まぁ!」
「やっぱり! センチュリーを持ってきてくれたんですね!!」
トヨタ センチュリー
前世で最高級車の位置にいた車だ。
この車は王族専用として開発・製造しているため、他の貴族達は所有していない。
センチュリーは二台あり、一台は両陛下、もう一台は姫殿下用だ。
用意する時、二台頼むと言われたから姫のことを知らなかった俺は陛下達は別れて乗るのかと思っていたが、これで合点がいった。
後部座席は三人シートではあるが、ぎゅうぎゅう詰めの姿を見せたくはないだろうしな。
「では、参りましょうか。私達は後で参ります」
両陛下、姫殿下をお乗せし、警護は近衛騎士達に任せた。
彼らは普段は馬に騎乗しているが、今回は護衛用車仕様のトヨタ クラウンに乗って護衛する形になる。
……中世世界で、ここだけ、ものすごい近代感。
陛下達をお送りした後、クリスとクラリスが機体から降りてきた。
「いやぁ、長距離フライトって楽しいな!」
「ホント! もっと飛んでいたいわ」
「……お前ら本物のパイロットだよ」
仕事を全力で楽しんでやがる。
「あっ、エルフリーデ達も来たみたいよ」
クラリスの視線の先には、もう一機の政府専用機が降り立とうとしていた。
前世でもそうだったが、日本政府専用機は基本的に二機運用を行なっていた。
一機が故障しても、もう一機で帰路に着くためである。
ノアセダルでもそのように運用しようと思い、二機建造してもらったのだ。
「まぁ、あいつらはあいつらで王都にくるだろう。俺達も移動しようぜ」
クリスに促され、俺達も王都に向かった。
――
――
――
俺達が乗り込んだのはレクサスLS500sh
それに乗って今は王都のメインストリートを通っているのだが……
「めっちゃ見られてる」
「当たり前でしょうが!!」
「注目されねぇ方がおかしいだろ!!」
「あ、あはは……」
俺の言葉に運転しているクリスと助手席に座るクラリスからの総ツッコミとアイリスの苦笑いが飛んできた。
「いや、先に来てた陛下達の列を見た後なんだ。そんなに注目しなくてもいいだろ」
「いや、それは無理があるでしょ」
「何だあれ? って思ってる所にまた同じのが通るんだから、まじまじと見るだろう?」
それもそっか。
前世でも、珍しい車が通ったら見るもんな。
ランボルギーニ・アヴェンタドールとか。
「あっ、見えてきた」
「おぉ、さすが三大大国の城だな。でけぇ」
「まぁ、うちのオフィスビルの方が大きいのだけれどね」
クラリス、クリス、アイリスがそれぞれ呟いた。
流石は三大大国。
城も立派な佇まいだ。
さて、ここで俺達の活躍がどう受け取られるのか。
期待半分不安半分だな。
◆
アケルリース王国国王、ヴォルフガング・フォン・アケルリースは困惑していた。
王国会談に参加する国の重鎮達に挨拶をしていた時、誰かが声を上げた。
「何だあれは?」
その声に反応した方々が見上げる方向をヴォルフガングも見上げる。
そこには巨大な翼を広げた何かが飛んでいた。
「何だあれは!?」
「新種の魔獣か!?」
各々が混乱していると、その何かは王都の上空を通り過ぎようとしていた。
風を切る音と今まで聞いたことのない音が街を包む。
「あれは……」
ヴォルフガングは、その何かを観察する。
日の光に照らされたその輝きは鉄のように見え、周りにいた者達もすぐにわかった。
――あれは人工物だと。
ヴォルフガングはそれの縦に伸びる帆のような部分に描かれていた模様を認めた。
三日月に、新円のシンボル。
ノアセダル王国の国旗に描かれているものだ。
「あなた……まさか、あれの行き先って……」
ヴォルフガングの妻であるルトリシアが声をかける。
ヴォルフガングもあれの行き先に心当たりがあった。
「あぁ、ノアセダル王国が買い取った土地にできた【空港】って所だろう」
となるとあの中にもしかしたら国王達が乗っているかもしれない。
もしそうだとしたなら――
「彼らは魔法士達の悲願である【空を飛ぶ技術】を開発したのか」
仮に彼らが空港からここまで来るのだとしたら、馬車で2時間半は掛かる。
到着したら真偽を聞いてみよう。
そう考えていたヴォルフガングだが……その到着予想を大きく外し、ノアセダル王国両陛下は僅か20分程で到着した。
しかも、馬の引いていない車に乗ってである。
「お久しぶりです。ヴォルフガング陛下」
「あぁ、久しぶりだな。マティアス」
冷静を装い、挨拶に答えたが後ろの車が気になって仕方がない。
加えて驚いたのはノアセダル王妃であるマリーダである。
前回の会談の際、白死病を患い、死の淵から生還したマリーダが自らの足で歩いていたことに驚いたものだが、今回も驚くほどに変わっていた。
――綺麗になっていたのだ。
肌は透き通るように白く、髪は艶やかに風に靡いている。
思わず息を呑む美しさだった。
姫であるリリーも同様に、その長い髪を靡かせていた。
「マリーダ、あなた凄く綺麗になったわね……白粉を塗っている様子もないのに肌が綺麗で、髪も艶やかだわ」
「ありがとうルトリシア。この肌も髪も国内で開発した新しい美容品のおかげなのよ」
「あらそうなの?」
二人は王妃となる前から面識があり仲が良い。
何気なく会話している両国王妃だが、マリーダ以外のルトリシアを含めた王妃達は皆、この時心を一つにしていた。
――私も欲しいと。
「とっても羨ましいわ。その……マリーダ? 不躾だとは思うのだけれど……」
「美容品なら購入することが出来るわよ? なんなら開発者本人と交渉するといいわ」
「えっ?」
「彼、ここに来ているから」
そういうと、マティアスとマリーダは王城正門の方を見る。
そこにはもう一台、また馬の引いていない車が自走してやってきた。
「紹介するわ。彼が、私の命の恩人であり、私達家族をこのアケルリースまで送る為の空飛ぶ船とこの自走する車を作り上げ、私とリリーをここまで美しくした美容品を作った……我が国の誇る天才――」
その一台から黒髪とブラウンの瞳を持つ成人したばかりであろう少年が降り立った。
「【魔導の申し子】、レオン・アルファードですわ」




