表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/131

episode89 ミスリルの謎

 


 氷やオリハルコンなどを見つけてから数週間。


 穴の最奥でようやくミスリルを見つけて、早速スペクトル分析を行い、調査した所、驚くべきことがわかった。


 それは、ミスリルとオリハルコンとアダマンタイトは実は同一金属からベータ崩壊を起こしてできたという事実だった。



「ベータ崩壊……ってことは魔力が集まった魔素も原子と同じ動きをするってことですね」


「まぁ、魔力の場合、飛び出した電子なりニュートリノなりを呼び戻すことができるからいろんな元素に変われるんだろうけどな」



 ベータ崩壊とは、原子核から電子と反ニュートリノ、あるいは陽電子とニュートリノを放出して別の原子核に変わる現象だ。


 ゴールデンレコードに施されているウランメッキはこのベータ崩壊でウランが鉛に変わる現象を利用して年代を特定できるようになっているのだ。


 ようは別の原子に変わる現象と思っていればいい。



「この解析結果から見ると、金属と魔力の合金ってことよね? ミスリルやオリハルコンって」


「そのようだな。魔力がミッチミチに詰まってるのがミスリルで、そこから放出や吸収をして変化したのがオリハルコンとアダマンタイトって感じか?」



 クラリスの質問に答えながら、コーヒーを淹れる為、カウンターへと足を運ぶ。



「なんか飲む?」


「あ、じゃあ、私紅茶!」


「私も同じでお願いします」


「あいよ」



 俺はクラリスとアイリス用に紅茶を淹れ始める。


 とは言っても宇宙用の飲料パックなのでそんなに時間はかからない。


 宇宙用のストローと一緒に、二人に紅茶を手渡した。



「ありがとう」


「ありがとうございます」


「どういたしまして」



 全員に飲み物が行き渡った為、俺はコーヒーに口をつけた。


 ほぼ同時に、二人も紅茶に口をつけていて、これまたほぼ同時にホッと息を吐いた。



「それにしても不思議ですよね。地上ではミスリルのベータ崩壊なんて観測されなかったのに……」


「宇宙とエクセルとではやっぱり何かが違うんだろうな」



 アイリスがふと思い出したように、ミスリルについて口に出した。


 ミスリルがベータ崩壊を起こしていることがわかったが、それは地上ではわからなかった。


 しかも、月のミスリルがベータ崩壊するのは魔力光が当たった時だけ。


 だから地上で月が出ている時だけ、黒魔力が降り注いできたのだ。


 だが、何故黒魔力なのか? 白魔力はどこにいったのか? と言われるとわからない。


 観測しようにも観測機器がここには足りないから探すこともできない。


 ホント、魔法って不思議。











 ◆










 ――レイディアントガーデン 研究棟


 ユリアは助手的位置になってしまっているクリスタとララと共に、月から送られてきた素材と対面していた。


 その素材とは、ミスリルである。


 とは言っても、バッグの中に入っている為、それを直に見ているわけではない。



「さて、これを魔力に晒さずに開けますわよ」


「はい!」


「準備OKです!」



 クリスタとララは自身が身に纏っている服を確認して答える。


 その服は地球でいうところの防護服の形相をしている。


 その服は無論、ユリアも着装している状態である。


 防護服は宇宙服とほぼ同じ技術で作られているもので、何故三人はそんな格好をしているのかというと、彼女達がいる部屋では、それが必須装備だからだ。



 彼女達がいる部屋は無魔室。


 地球でいうところの無菌室の魔力版である。


 魔力はエクセル人にとって必須である為、魔力を取り除いた部屋に入ったら、途端に気分が悪くなるだろう。


 それを防ぐ為の防護服なのだ。


 ユリアは月で採れたミスリルの入ったバッグを慎重に開けていく。


 そして、特に何事もなく、バッグは開け放たれた。



「見た目は……ただのミスリル鉱石ですわね」


「そうですね。でも少し青みが強いような?」


「これがベータ崩壊してオリハルコンになるんですね。びっくりです」



 ミスリル鉱石は特に変化をせず、そこに鎮座していた。


 ユリアは次にノミと槌で鉱石を割っていく。


 割られた鉱石のかけらをクリスタとララが取り分けていくが、その間にも、特にミスリルに変わりはなかった。



「特に何も起きませんわね」


「何か起きたら私達やばいことになるとかないですよね?」


「……」


「何か言ってくださいよぉ!?」



 ララの言葉に黙り込んだユリアだが、冗談ではなく、本当に何が起こるかわからなかったからだった。


 もし、目に前のそれが放射性物質のような働きをしたら、彼女達は急性被曝し、死に至る。


 そうならないように装備を固めているものの、少しは不安に感じていた。



「まぁ、この部屋ならば大丈夫でしょう。まずはこれを強化実験ケースに入れて、魔力を流してみましょう」



 強化実験ケースは頑丈なオリハルコン・アダマンフレームで固められた立方体の実験ケースで多少の爆発にも耐えられる代物である。


 強化ガラスも張られていて、中を確認できるようになっている。


 そのケースに割ったミスリル鉱石の一欠片を入れ、魔力を注入してみる。


 一欠片なのは、塊を入れて爆発などした際に被害が広がらないようにする為の対処だ。


 いくら強化実験ケースがかなり頑丈とは言っても、これから行われるのは未知の実験である為、用心するに越したことはない。



「……それでは、行きますわよ」



 緊張で喉が乾き、息を呑む三人。


 ゆっくり、ゆっくりと魔力注入機のダイヤルを慎重に操作して魔力を入れ始めた。



 ――その時だった。



 突如、強化実験ケース内が金色に光ったのだ。



「えっ!?」


「何!?」


「っ!? 離れて!!」



 ユリアはクリスタとララに離れるよう指示し、ダイヤルを0に戻した後、自身も即座に離れた。


 しばらく待つものの、ケース内が光ったのは一瞬だけで、それ以降は特に何も起きなかった。



「……何が起きたんですの?」


「わ、わかりません……」


「なんか突然光ったけど……」



 クリスタは怯えることなく、すたすたとケースに近づき、中を覗き込んだ。



「クリスタさん!? お気をつけ下さいまし!」


「危ないよ!?」


「……ユリアさん」



 慌てて注意するユリアと、ユリアと手を繋いで怯えているララとは裏腹に、クリスタは落ち着いた様子でユリアを呼んだ。



「な、なんですの?」


「これ、見慣れたミスリルの青さになってます」


「……えっ? どういうことですの?」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!」



 落ち着きを取り戻したユリアもすたすたとケースに近づくが、ララは未だユリアの手を離さないでいた。


 スッっとケースを覗くユリアとそぉっと覗くララ。


 その中には確かに、先ほどまで青みが強く紺青色だったミスリルではなく、見慣れた天色のミスリルがそこにあった。


 それを確認してようやく、ララはユリアの手を離す。



「……どういうことなの?」


「あなた急に冷静を取り戻すのですね。びっくりですわ」


「いや、あれは皆ビビりますよ。って、そんなことよりこれですよ! これ!」



 確かにその通りだと思ったユリアは、ケースを開いてミスリルをピンセットで取り出し、観察する。



「見た目は……ただのミスリルですわね」



 同じくピンセットで、先ほど砕いた元々の月のミスリルを掴み、見比べる。


 しかし、見比べても色の濃淡ぐらいの違いしかわからない。



「これ以上となると電子顕微鏡が必要ですわね」


「ここに運びますか?」


「そうしましょう。手伝ってくださいますか?」


「もちろんですよ!」


「急ぎましょ! なんだか逆に楽しくなってきた!」



 先ほどまで怯えていたララは、何か吹っ切れたのか、テンションが上がっていた。











 ◆










「質が変わった?」


『はい』



 ディナータイムに通信が入った為、出てみると相手はユリアだった。


 数日前に来た電波望遠鏡第二便に、例にミスリルを持って帰ってもらい、ユリアに調べてもらったのだ。


 その結果を聞いたんだけど、魔力と触れた瞬間光を放つわ、色は変わるわと色々言われたが、最も驚いたのは性質が変わったってところだ。



『実は、月から持ち帰ってきたミスリルは魔力を通しませんでしたの。でも、魔力を受けたミスリルは私達の知るミスリルと同じように魔力を通しましたわ』


「なんで通らないってわかったんだ? 魔力に触れると変化してしまうのに」


『ララさんの提案でクラウス型核融合炉から出る魔力を使ってみようという話になりましたの。それを使ったら光は出ませんでしたし、質も変わらなかったから魔力伝導テストにはもってこいでした。変化後はもちろんどちらの魔力も通しましたわ』


「へぇ……」



 まぁ、そうじゃなきゃ今まで製作した魔道具全部動かんしな


 っていうか……何それ?


 よくわからん状態だな。


 まぁ、そんなことより――



「その光を浴びて、身体に異常は出ていないのか? 気分が悪くなったりはしていないな?」


『ええ、検査入院しましたが問題ありませんでしたわ。私もクリスタさんもララさんも同様です。でも、数週間は検査の為、通院は必須ですわね』


「そっか。問題ないならいいや」



 なんかデーモンコアの実験っぽく聞こえたからちょっと焦った。



「それにしても……なんだか不思議ですね。核融合炉から出た魔力では反応せず、空気中の魔力には反応するなんて」


「太陽の魔力には、反応してベータ崩壊するしな……」



 アイリスがミスリルの不思議な性質を聞いて口を開く。


 太陽とエクセルの大気中の魔力には反応して、核融合炉のものには反応しない……


 ……不思議。



 前世知識が使えない部分に入った為、俺は少し現実を放棄していたら、さっきまでご飯を口にしていたクラリスが、口に中が空になったタイミングで話し出した。



「それって、エクセルが変換しているって考えられないの?」


「……おん?」


「どういうこと? クラリス?」



 クラリスの発言に、俺とアイリスは首を傾げた。


 それを見たクラリスは、自身の考えを述べ始める。



「アルファード理論ではさ、魔法は術者の集めた魔力を通してエクセルに繋がって、エクセルの記憶に従って魔法に変換されるって話じゃない?」


「ああ、そうだけど……」



 そのアルファード理論ってやめてくんない?


 魔力精神感応性万能物質説って言ってくれ、こっ恥ずかしいわ。


 ……長いから嫌だろうけど。



「それって逆に、唯一エクセルは魔力を魔法に変えられる存在ってことじゃない? イメージでも理論でもさ。じゃあ――」



 その後に出てきた言葉は、俺では到底思い付かないものだった。


 それは――



「エクセル自身が魔力を通して()()()()()で魔法を使ったって考えることもできなくない?」


「……なるほど」



 確かに、クラリスの言う通りかもしれない。


 俺は前世でのファンタジー作品なんかの設定を参考にして、その理論を立てたが、ぶっちゃけ「星の記憶ってなんだ?」って思ってた。


 でも、前世でも言われていたじゃないか。


「地球は生命体のようだ」って。


 もし……エクセルが意思を持っていて、魔力を通じて人間に力を与えているとしたら……


 クラリスの言う通り、自分の意思でミスリルを変化させたのかもしれない。



「ありえない……とは言えないわね」


『私も同意見ですわ。それならば、核融合炉から出た魔力では質が変わらなかったことに一定の説明が付きます』



 核融合炉から出てくる魔力は、会社の地下にあるスーパーコンピューターの影響を受けていて、エクセルの影響は受けない。


 だからミスリルに変化をもたらさなかったんだと説明できる。



「あっ、でも、この基地で調べた時はベータ崩壊し始めてたよね? じゃあ、この説なしか」



 クラリスがふと思い出したようにそう言うと、背もたれに体を預けた。


 でも、それは簡単に否定できそうだ。



「いや、核融合炉が稼働したての時はエクセル大気の魔力を少しは使っているから、それで変化したんだろう。基地で調査した時、魔力が通ったからな」


「そうか。エクセルに送ったミスリルは洞窟内で梱包した物でしたね」


「でも、基地に持ってきたミスリルはほんの少しのエクセル大気の魔力で性質が変化した……けど、完全には変化しなかったからベータ崩壊も起こしたっていう中途半端な状態だったってことね」


「そうだな。で、今までのことを踏まえると――」



 俺は立ち上がってホワイトボードに今まで出たことをまとめて書いた。



「ミスリルは太陽光魔力を浴びるとベータ崩壊を起こして、他の金属に。エクセル大気の魔力を浴びるとミスリルの特性が変化する。魔力に触れなければただの青い鉱石……っと、こんな感じか?」


「そうですね」


『妥当ですわ』



 アイリスとユリアの二人からも納得の声をもらう。


 なかなか楽しい状況になってきた。


 もし、魔力というものが恒星や惑星に意思や知識を伝えてくれるものであるのなら、それを読み取れたらなんでもできるようになるかも。


 それこそ……重力子だって見つかるかも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ