episode85 核子崩壊実験機
ハドロン粒子加速器を稼働させて数日。
何回も何回も魔力を集めた元素……魔素をぶつけ合わせてみるが、クォークや電子などはすぐに検出出来るものの、肝心の魔力らしき素粒子が見当たらない。
……なんでだ?
まぁ、でも一つわかったのは、魔力を集めると魔素に変わっているということだ。
加速器で衝突させるとクォークなどに分かれるのがその証左だろう。
じゃあ、もう純粋な魔力は見れないのだろうか?
でも、実際に集めることは出来てるから存在している筈だし……
「わけわかんね」
自分が前世で元々科学者だったのか、エンジニアだったのか全く覚えていないが、感覚的にそのどちらかでもなかったと思う。
どっちかっていうと「へぇ! 新しい素粒子が見つかったのか!! へぇ! こんな方法で見つけたんだ!! すげぇ!!」って、驚く方だったと思う。
少し人と違うとしたら「へぇ」で済まさないところぐらいか。
まぁ、何が言いたいかというと、難しすぎて頭が痛くなるって話だ。
「見つけにくい素粒子っていうとニュートリノだよな……」
あれって光電子増倍管っていう小さな光でも観測できる装置を1万本以上も使ってようやく捉えることができた筈だ。
スーパーカミオカンデって奴だけど、あれを作らないといけないの?
「また金かかんじゃん」
見切り発車すぎたか。粒子加速器を作るの。
まぁ、でもその為にレイディアントガーデンを立ち上げたんだ。
もう行くところまで行っちゃおう。
◆
――アケルリース王国 王城
王城の執務室にて、アランは報告書の一つを手にこめかみを揉んでいた。
それを読み進んでいたところで、執務室のドアがノックされた。
「入れ」
「失礼しますっと……どうした? 難しい顔して」
入室してきたのは、アランの親友にして世界最強の魔法士、レンであった。
「なんだお前か」
「なんだとは言い草だな。今日の報告書持ってきたぞ」
「わかった。そこに置いておいてくれ」
実はレンはもう宮廷魔法士ではない。
それは解雇されたわけではなく、別の部隊が発足されたからだ。
その名も「セイバーズ」
レンとアランの級友達で構成され、レンによる魔法指導によって他を圧倒する程の実力を備えた戦闘魔法士集団である。
メンバーは全員で12名。
1年程、各々魔物ハンターや魔法士団に所属し活躍していたが、その実力が高すぎるお陰で各部隊やハンター協会からは「他の人達の仕事を奪わないでくれ」と嘆願されており、扱いが難しくなっていた。
そこで、アランが発起人となり特別任務部隊を結成したという経緯がある。
ちなみに隊長はレン、副隊長はアランである。
書類を置いたレンはアランの横に移動して、その表情を浮かべる理由を聞いた。
「で? 何をそんなに睨んでるんだよ」
「……これだ」
そう言って差し出した書類のその内容は、レイディアントガーデンの実験施設のことであった。
それを見てレンは目を見開き、驚愕する。
「粒子加速器だって!? すげぇのを作ったんだな。さすがレオンさんだ」
「何? 知っているのか? レン」
レンの反応を見てアランがこれはなんなのかと問う。
報告書には粒子加速器が建造、完成したことは書かれているが、報告書を書いた人間はこの粒子加速器というものがなんなのかわからなかったようで、その詳細は不明としか書かれていなかった。
「えっ? えぇっと……なんて言えばいいのか……粒子を加速させるんだよ」
読んで字の如くの説明をしてしまってレンは顔を少し赤らめた。
アランは小さくため息を吐き、質問を変える。
「粒子を加速させてなんになる? それをするメリットは?」
「えぇ……確か……粒子同士をぶつけて……たんじゃなかったかな?」
「……まぁ、何もわからない状態よりはマシか」
呆れた表情を浮かべながらも、少しは前進したことで、アランはその報告書を置いた。
「ちなみにそれも前世の記憶というやつか?」
「ああ、そうだけど?」
前世の記憶についてはレオンがゴールデンレコードのことについて聞きにきた日に、ルナとマーリン、ヘルガにだけ話していた。
その後、セイバーズ結成時にメンバーにもそのことを話したという経緯がある為、アランはレンにその質問をしたのだ。
ちなみに、レオンのことも許可を貰って前世の記憶持ちであることも伝えている。
「前世では粒子加速器を使って何をしていたんだ?」
「実験だよ。確か……そうそう! 素粒子の実験だった!」
「素粒子?」
「えぇっとな。元素をさらに分解した最小単位のことだよ」
「ほう……」
アランはそれを聞いて、レオンが何かしらの仮説を立てたのだろうと踏んだ。
「それで、素粒子のことを知って何をするんだ?」
「えっ? そこまでは知らね」
「お前……」
再度呆れるアランに、レンは慌てて反論する。
「いや! これは俺だから知らないんじゃないぞ!? レオンさんが異常なんだって!!」
「そうなのか?」
「そうだよ!! 今度ユイさんに聞いてみろ。あの人も多分俺と同じ世界から来たんだから」
「なるほど、それもありか」
思い立ったら吉日ということで、終業後、アランは早速セイバーズで呑みに行く為にブラウン亭に向かった。
しかし、ユイもレンと同じくあまり知らず、どちらかというとレンの方がまだ詳しいくらいだった。
◆
レーザー掘削機のお陰で縦穴を掘るのにも時間がかからず、サクサクと作業が進み、水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置が完成した。
……スーパーカミオカンデは観測装置に付けられた名前だからここでは使えない。
なんか名前考えないとなぁ。
……普通にNeutrino Detection Experimentの頭文字取ってNDEって付けるか。
「……それで? これはなんですの?」
「ん?」
俺が名前で悩んでいたところにユリアが話しかけてきた。
「事前説明はしたはずだけど?」
「いえ、ニュートリノを検出する装置というのはわかっているのですが……加速器とはまた違う形をしているので……」
あぁ、素粒子の観測機器=粒子加速器と思っているのか。
まぁ、間違っていないけど、ニュートリノを検出するにはこっちの方が確実なんだよな。
「今、俺達の足元には巨大な筒が入っていて、その側面と底、天井に光電子増倍管を所狭しに置くんだ。で、その筒の中に純度の非常に高い水……超純水を入れる。これで準備OK」
「それで、観測方法は?」
「ニュートリノが超純水を通った際に発生するチェレンコフ光を検出するんだよ」
そもそもそのチェレンコフ光ってなんだって話だが、これは簡単にいうと原子炉を動かした時に発せられる光のことだ。
厳密にいうと非常にややこしいのだが、今回の検出方法を話すと――
「ニュートリノは真空中では光速に近い速度で進むんだが、これは水に入っても同じなんだ。他の原子や素粒子と一切相互作用しないからね」
「それで?」
「でも本来光速度ってcで表しているけど、これは真空中での話なんだ。水の中は光の速度は弱まって0.75cしか発揮できない。でも、ニュートリノは水だろうがなんだろうが素通りするから、水内でも光速度に近い速度で素通りしていく。この時に本当に僅かだけど光を発するんだ。もし魔力がニュートリノと似たような動きをしていたら?」
「なるほど! その光を観測して間接的にニュートリノや魔力を検出しようということですわね!」
ユリアはやっと理解できたと満足気な表情を浮かべる。
「ちなみになぜ底だけでなく天井にも光電子倍増管を? 宇宙から飛来するニュートリノや魔力を観測するのなら側面と底面だけで十分ではなくて?」
「ああ、それはこことは反対側からのニュートリノも見る為だよ」
「反対側? !? なるほど……」
ユリアは俺の言葉ですぐに天井に付けた理由に辿り着いたようだ。
「……地下からもニュートリノは来るのですね。相互作用しないから、エクセルすらも素通りすると」
「その通り」
ようは下からもニュートリノは来るからそれを観測しようと思ったら天井にも付けなきゃいけないのだ。
「で、魔力も光速度で動いているようだから、このNDEで観測できるんじゃないかってことだな。じゃあ、理解できたところで、早速動かすか」
「わかりましたわ」
さぁ、一体どんな結果が出るのか……
――
――
――
昼に開始した第一回観測。
その結果だが――
「やっぱニュートリノに超似てるんだけど。魔力」
俺は研究魔法士達を前に報告する。
それを聞いてアイリスが手を上げた。
「それは、相互作用しないってことですか?」
「いや、検出しにくいってところ」
恐らくだが、宇宙から飛来する魔力はエクセルの大気圏に入ると、その質をエクセルが変化させているのだろう。
それで、変化させきれなかった分だけが、NDEで検出されるって流れだろうな。
「だから天然の魔石は出来にくいんだろうな。降ってくる魔力が留まりにくいから」
「そういうことですね」
ということでここからは根気の作業になった。
ひたすら観測、観測、観測と繰り返し、加速器でも衝突と観測を何回も重ねた。
そして数十日が経った時だった。
「真横から魔力が飛んできてる?」
「はい……なんでですかね?」
研究魔法士の女の子から資料を受け取る。
確かに真横に設置している光電子増倍管が反応しているログがある。
……ん?
「この観測時間って確か……」
俺はラップトップを操作して、作業のタイムスケジュールを確認する。
すると……
「粒子加速器の実験と重なってる……」
……ん? 待てよ?
確かこれって……
「K2K実験やT2K実験を知らず知らずにやっちまったってことか!!」
K2K実験やT2K実験とは、加速器で人工的に生み出したニュートリノを調べる実験のことだ。
ニュートリノ振動っていう現象を確かめるべく実施した実験だが、一先ずそれは置いておこう。
困惑している彼女に今回の件を伝え、データを持ってきてもらうよう頼んだ。
その結果、やっぱり魔力は素粒子だということが確定した。
そして、もう一つ興味深い観測結果があった。
それは――
「月からも魔力が放出されている……ですか?」
「うん。そう」
宇宙飛行士を集めて、いよいよ始まる月面基地の第一回長期滞在クルーを決める会議で観測と実験の結果を伝えると共に、新たにわかったことを皆に伝えた。
それは先程アイリスが言ってくれたことだ。
なんと月からも魔力が放出されていたのだ。
「しかもどうも性質が反転しているみたいでな。まぁ、要するに黒魔力ってことだな」
「く、黒魔力ですか……」
漫画やアニメで、たまに見かける「月が満ちる夜は魔物や悪魔が強化される」っていうのは、実はこの世界でもある。
黒魔力は魔物の栄養源。
月の満ち欠けが影響することの裏付けがされた瞬間であり、黒魔力はどこから来たのかという謎が解けたところだが、問題はそれだけじゃない。
「なぜ日の光を受けた時だけ、月から黒魔力が放出されるのか……そこが謎ですね」
アイリスの言う通り、そこが謎だった。
月の光は太陽の光を反射してエクセルまで届かせている。
その光の中に黒魔力が含まれているんだが、なぜ黒魔力なのか?
普通なら白魔力が届いて然るべきなのだが、実際にはそうじゃないときた。
それに――
「この黒魔力、地表で採取した黒魔力の波長と全く違うんだよ」
そう、黒魔力の波長が俺達の知っているものと全く違っていたのだ。
でも、性質が反転している為、黒魔力であることには変わりはない。
ようは、新しい魔力を発見したということになるわけだ。
それに、月からだけ放出されているっていうのも気になる。
何かの影響で太陽光の白魔力だけ吸い取り、黒魔力を吐き出す何かがあるのか……。
はたまた大気のない天体にぶつかったら太陽の魔力は分解されるようになっているのか……それは――
行って見ないとわからない。
「――というわけで、職権濫用だが、月面基地第一回長期滞在クルーとして、俺が月に行く」
俺がそう宣言すると、暫くの静寂が降りた後――
「「「「「えぇ!?」」」」」
皆の驚愕の声が部屋を轟かした。
読了お疲れ様でした。
おそらく今年の投稿はこれで終わりだと思います。
皆様良いお年を!!




