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episode88 月は宝の山だった



月面に電波望遠鏡を設置する計画が始まり、その第一陣が到着。


月往還船団が設置作業を終えて、システムチェックを長期滞在組である俺とアイリスとクラリスで行い、正常を確認した後、パトリシアや操縦士のエルフリーデ、オデッセイの船長であるライナーと操縦士のダスティンで食事をすることになった。



「それでどうだったんっすか? ボーリングサンプルの調査は」


「確かに気になります。何か見つかりましたか?」



そこそこ食事を終えて、まったりとした時間を過ごしていたところで、ダスティンから質問が飛んできた。


それにエリフリーデも便乗してくる。



「まだ何にもわかってないよ。基地建設時に取ったサンプルとおんなじで鉄やらチタンが多く含まれているってことがわかったくらいだ」



何回も往復して取ってきた岩石やレゴリス、基地建設の為に行ったボーリング調査と全く同じだった。



「なぁんだ。マスターならもう何か見つけたんじゃないかって期待してたのにガッカリだよ」


「ほう、それはすまなかった。この通りだ」


「アタタタタッ!?」



俺はパトリシアの後頭部を鷲掴んで力を入れた。


アイアンクローを食らって、悶絶するパトリシアを無視して、今度はライナーが口を開く。



「スペクトル分析と同じ結果ですね。やはり地上と同じレベルで何千mも掘らないとわからないものなのでしょうか?」


「かもしれないが……そうなると設備が足りないな」



大体建設時のボーリング調査では大体2〜5mくらいしか掘らない。


もしこれ以上の調査をする場合はどこかに穴を穿たないと……


ん?



「そういえば、ミッションの達成率って結構行ってなかったか?」


「ええ。かなり順調に進んでいますね。明日は自由時間が増えそうです」



皆の頑張りでかなり順調に進んだ電波望遠鏡設置。


そのお陰で明日は時間が余りそうなのだ。



じゃあ――



「掘るか。レーザー砲で」




















眩い光が偏光グラス越しに見える。


現在、電波望遠鏡設置作業を終えて、基地にも望遠鏡にも影響が出ない場所でレーザー掘削作業を開始した。


俺とアイリス、クラリスはキュリオシティのブリッジでその掘削の様子を見ていた。



「あと数秒当て続けてくれ」


「わかりました!!」



そう答えてくれたのはマリアだった。


彼女、レーザー砲の標準合わせで誤差コンマ以下を毎回叩き出す程のスナイパーだった。


……もしかしたら、アケルリース高等魔法学園で経験したことが反映されているのかもしれない。



「照射終了5秒前……4、3、2、1、照射終了!」


「よし。ありがとう、下ろしてくれ」



キュリオシティの船長に声をかけ、穿った穴の近くに下ろしてもらう。


日が当たっているところは110℃にもなるが、影になっている場所は-170℃くらいになる為、穴の中は案外すぐ冷える。



「おぉ……いい感じだな」


「そうですね。かなり深く穿ててます」


「早速入って調査しようよ!」



俺、アイリス、クラリスの三人で出来上がった穴に入っていく。


表面が一部ガラス化しているが、それを小さなピッケルで剥がしたら本来の地層が見えてきた。



「よし、色々掘って回るぞ」


「はい!」


「任せてよ!!」



アイリスもクラリスも気合いを入れて採掘作業に入ってくれた。



「すごいわね……ちょっと掘っただけでチタンが大量に出てくるわ。それに……」


「オリハルコン、アダマンタイト……高級素材が沢山あるわ。宝の山じゃない」



穴の入り口から15m程の地点からクラリスとアイリスの言う通り、大量の素材が見つかった。


本格的に掘っていけば、資材には困らないだろう。


だが、俺はあの鉱石が出てこないのが気がかりだった。



「……なぁ、ミスリルって見つけたか?」


「えっ? いえ……そういえば見てませんね」


「ホント、なんでだろ?」



これだけオリハルコンやアダマンタイトなんかが出てきているんだ。


ミスリルもあっていいと思うんだけど……



「とりあえず、採れるもん採って帰るぞ」


「はい!」


「は〜い!」



運搬できる最大限の鉱石を手にして、俺達はキュリオシティに乗って基地に帰った。



――


――


――



基地に帰還後、しばらくしたらパトリシア達の帰還の時間になった為、見送りをした。


そのあと、電波望遠鏡のチェックなどを済まし、それを終え、次に採れた鉱石を調べて始めたのだが――



「……普通のオリハルコンだな」


「ですね」



――普通だったのだ。


ファンタジー金属に普通も何もないと思うが、地上となんら混色がないという意味である。



「アダマンタイトも地上と特に変わりなし……拍子抜けしたなぁ」



混ぜたら何か変わるのか?


某機動戦士なんか月から採れた金属使って最強の合金作ってたもんな。


あっ、そうだ。



「ミスリルってやっぱなかったよな?」


「ええ。姉様は見つけた?」


「いえ。見当たらなかったわ」



う〜ん……ミスリルができるのはエクセルだけなのか?


いや、それを決めるのは尚早だな。



「明日、もうちょい奥まで行ってみるか」


「そうですね。何か見つかるかもしれませんし」


「異論ないわ」



こうして、翌日はミスリル探しをすることになった。


ミスリルまで一緒だったら……まぁ、資源が増えたってことにしておこうかな。




















と、いうわけで翌日。


キュリオシティが開けてくれた穴に突入し、大体、30mくらい進んだところで調査を開始した。


奥まで進んだ為、船外服に取り付けられている魔力ライトで視界を確保しながら進んでいく。


しかし、掘れども掘れども鉄鉱石やチタンやらオリハルコンやらアダマンタイトやらしか出てこない。


地上からしたら歓喜の雄叫びを上げるような状況だが、俺達的には嬉しくない。



「出ないなぁ……ミスリル」


「そうですね……ミスリルはエクセルでしか生成されないのでしょうか?」


「ん〜……」



スペクトル分析ではチタンや鉄が多いことがわかっていたが、掘ってみればオリハルコンもアダマンタイトもあった。


これは月軌道からのスペクトル分析じゃわからなかったことだ。


だからミスリルも掘っていかないとわからないんだが、どこまでいけばいいんだ?



「結構な深さまで掘ったからなぁ。行けるとこまで行ってみるか」


「そうですね」


「……あっ」



俺とアイリスとで行動指針を決めたところで、クラリスが声を漏らした。



「なんだ? どうした?」


「これ……」



クラリスが手にしていたのはなんと――



「氷よね?」


「そだな」



――氷だった。


声を漏らしたからてっきりミスリルが出てきたと思って期待したじゃないか。



「なんだよ。ただの氷じゃん」


「もう、期待させないで? クラリス」


「ごめんごめん! 驚かせて! じゃ、早速奥まで行きましょ!!」



ポイっと氷を放り投げて、俺達は奥まで進もうと歩き出した。


……で、数m歩いてから俺達は同時に足を止めて、一拍置いてから――



「「「氷っ!?」」」



――叫んだ。



急いで氷を掘ったところまで駆け寄り、さっきクラリスの放り投げた氷を見る。



「紛れもなく氷よね!?」


「そうね! 水かどうかはわからないけれど間違いなく氷よ!!」


「もっと掘ってみるぞ!!」



氷が掘れた場所を重点的に掘っていく。


そして、そんなに時間がかからず、それは現れた。



「これは……」


「すごい……大きな氷塊ですね」



ほんの少し掘っただけで出てきたのは氷の塊。


しかも見える限りでも相当でかいものだった。



クラリスが見つけたのは本当にほんの一部だったのだ。



「すごいわ……地下にこれほどの液体を抱えていたなんて……」



ライトに照らされてキラキラと光る氷は、宝石のように光輝いているそれを、クラリスはうっとりと眺めていた。


確かにそれは、エクセルを宇宙から眺めた時と同じくらいに見惚れる光景だった。





















氷を見つけた俺達だが、肝心のミスリルを見つけることができず、代わりに氷を大量に採取して基地に戻ってきた。


ミスリルが見つからなかったのは残念だが、こればかりは根気で探すしかない。



「さて、まずはこの氷がなんの固体なのかを調べるか」


「そうですね。……とはいうものの――」



アイリスが氷の入った袋を見つめる。


氷は既に熱を受けて溶け始めており、袋の底の方に溶けた液体が溜まっていた。



「完璧、水よね」



氷として存在できる液体は、この月面では限りがある。


影では-170℃程にもなる月面だが、大抵の物質の凝固点よりは高い。


この温度で存在ができる液体は水の可能性が非常に高いのだ。


で、早速スペクトル分析をかけたら――



「水でした☆」



――水だった。


某どうでショーで鹿を見つけた時風に言ってみるが、元ネタを知らんアイリスとクラリスにはあまり響かなかった。



「水が発見できたのは喜ばしいんですけど、なんでミスリルは見当たらなかったんですかね?」


「そこだな。奥まで進まないとなんとも言えんが、一欠片も見つからないっていうのは疑問に残る」



スルーされたことは気にしないことにして、ミスリルが見当たらなかった理由を話し合っていく。



「まだ奥まで行かないとないとか?」


「ミスリルって結構掘らないと出てこなかったっけ?」


「え〜……出てきてもいいくらいだと思うわ。逆にミスリルの前にオリハルコンやアダマンタイトが出てくる方がびっくりするくらいよ。まぁ、エクセルと月とじゃ、地殻の動きが全然違うから参考になるかどうかわからないけど」


「そっか。じゃあ、他に出てこない理由があるんだろうな」



鉱物資源について詳しくなっているクラリスが言うのだから間違いないだろう。


じゃあ、あとは何が考えられるのか……


そんなことを考えていると、アイリスが不意に言葉を漏らした。



「もしかしたら別の鉱石になっていたりして……」


「……えっ?」



俺はアイリスにその意味を聞いた。



「どういうことだ?」


「ミスリルって魔力を通しますよね? もしかしたら宇宙線と太陽から放射される魔力で変化しているのかもしれませんよ?」


「なるほど」



確かにありえない話じゃなさそうだな……



「そうだな……じゃあ、明日午前のタスクを終了したら、色々持ち帰ってみるか。何かわかるかもしれないし」


「そうですね」


「賛成。……あっ、じゃあ、取ってきたオリハルコンやアダマンタイトをまずは見てみない? 今回深いところから採れたものだから、何か変化しているかも」



クラリスがバックから鉱石を取り出しながら、そう言った。



「それもそうだな。見てみようか」



というわけで、今度は採取してきた鉱物達を見ていくことにした。




















――アケルリース王国 王城



アランはまたしても報告書を片手に頭を抱えていた。


その報告書にはノアセダル王国……というより、レイディアントガーデンの活動が多く記載されている。


その内容は月面で建設中の電波望遠鏡のことも書かれているが、アランはそれ以外に記載されたことに頭を悩ませていた。


悩んでいた所に、部屋の扉が叩かれた。



「……入れ」


「へーい……元気ねぇな。またレオンさん案件か?」


「……察しがいいな」



入ってきたのはセイバーズの報告書を持ってきたレンだった。


アランは入ってきたレンと、手にしていた報告書とセイバーズの報告書を交換する。


それを受け取ったレンは報告書に目を通していく。


すると、レンの表情がみるみるうちに沈んでいった。



「月って……高級素材の宝庫なんだな」


「それもそうなんだが、レイディアントガーデン内では別のことで盛り上がっているそうだ」


「別? これ以上にすごいことなんてあんの?」


「借してみろ」



レンから報告書を返してもらい、アランは該当のページを開いてレンに見せた。



「ここだ」


「どれどれ……えっ?」



レンはそのページに書かれていることを見て頭に疑問符を浮かべた。



「氷が見つかった……って書いてあるけど、それで盛り上がってんの?」


「ああ」


「……オリハルコンやアダマンタイトより?」


「ああ……」



レンもアランと同じく頭を抱えた。


オリハルコンやアダマンタイトは、ミスリルと同じく希少金属である。


魔物ハンターならば、そのいずれかの金属を使った武具を手にすることが憧れであり、夢であると言う者もいるくらいだ。


その金属が出たとなれば、阿鼻叫喚の興奮状態になるはずが、レイディアントガーデンはそうではなかったと報告書には書かれていた。



「『オリハルコンなどの希少金属が大量採掘されたことには驚きはしていたが、次に氷が発見されたと発表された際には、社員全員が立ち上がり興奮の坩堝と化していた。』……温度差すごくない?」


「だろう? ……何故氷が出たことがそんなに騒がれているのだ? この報告書を書いた者も理解できていなかったぞ」


「その人、前も理解せずに報告書書いてなかったか?」


「かなり優秀なのだが、それでも理解できないことが発表されるのがレイディアントガーデンだ」


「確かに」



レンはそう言って報告書をアランに返した。



「で? 何故氷が出たことが騒がれているのか、わかるか?」


「ん〜……」



レンは顎に手を乗せて、考えてみるが――



「わかんね」


「お前……」



わからないという答えが返ってきた。


呆れ返っているアランに対し、レンは慌てて弁明する。



「いや! 考えてもみろよ!? 月で氷が見つかったからなんなんだ? って普通になるだろ!!」


「レオン殿と同じ世界からの転生者だからお前に聞いているのだろうが!!」


「レオンさんは別格だっていつも言ってるだろ!?」



言い合いをしばらく続けた後、肩で息をしながら、二人は一人の魔法士の顔が浮かんだ。



「「クラインだ」」



――


――


――



「こ、氷!? 月で氷が見つかったんですか!?」



翌日、魔術省にやってきたアランとレンは、クラインに例のことを伝えた。


すると、驚くクラインの表情を見て、二人は期待に胸を膨らませた。



「なんか、オリハルコンとアダマンタイトも大量に見つかったらしいぞ」


「あっ、そうなんですか。それで、氷が見つかったって本当なんですか!?」



レンがオリハルコンのことを話してみるが、その反応を見て、さらに二人は期待値を上げる。



「ああ。だが、外交員はその重要性を理解できなかったみたいでな……何かわからないか?」


「月で氷が見つかった……ってことは、飲み水や生活用水にできますよね? 魔力で水は作れますが、バックアップはあって損はありませんし」


「それだけか?」



アランの質問を聞いて、クラインは少し考えた後、口を開いた。



「そうですね……まぁ、さっき上げたことは副産物だと思います。本当の目的は多分……」


「多分?」



レンが聞き返すと、クラインから信じられない言葉が飛び出した。



「月面でロケットを作るんじゃないですか?」


「「……は?」」



レンとアランは理解できずに聞き返した。



「お二人ともご存じですよね。スペースシャトルの燃料のこと」


「ああ。水素と酸素だろ? ……あっ!?」



レンはそこまで言ってようやく気がついた。


アランは一人、ついていけず、レンとクラインに質問する。



「な、なんだ? 水素と酸素がどうかしたのか?」


「氷ってことは水だろ? じゃあ、電気分解すれば水素と酸素ができるんだよ!!」



水の電気分解。


それに関してはアランもレンから学生時代に教えられており、すぐに理解できた。



「そういえばそんなことを言っていたな。確かに氷があればできそうだが、機体は……なるほど、オリハルコンがあるのか」


「はい。まぁ、オリハルコンがなくとも、月の砂(レゴリス)があるので、あの人たちならなんとかしそうですが」



核融合炉があれば、エネルギーと魔力はある程度確保できるものの、ロケット開発となると心許ない。


しかし、燃料も機体素材も現地で手にできるのなら、あとは加工する為の魔力を確保すればいいという訳である。



「月でロケット……何をするんだろうな」


「さぁ……既に通信衛星は月軌道に投入されていますし、あとは……惑星探査とか?」


「「……」」



やりそう……という思いを、レンとアランは抱いた。

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