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episode80 セカンドステージ

 


 ゴールデンレコードを手にしてから三ヶ月。


 月への往還計画であるミラミナス計画も第二ステージへと上がる。


 第一ステージは月への往還が可能かどうかと月面での活動は可能かどうかを確認し、第二ステージは本格的に月面の調査を行なっていく。


 その為の月面車などを運べる大型船も建造し、公試運転を待つばかりだった。


 ……その宇宙船達も某宇宙戦艦に登場する宇宙船をモデルにして設計している。



 SF映画でよくある、軌道上でトラス構造を持つ大型の宇宙船を作った場合、微小重力環境を想定した設計になるだろうから強度不足で月に降りれず、着陸機が必須になるけど、この宇宙船だったら直接惑星や衛星に着陸可能だから、メンテナンスもオーバーホールも地上でできる。


 ステーションのような機体の場合、耐久年数を迎えた際には海上に落とすなどをしなければいけないが、これの場合は地上で処分できる。


 デブリを増やさずに済むというわけだ。



「……で、順調に建造が進んでいるところ悪いのですが、あれはどうなったんですの?」



 中枢であるレーザー核融合炉の総責任者になっているユリアと共に、建造ドックで作業を見守っていたら、ユリアが話しかけてきた。



「あれとは?」


「惚けないでください!! ゴールデンレコードのことですわ!!」


「ああ……」



 この三ヶ月の間、ジャケットに書かれている内容についてはいくつか考察できている。


 一つはパルサー地図を左下に配置した際に、左上に書かれている図はレコードの再生時間と回転時間を表しているのではないかということ。


 もう一つは横と縦の線は0と1を表しているのではないかということだ。


 これはレコード再生機を観察していたアントンが導き出した。


 図とレコード再生機の側面が似ていることから考察したのだという。



 ……素晴らしいね!



「三人よらば文殊の知恵ってね」


「なんですかそれは?」


「地球の諺」


「そんなのわかりませんわよ!!」



 正確に言うと日本のだけれども。


 ユリアは一息ため息を吐くと、悩ましげな表情でゴールデンレコードについて話した。



「はぁ……全く、地球の方々はとんでもないですわね。異星人に見つかった際わかるようにと最大限の努力をしたようですが……」



 ユリアは手元にあるタブレットにゴールデンレコードのジャケットを表示し、それを眺める。



「あまりにも問題が難し過ぎませんか?」


「……だよな。俺もそう思う」



 謎解きレベルがとんでもなく高い。


 音だってピープ音だったし、訳わかんねぇし。



 ただ……わかったこともあった。



「しかし……これを解けた暁には、なんとかして地球に行ってみたいですわね。何せ――」



 ジャケットはウラン238で表面加工されていて、それの同位体解析を実施した。


 ウラン238の半減期は45.1億年である為、同位体組成を解析すれば年代が特定できる。


 そして、その結果は――



「20億年も経っているのですから、もっと技術が進んでいてもおかしくないでしょうしね」


「……そうだな」



 それだけ進んでいれば、俺の知っている地球では無くなっているだろう。


 ……別の意味でな。



「レオンさん? どうかなさいまして?」


「あぁ、いや。なんでもない」



 ユリアが心配そうに俯いていた顔を覗き込んできた。


 一先ずこの気持ちは置いておこう。


 今はただ、月探査に注力することを俺は改めて決意した。










 ◆











 ノアセダル王国 クラウス領。


 そこでは、月に行く予定の宇宙飛行士達が汗水垂らして訓練をしていた。



「おりゃあ!!」



 ピッケルを振り下ろし、岩石を砕いたクリスは、額から流れる汗を拭い、一息つく。



「ふぅ……どうだ!!」


「……大きい岩を砕く訓練じゃないのよこれは」



 ドヤ顔で誇るクリスをジト目で見つめるクラリス手の中には、手のひらサイズの石があった。


 その石は半分に割られており、その断面とタブレットに表示されているものとをクラリスは見比べる。



「これが玄武岩で……これが……なんだろ?」


「多分、花崗岩……じゃないかしら?」



 クラリスの横にはアイリスも訓練をしており、共に作業をしていた。



 この訓練は月での石の種類を分別できるようにする為の訓練である。


 実際、地球ではアポロ15号にて本格的な地質調査を行う際、宇宙飛行士に地質学の実地をさせていた。



「石なんて全部同じに見えるから困りもんだな。鉱石の方がまだわかりやすいぜ」


「確かに月に転がってた石ってここら辺にある石との違いがわかんないわよね」



 クリスとクラリスは辺りを見渡しながら、月の風景を思い返していた。


 違いがあるとすれば月はほぼ真っ白だったことくらいである。


 しかしその芸当は、実際に月に行ったことがある者だけができるものだった。



「月がどこからきてエクセルの衛星になったのか、はたまたエクセルと双子の関係にあるのか……それを知るために必要なことよ。頑張らないと」



 アイリスは月探査で役立つべく、自身を奮起させていた。


 それを見たクラリスも負けじと、知識を詰め込んでいく。



「……負けないわよ」


「……こっちこそ」


「いや……これそういうんじゃないと思うんだが……」



 互いに切磋琢磨していく姿は好ましいものの、クリスは何か違うんじゃないかと苦笑していた。


 そこに、一人の少女が声をかけてくる。



「どうですか? 石の種類、わかってきましたか?」



 彼女はベティ・アスタフェイ。


 レオンがアイリスとクラリスと共に入った宝石屋の女の子である。



「ええ、少しは……でも奥が深いですね。石の世界というのは」


「そうですね。地面を掘っていくと、この世のものとは思えないくらい綺麗な石だって出てきますし、楽しいですよ!」



 宝石店を営んでいる傍ら、鉱石や岩石のことを調べ、地質学的観点から、宝石の分布の検討をつけていたのはベティであり、それをもとに採掘、研磨を担当しているのが兄のオリバーである。


 それ故に、今回アドバイザーとして訓練に参加してくれていた。



「でもびっくりしました。あの時のお客様がまさか大企業の社長さんで、お二人は宇宙飛行士だったなんて」


「あはは……あの時はプライベートだったから」



 クラリスは頭を掻きながらそう言った。



「20万イースを躊躇なく出す人なんて宝石を扱う私達でも初めてでしたからすごく印象に残っていたんですけど、世間に疎すぎてクラリス様やアイリス様のことを存じ上げていませんでした。申し訳ありません」


「頭を上げてください! そんなにかしこまらなくていいですよ!?」



 深々と頭を下げるベティに慌てて声をかけるアイリス。


 それを聞いて頭を上げたベティは、遠くを眺めた。



「ありがとうございます。あと、知っていれば教えて欲しいのですが、兄は何を?」


「それがわかんないだよね。レオンが連れられていったのは知ってるんだけど何をさせられているのか……」


「そ、そうですか……」



 腕は確かだが、小心者の兄のことを想いながら、自身も仕事に勤しんだ。










 ◆










 宇宙船建造ドックのとある一画にて。


 俺がアイリスとクラリスに贈った宝石を研磨した天才研磨師オリバー・アスタフェイさんにとあるものを見せていた。



「こ、これ……なんですか?」


「共有結合性結晶……所謂ダイヤモンドです」


「えっ……」



 オリバーさんはそれを見つめて絶句した。


 俺もオリバーさんに釣られて見つめる。



 ……まぁ、おかしいよな。


 大きさが1400mm


 カラットに換算すると大体516カラットくらいか?



 といってもこれは天然物ではなく人工物である。



「こ、これをどうしろと?」


「これを研磨して光を増幅させる形に削って欲しいんです」


「光を増幅?」


「はい」



 この高純度ダイヤモンドを使って作りたいものがあり、計算に着手したものの、より効率的なカットがあるのではないかと思い、ここは餅は餅屋に聞くべきだということでオリバーさんに協力を依頼したのだ。


 何せあのアイディアルブリリアントカットを勘で切った人だ。


 これに関しても何か俺の及ばないところで切ってくれるかもしれない。



「……ちなみに聞いていいですか?」


「なんでしょう?」



 オリバーさんは少し考えた後、俺に質問してきた。



「これで光を増やして何をするんですか?」


「ああ、レーザー共振機を作りたくて」


「……レー、ザー?」



 レーザー。


 光を一直線に伸ばすあれである。


 前世でも玩具で売られていたり、距離計測に使われていたりと馴染みあるものだろう。


 それを作りたいのだ。


 しかし、すでにレーザー距離計などは航空機、スペースシャトルやパスファインダーなどに搭載されている為、レーザー発振器そのものが作れていないというわけではない。


 では、俺は何を作りたいのかというと――



「こちらを見て頂きたい」


「?」



 俺が取り出したのは長さ20cmくらいの筒とA4くらいの紙。


 この筒はレーザー照射機で高出力のレーザーを放つことができる。


 それを、手に持った紙に当ててみた。


 するとものの数秒でその紙が燃えた。



「えっ!? 紙が……光を当てただけで!?」



 驚愕するオリバーさんに説明する前に、燃えた紙を事前に用意していた水入りバケツに入れて消火する。



「これをより高出力にする為にあのダイヤモンドが必要なんです。でも効率のいいカットが思い当たらなくて……ですので、オリバーさんに手伝って頂こうか……と?」



 俺は燃えた紙を消火しつつ話をし、振り返ってオリバーさんを見ると、その顔は真っ青に青ざめていた。



「ど、どうしたんですか!? オリバーさん!?」


「あ、あのぉ……も、もしかして私は、兵器開発に協力しなければいけないのでしょうか?」



 声を震わせながらそう言ってきたオリバーさんを見て、自分の説明不足を反省した。


 いつもそうだなぁ、俺。



「すみません、言い忘れていましたね。これは岩盤掘削用なんですよ」


「が、岩盤掘削?」



 そう、作りたいのは岩盤掘削用レーザー砲。


 月での採掘作業時に、硬い岩盤が出現した場合に備えて、ドリルを持っていくよりもコンパクトで重量も抑えられると思ってパスファインダーや現在建造中の宇宙船に搭載したいのだ。


 ……見た目がほぼ宇宙戦艦に近くなるが、決して戦争目的のものではない。



「光で岩盤を貫く……それをする為にこのダイヤモンドの加工が必要なんですね?」


「はい。お願いできますか?」



 俺がそう言うと、オリバーさんはニッっと笑って答えてくれた。



「そういうことなら任せて下さい! これは私の専売特許です!きっと満足のいくものを作って見せましょう!!」


「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」



 心強い言葉を貰い、早速オリバーさんは作業に入ってくれた。


 いやぁ、ホント、いるんだなぁ天才って。


 俺みたいなメッキとは大違いだ。











 ◆










 さて、やってきたのはアケルリース王国。


 王都にある、宇宙食開発でお世話になっているブラウン亭に足を運んだ。


 ちなみに同行しているのはアイリスである。


 リリーは王族としての公務が増えたこともあり、レイディアントガーデンを退職し、王族として現在忙しい日々を送っている。


 一応、その後引き継がれた秘書がいるのだが、アイリスが同行を買って出た為、特に断る理由もないからそれを受諾して、ここにきている。


 ユイさんに見せたいものがあり、ディナータイム前の忙しい時間ではあっただろうが、無理を言って時間を作ってもらった。


 特に隠す必要もない為、ブラウン家全員が揃って対面に座っている。



「お久しぶりです、レオンさん。今日は何か?」


「ええ、実はこちらをご覧頂きたいのですが……」



 俺はアイリスにアイコンタクトをとると、アイリスはタブレットをテーブルの上に置いた。


 その画面に映っていたのはゴールデンレコードのジャケットである。



「これ……どこかで……」



 ユイさんは少し考えた後、手をポンっと叩いた。



「あっ、これ理科の教科書に載ってた奴だ!!」


「りか?」


「科学の授業の総称よ。前の世界の学校の教科書に載っていたのよ、これが」


「へぇ、そうなんだ」



 ユイさんの言葉に反応したマークさんにユイさんが答えるとシンシアちゃんはそれを聞いてまじまじと画面を見た。



「それでこれって何なんですか?」


「これは月で見つけたものなんです」


「へぇ、月でですか……ん?」



 月で見つけたもの。


 それを聞いてシンシアちゃんは何かに気づいたようだった。



「何で月にあったものがお母さんの世界の教科書に載っているんですか?」


「……もしかして、これって地球から来たんですか?」


「おそらくは」



 俺がそう答えると、ユイさんは驚愕したような、困惑したような……色々な感情が渦巻いていることが見てとれた。


 ……そうだよな。


 完全に異世界だと思っていた所に、地球産のものがあったら戸惑うさ。


 俺だってそうだったし。



「……それで、なぜこれを私に?」


「このジャケットに書かれている記号の解き方をご存じかと思いまして……何か知りませんか?」



 俺がそう質問すると、ユイさんは考える間もなくフルフルと首を横に振った。



「知りません。遠い宇宙に行った……とかくらいしか覚えていません」


「そうですか……」



 何かヒントだけでも貰えたらなと思っていたんだけど……仕方ないか。


 ……そうだ!



「グランウィード家に行って見よう。彼なら何か知っているかも」


「ああ、レンくんですか。確かに彼なら何かわかるかもしれないですね」



 俺はアイリスにグランウィード家に行くことを提案すると、二つ返事で答えてくれた。


 俺は彼が前世知識を持っていることを知っているから言ったのだが、アイリスはどちらかというと、彼の生み出す魔法が科学的知見から編み出されていることから、何かわかるかもしれないと思ったのだろう。



「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」


「いえ、お力添えできず、すみません」


「いえいえ。では、私たちはこれで失礼致します。本日はありがとうございました」



 お礼を言って、俺達はブラウン亭を後にして、グランウィード家に向かった。



 ――


 ――


 ――



「……あら?」


「どうしたの? お母さん?」


「そういえば……なんでレオンさん達、地球って言葉がわかったんだろう?」


「えっ? さぁ? ところでなんなの? 地球って」


「私の住んでいた星の名前。そこでね――」










 ◆










「よぉ! レオン殿!! 久しぶりだな!」


「お久しぶりです、マーリンさん」



 突然の訪問だったが、快く迎えてくれたマーリンさんに挨拶する。


 この数年で関係も良くなり、今では様付けからさん付けで呼ぶようになった。



「おや? 久しぶりですね。レオンさん」


「ご無沙汰しております、ヘルガさん」



 それはヘルガさんも同じである。



「それで? 今日は何のようなんだ?」


「ええ、ちょっとレン君に見て欲しいものがあったのですが……今はご在宅ですか?」


「ああ、今はエリオットを公園に連れて行っててな……と、言ってたら帰ってきたぞ」



 マーリンさんが後ろを見てそう言った為、アイリスとほぼ同時に振り返ると、子供と手を繋いで歩くレン君とルナちゃんの姿があった。


 二人の間には三歳ほどの小さな男の子がおり、二人の手を繋いで歩いている。



「あれ? レオンさんじゃないですか! お久しぶりです!!」


「お久しぶりです。レオン様、アイリス様」


「久しぶりだね、レン君、ルナちゃん。」


「お久しぶりです。この子がお二人の?」



 俺達に気がついて挨拶してくれた二人に返答し、アイリスが男の子について質問した。



「はい、息子のエリオットです。ほら、エリオット。ご挨拶して」


「……こんちゃー」



 ルナちゃんの足元にしがみつきながらも挨拶をしてくれた。


 舌足らずな挨拶がとても可愛らしい。



「こんにちは、エリオット君。お父さんとお母さんの友達のアイリスです」


「……」



 大分人見知りなのだろう。


 アイリスが目線を合わす為しゃがんで手を差し出したが、ルナちゃんの足元から離れない。



「こら、エリオット」


「いいんですよ、ルナさん。突然の来客で驚いても無理ありませんから」


「すみません、アイリス様」



 こればかりはゆっくり時間をかけて慣れていかないといけないということで締められ、俺達は応接室に通された。



「さて、今回お邪魔したのは他でもない。レン君に聞きたいことがあったんだ」


「聞きたいこと……ですか?」


「うん。これを見てほしい」



 俺がタブレットをテーブルに置くと、それに表示されたものを見て、レオン君は驚愕で目を見開いた。


 ……そっか。君はすぐに気がつくか。



「レオンさん……これって……」


「ゴールデンレコード。地球から飛んできたボトルメールだよ」


「ゴールデンレコード……」



 彼は顎に手を当てて、画面を見つめた。


 少しの沈黙の後、レン君が口を開く。



「あの……これはどこにあったんですか?」


「月面だよ。これが搭載されていたボイジャー探査機も一緒にね」


「そうなんですか……」



 再度、沈黙が降りる。


 すると袖をアイリスに引っ張られ、小声で問いかけられた。



「あの……ボイジャーだとかゴールデンレコードとか、レンさんに言っても通じないはずなんですが……彼、理解してますよね?」


「ああ」


「もしかして……そういうことですか?」



 彼は俺と同じ転生者なのだとアイリスは推測したようだ。


 俺はアイリスの言葉に静かに頷いて応え、その後、またレン君に話を続けた。



「混乱するのも無理はないよ。異世界だと思っていたこの場所が、実は地球と同一宇宙に存在しているかもなんて、衝撃だと思う」


「そう……ですよね……」


「でも、もしかしたらコイツはユイさんと同じような過程でこの世界に来てしまった可能性も捨てきれない。だからどうしてもこのパルサーマップを解読したいんだ」



 俺は画面に映る14本の線の部分を指差した。



「何か知っていることがあれば教えて欲しい。なんでもいいんだ」


「えぇっと……確か中には音楽と各言語の挨拶が記録されてて、後は画像も入っているって聞いたことがあります」



 やっぱり音楽が入っているんだな。


 でもピープー音しか鳴らなかったんだよな……



「が、画像も入っているんですか?」


「はい。そう聞いたことがあります」


「ど、どうやってそれを抽出するんですか?」


「すみません。そこまでは……でも、音楽は適当に回したら再生できるんじゃないですか?」


「それは既に試みたんですが、ピープー音が鳴るだけで音楽は鳴らなかったんです」



 レン君からの情報を聞いて、アイリスが驚きながらも質問していく。


 なるほど抽出方法はわからずか……


 そう思っていた時だった。



「それって……レコードが裏表逆なんじゃないですか?」


「「……へ?」」



 俺とアイリスは二人して間の抜けた声を発した。

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