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episode87 月面長期滞在

 


 ――月面 アルファードタウン基地



 パーサヴィアランスによって運搬された居住モジュールをもって、月面基地「アルファードタウン」が完成した。


 新たな開拓を行う場所ということと、世界で初めて宇宙飛行を成功させた魔法士ということで、この名前に決められてしまった。


 ……これから無線でやりとりするっていうのに、俺は毎度毎度アルファードを名乗らなければいけないのか。


 連絡先もアルファードだというのに、気恥ずかしいにも程がある。



「じゃあ、俺達は撤収するからな」


「おう。道中気をつけてな」


「わかってるって」



 パーサヴィアランスの船長であるクリスから撤収する旨を伝えられた。


 俺とアイリスとクラリスで見送りをしているのだが、俺達は今、船外服を着てインカムで会話をしていて、且つシチュエーションは月面ときた。


 それで交わされている会話が引越しを手伝ってくれた友人に対するそれのようで、少しおかしく思う。



「ではレオンさん。研究、頑張ってくださいまし」


「ああ、ユリアもありがとう。融合炉の調整手伝ってくれて」


「例には及びませんわ。あれは「クラウス型」ですもの」



 クラウス型というのはパスファインダーなどの月往還宇宙船に搭載されている核融合炉のことだ。


 この前、融合炉の名前が「クラウス型核融合炉」と名付けられてから、ユリアは大変上機嫌だった。


 今もドヤ顔でクラウス型を強調してきたしな。


 ……よっぽどその名前を付けられたことが嬉しかったんだな。



「お二人とも……頑張ってください」


「何か含みのある言い方ね……」


「ま、ぼちぼち頑張るわよ」



 ユリアから激励を受けるも、アイリスは何か感じたのかジト目をユリアに向けている。


 クラリスは気楽な返答を返して終わっていた。



「では、また半年後、地上(エクセル)でお会いましょう」


「じゃあな」


「おー、じゃあなー、お疲れー」


「またね。お疲れ様」


「お疲れ様ー」



 ……何度もいうが、ここは月面である。











 ◆










 さて、パーサヴィアランスが帰還の途についた後は、自分の荷物の荷解きである。


 とはいうものの、俺はあまり私物を持ってきていない。


 ……というか持っていない。


 唯一の私物はマグカップだけであった。



 ……寂しい人間だなぁ、俺って。



「レオンさん、こっちは終わりましたよ」


「こっちもよ。新しい基地だから散らかっていることもないし、最高ね!」



 自身の私物の少なさに肩を落としていたら、アイリス達が荷解きを終えたことを報告される。



「おう。じゃあ、ひと段落したし、飯にするか」


「わかりました」


「もう私お腹ペコペコ〜」



 居住モジュールのダイニングで宇宙食を調理していく。


 そして40分後、温まった缶詰やレトルトの封を開けて、食事を開始した。



「今日は荷解きで終わり?」


「ああ。明日の午前中は地質調査用のドリルの動作確認と取れたサンプルの調査。午後からは電波望遠鏡の設置場所の再確認と手順確認」


「初日から忙しいですね」


「やりたいこといっぱいあるからな」



 弱いとはいっても、重力があるおかげで地上とほぼ同じように食事ができるからスプーンやフォークが飛んで行ったり、缶詰の蓋を完全に開いてしまって蓋がどこか行ったりしないから非常にやりやすい。


 湯船は無理だったが、シャワーだって付けることができたし。


 まぁ、それはフリーダムステーションでも重力制御型居住モジュールに設置してるんだけど。



「今日はこれで終わりにして明日に備えて寝るとしよう。明日からよろしく頼む」


「「はーい」」



 ――


 ――


 ――



 さて。


 今回の月面長期滞在の主目的は電波望遠鏡の建設だ。


 とはいうものの、すぐに組み立てていくわけじゃなくて、人工衛星からの情報で決定した建設場所の再確認を行い、実際に建設する際の注意点の洗い出しや荷物の運び出しの手順とルートの確認を行った後、パーサヴィアランス級とインジュニュイティ級に各パーツを運搬してもらい、マンパワーで建設していくという順番で建設することになる。


 前世でこんな方法を使ったら運搬だけで何兆円もかかるだろうが、今世では燃料は魔力で生成した水素による核融合炉である為、問題ない。


 じゃあ、前世で計画されていた電波望遠鏡はどうやって建設する予定だったのかというと、パラボラアンテナを持ってくるのではなく、地形を利用する案が上がっていた。


 そう、クレーターを利用する案だ。


 比較的綺麗なクレーターの内部にワイヤーメッシュを張り巡らせ、クレーターの中央に受信機をワイヤーでぶら下げる。


 これでパラボラアンテナが完成するってわけだ。


 ワイヤーメッシュで電波を拾えるのか? という疑問が湧いてしまうが、実際に日本が「はるか」という観測衛星を飛ばしてワイヤーメッシュを宇宙で展開し、世界初のスペースVLBI観測を実施している。



「ねぇ? なんでクレーターをそのままアンテナに変えなかったの? そっちの方が時間かからなくていいんじゃない?」



 ミラクルーザーと名付けられたマイクロバス二台分ぐらいの大きさのローバーで移動しながら、操縦しているクラリスに話を振られた。



「まぁ、確かにそうなんだけどさ。問題があるんだよな」


「問題?」


「首を振れないんだよ」



 地形をそのまま利用するクレーターアンテナはもちろん角度を変えることができない。


 単体で運用するには問題ない。


 しかし、俺達が作ろうとしているのは巨大なVLBIなのだ。



「首が振れないとダメなの?」


「クラリス……VLBIは同時に天体に向けてアンテナを向けなきゃいけないのよ? 固定したらダメじゃない」


「えっ? ……あぁ! 潮汐ロック!?」



 アイリスに言われてようやく気がついたらしい。


 そう、VLBIは二つの電波望遠鏡が観測対象に同時に向く必要がある。


 月の電波望遠鏡はエクセルからの電波を拾わないように裏側に建設するが、これをクレーターで作った場合、首が振れない。


 しかし、月は常に同じ面をエクセルに向けている為、自転による方向転換はできない。


 そうなると、エクセルから見たら、観測対象は常に月の方向になければいけない。


 ようはエクセルと月が並んでいる方にある天体を観なければいけないのだ。



 ここで思い出して欲しいのが、VLBIの観測精度の上げ方である。


 VLBIは電波望遠鏡同士が離れていることによって、いわば巨大な直径を持つアンテナの電波望遠鏡と同じ性能を確保できる技術だ。


 もし、クレーターアンテナを作ったら、軌道傾斜角5°で月までの距離が40万kmだから……大体35,000kmくらいのVLBIができる。


 首が振れない状態でもエクセルの直径を超えているから、十分ではあるけど、首が振れたら、最大直径40万kmのVLBI電波望遠鏡が爆誕するわけだ。



「とはいうものの、エクセルにある40mとかの超巨大なアンテナは持ってくるのと建造ですごい時間がかかるから、大体7mから12mくらいの大きさのアンテナをここにたくさん並べるんだ」


「そっか……でもさ? 大きな電波望遠鏡を一基作れば十分な気がするけど?」


「それだと天体の位置を探る時に精度が落ちるんだよ」



 例えば、エクセルと月、それぞれ二つの電波望遠鏡で真正面の天体を観測したとしたら、望遠鏡に電波が届くのは同時になる。


 この場合でも、三角測量の要領で測るのだが、正面の天体の場合はここで問題が発生する。


 光の速度が一定である為、斜辺の長さがわからないのだ。


 電波の到達時間で距離を測っている以上、発生してしまう問題である。


 これが正面ではなく、斜めの場合はそれぞれの望遠鏡に届く光の到達時間にズレが発生する為、距離が測れる。


 というわけで――



「複数設置すれば角度が変わって距離の計算も可能になるんだよ。めちゃくちゃ精度の高い時計がないと難しいけど」


「なるほどねぇ。だから望遠鏡間の距離が密集していたり、離れていたりするわけね」



 クラリスが言っているのは完成予想図に描かれた電波望遠鏡の設置位置のことだろう。



「全部で12台。壮大な電波望遠鏡群ですね」


「エクセルでやるとなると色々面倒だからな」



 森林の伐採や、整地をするのは魔法のお陰で時間はかからないからいいのだが、問題はそれ以外だ。


 森林伐採すれば、動物や魔物の住処が無くなる為、魔物ハンターや猟師達の職場を奪ってしまうことになってしまう。


 VLBI観測をする電波望遠鏡を設置するとなるとかなりの範囲を奪うことになるから、俺は地上で作るつもりはなかった。



「ここだと好き放題できるから問題ない」


(ここ)に来れるのはレイディアント()ガーデン()だけですしね」



 最初はアルマ電波望遠鏡のように66台設置しようかとも思ったがやりすぎだと思ってやめた。


 この電波望遠鏡のファーストライトが今から楽しみだな!










 ◆










 ミッション開始から数日後。


 設置予定の平原の地盤調査を終え、地質調査時に行ったボーリングサンプルの観察をしていたら、あっという間に二台のパラボラアンテナが届いた。


 今回使用された宇宙船はパーサヴィアランスと、その同型機の「オデッセイ」とインジュニュイティと同型機の「キュリオシティ」が導入された。



 パーサヴィアランスとオデッセイは左右に格納庫があるのだが、片側にアンテナ、もう片側に土台が積載されている為、一隻につき、一台運ばれる。


 キュリオシティは設置時に位置を確認する為の観測要員だ。


「お疲れ様です! マスター!!」


「お疲れ。アルファードタウンへようこそ」



 今回、宇宙船で初の船団を組み、総指揮を行う者としてパーサヴィアランスが旗艦となっているが、その船長にパトリシアが就任していた。



「広いですねぇ! これは住み心地良さそう!!」


「実際住み心地いいぞ。重力があるからほぼ普段通りだし」


 他愛のない会話をパトリシアと続ける。


 その社交的な性格から、いろんな人から結構慕われているパトリシアが今回総指揮にあたってくれて正直助かる。



「ひとまず、荷物を下ろしたら明日に向けてミーティングして今日は終わりって感じだが、いけるか?」


「もちろんです! なんなら今日設置してもいいくらいですよ!」


「気合い十分なところ悪いが設置は明日だ」



 数十時間でここまで辿り着けるとしても疲れが蓄積しているだろうからな。


 クルーに無理はさせられないし、無理をさせて事故ったら死ぬ可能性の方が遥かに高い。


 こんだけ楽に宇宙に来れるようになっても、危険であることに変わりはないのだ。



 ――


 ――


 ――



 電波望遠鏡の構造は結構シンプルだ。


 天体から届く電波をキャッチするアンテナと、その電波を電気信号に変える受信機、そして各アンテナから届いたその電気信号を像に処理する相関機で構成される。


 ……一口でいうものの、それぞれ作るのにかなりの技術が要求される。


 パラボラアンテナはミリ波、サブミリ波と言われる超微弱な電波を捉える必要があり、それを成そうと思ったらどんな些細な歪みも許されない。


 まぁ、動かしただけでもアンテナって歪むから最終的にデータ修正を行うのだが、修正が少ない方が無論精度は高くなる。



 受信機に関しても同じく、電波を電気信号に変える為、どんな微弱な電波ですらも電気に変えて増幅させないといけない。


 そしてそれを束ねる相関機……ようはスーパーコンピュータだ。


 12台ものアンテナから送られてくる情報を処理するコンピュータが必要になる。



 だがしかし、これらの要求は既に解決出来ている。


 ……出来てしまっている。


 すごいよね。


 改めてここの人達はバケモノ(褒め言葉)だと思ったよ。


 さて、設置はパトリシア達に実施してもらった後、配線などを俺達長期滞在組が行うことになっているから、その間にやることがある。


 それは――



「さてと、設置は正直な所、月往還船団に任せることになるから、俺達はここで研究や実験を行おうと思う」


「はい!」


「で、具体的に何するの? っていうか私ついていけるかな? 二人と比べて研究って得意じゃないし」


「喰らいついてこい」


「扱い雑じゃない!?」



 まぁ、冗談はさておき、やることはそんなに難しくない。


 今日調べるのは数日前から電波望遠鏡設置地点の土壌を調べる為に行ったボーリングサンプルの調査だ。



「まずは採れたサンプルをより詳細に調べていく。これからもしかしたら月から黒魔力が放たれている理由がわかるかもしれないからな」


「未知の鉱物なんかも見つかるかもしれませんね」



 俺とアイリスは嬉々としてボーリングサンプルの検査を始めた。


 あれだけ不安がっていたクラリスだが、岩石に関しての知識も多かった為、問題なくついてきていた。

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