episode79 ゴールデンレコード
「……ねぇ、おかしくない?」
月からの帰り道、艦橋のすぐ下にあるミッドデッキで、パトリシアが呟いた。
「……何が?」
パウルがその呟きに答えると、パトリシアはその真意を説いた。
「だってさ! いくらマスターが天才でもこれはおかしいでしょ!! 何であの探査機に金色のプレートが付いてるなんてわかったのさ!!」
パトリシアがそういうと、ミッドデッキにいた皆はその問いに同調した。
「確かに、マスターといえどこればかりは天才だからで済ませられないですよね」
「でしょー!?」
ユルゲンもその場にいた皆も、同じ意見のようだった。
「マスターご自身で打ち上げたものではないのはあの劣化具合から見て取れます。いくら宇宙空間での劣化は地上と比べて早いとは言っても、たかだか9年程度であそこまで劣化はしません」
「じゃあ、何で知っていたんだろう? 写真には全然写ってなかったよね?」
「うん……っていうか、地面に接触してたんだから空からじゃ見ようがないよ」
ユルゲンの意見を聞いてララが疑問を呈す。
そしてクララの言う通り、地面に接していたのだから衛星からではどう足掻いても撮ることはできない。
「実はあの探査機は古代文明のもので、マスターは転生者だから知っていた……だったりして!」
パウルが冗談めかしてそう言うも、案外的を射ているかも知れないと、その場にいた皆は思いを同じくしていた。
◆
「――と言う感じで、皆さん訝しんでいらっしゃいますわ」
「……」
しくったなぁ。
ゴールデンレコードを手に入れたすぎて、思わず金の金属板があるって言ってしまったことでこんな事態になっちゃった。
調べてみようとか言って、自然と見つける流れにもっていくことだって出来たはずなのに。
「何であんなものが付いてるなんてわかったんだ? 何か根拠があったんだろ?」
クリスにそう言われるも、俺は答えることができなかった。
何せ根拠なんてない。
知っていたから。
それしか言い訳が思い浮かばなかった。
……そろそろ潮時かもしれない。
「そうだな……知っていたから……って言うしかないな」
「……知っていた?」
「もしかして、アレはレオンさんのご両親が打ち上げたもの……とかだったりしますか?」
クラリスが首を傾げると、アイリスがそれを代弁する様に質問してきた。
「いや……俺の両親は本当にただの魔法士と魔道具士だよ。技術レベルは中の中ぐらいのね」
それは「オレ」の記憶の中にある両親の情報だ。
俺自身は……何も知らない。
「確かに、レオンさんがロケットを打ち上げる以前に宇宙ロケットが打ち上がったなんて聞いたことがありませんわ」
「まぁ、宇宙ロケットなんか打ち上げたら、伝聞官が黙っちゃいないわな」
ユリアとクリスが妙なところで納得していた。
「じゃあ何で知ってたのよ?」
クラリスが再度、問いだした。
……そうだな。
艦橋にいる四人に話すだけというのは不公平だ。
「ミッドデッキで話すよ。クラリスとクリスは船内放送で聞いててくれ」
――
――
――
ミッドデッキに皆を集める。
クラリスとクリスは操縦席から離すのは危険なので、ここで話すことは全て船内で聴けるようにマイクをオンにしている。
「さて、話して頂きましょうか? 何故、これがあの探査機に付いていることを知っていたのか」
ユリアの視線の先には、ゴールデンレコードのジャケットがある。
さて、何から話そうか……。
「レオンさん、これは一体何なのですか?」
アイリスの質問に答えるべく、俺は口を開いた。
「……西暦1977年、惑星直列に合わせて、太陽系外惑星である木星と土星及びその衛星の観測と天王星と海王星の観測の為に、地球と言う星から2機の探査機が打ち上げられた」
「えっ? せいれき?」
「何かの年号?」
パウルとララが呟く。
しかし、俺はそれに答えることなく、話を進めた。
「その探査機は沢山の発見をしてくれた。木星の大気の動きを撮影したり、土星だけでなく、木星と天王星、海王星にも環があることを発見した……そしてその探査機は、一連の探査を終えると、太陽系を離れ、永い永い旅路へと旅立った」
俺はそっと、ゴールデンレコードに手を触れる。
「その名はボイジャー。この円盤が収められていた探査機の名前だよ」
「ちょ! ちょっと待ってください!! 地球? 木星とか土星とか……冗談はやめてください!」
「そうですよ!! 私達は何でこの円盤が付いているのを知っていたのか聞きたいだけなんです! そんなおとぎ話を聞きたいわけじゃ――」
ユルゲンとパトリシアがムッとした表情で、その声に少し怒気を孕ませる。
しかし、これはおとぎ話じゃない。
「事実だ。エクセルとは違う星から、あの探査機はやってきた」
「……まさか、マスターは宇宙人だったんですか?」
おぉう、そうきたか。
ソフィアは少し震えながら俺にそう言ってきた。
「違うよ。俺は正真正銘、エクセル人だ。ゼーゲブレヒト領でちゃんとパーソナルカードを発行しているしね」
俺は少し間をおいて、皆に事実を伝えた。
「俺はこれの生まれ故郷、地球に住んでいた記憶を持っている。所謂転生者とでもいえばわかるだろうか」
「転……生?」
パトリシアがそう呟いた矢先、クルー皆の困惑していた表情が突然、落ち着いた。
……何故?
「いやぁ、それで納得しました。何故マスターは航空機を作れたのか、何故ロケットを打ち上げた先は真空となっていることを知っているのかって実は疑問だったんですけど……」
「地球ってところは探査機を打ち上げることができる技術があるんだもん。そういう知識があって当たり前だよね」
憤っていたユルゲンとパトリシアは難しい問題が解けた後のようにスッキリとした表情でそう語った。
……いいのかそれで。
「今までの魔法知識は全て地球で学んだことなんですの?」
ユリアがそう言ってくれたおかげで、俺は皆にもう一つ言わなければならないことがあったことに気がついた。
「ああ、魔法に関しては全くわからないよ。何せ地球には魔法なんてなかったからね」
「「「「「……はい?」」」」」
「手から水とか火とか出すなんて創作の世界の話だったよ」
「では、化学などの研究や技術が発展していたってことですか?」
「そう」
アイリスはさすが魔法薬学者だけあって、化学に目をつけたようだった。
「では、もしかして核融合炉の構想もあったのですか?」
「ああ、あったけど俺が記憶している中では実用化はされていなかったな。特にレーザー核融合炉なんてSFの世界だったし」
「……SF?」
「サイエンスフィクションのこと。科学的な観点からいろんな想像をして、それを物語にするんだ」
などと話している所に、艦橋から放送が聞こえてきた。
『盛り上がっている所悪いんだけど、私は次の話題に移ってほしいわ』
「……次の話題?」
俺はクラリスのいう「次」がわからなかった。
『……そのゴールデンレコード、中身はなんなのよ?』
「「「「「ああ……」」」」」
忘れてた。
「そういえばそうでしたね。中身は何なのですか?」
「そもそも、レコードって何なのです?」
アイリスとユリアが質問してきたが、そういえばエクセルにはレコードがない。
音声の記憶媒体は魔道具で製作した為、アナログな蓄音装置がないのだ。
「レコードっていうのは音声記憶媒体のことだよ」
俺はゴールデンレコードのジャケットを開ける。
そこにはレコード盤と針が収められていた。
「この円盤には一筋の線が刻まれていてね。それをこの針でなぞるんだよ」
「……ああ、それで溝の凹凸で音を表現するんですね」
さすがアイリス、すぐに気がついたようだった。
「へぇ、単純な構造なんですね」
「でもそっちの方が、壊れにくいしいいのかも」
クリスタとララがレコード盤をまじまじと見ながらそんな会話をしていた。
そんな時、パトリシアに当然の疑問が俺に向けられた。
「それで、これはどうやって再生するんです?」
「えっ、そりゃこの針で溝から振動を伝わせて、音を再生できるような機械を作って、レコード盤を回せば――」
「いや、それはわかるんですけど……」
言葉を遮られてしまった。
わかっているのなら何を聞きたいのだろうか?
「……これ、一回転に何秒かかるんですか?」
「……!?」
パトリシアに聞かれて気がついた。
ホントだ、これ何秒で一回転させればいいんだろう?
「て、適当に回せばいいじゃね?」
「えぇ……だって太陽圏外に行かせる探査機に積むものですよ? もっと何か記録しているかもしれないじゃないですか」
「……ホントだな」
すごく納得したわ。
俺がそうしていると、アイリスとユリアが核心を突いてきた。
「……レオンさん、もしかしてなんですけど……」
「……これの詳細をご存じない?」
そう。
何を隠そう、俺は有人宇宙開発にのみ注目しており、探査機は専門外なのだ。
ボイジャーは探査機としては有名で、ゴールデンレコードもロマンに溢れていたから知っていた。
しかしながら――
「……へへ」
知っているだけで、レコードに何が収められているのかは知らないのである。
「知らないんっすか!?」
パウルにツッコまれた為、弁明してみる。
「いやいや! 全部知らないわけじゃないぞ!! ジャケットのここに書かれてる中心から何本も伸びてる線は地球のある太陽の座標を示しているってことぐらいは知ってる!!」
だから欲しかったんだ。
これがあれば地球の位置を知ることができるから。
「これはパルサー信号だから、これらのうち何本かを捕捉すれば、三角測量の要領で距離を導き出せる」
「……で? そのパルサー信号の周波数はどこに書かれてますの?」
「……多分これ」
線の端。
そこには縦と横の線が幾つも書かれていた。
それは座標を示す14本の線全てに書かれている。
「この縦と横の線で数字を導き出せるんですの?」
「……多分ね」
やり方知らんけど。
するとユリアの肩がふるふると震え出した。
あっ、やべぇ。
「なぁんでわからないんですの!!」
「探査機に関しては俺は専門外だったんだよ!!」
「それでも同じ地球人だったのでしょう!? 何かわかる所はないんですの!?」
「異星人向けに作られたジャケットのことなんかわかるか!! 俺が知っているのはレコード回せば音が出るってことくらいだ!!」
「ま、まぁまぁ二人とも。落ち着きましょう?」
アイリスに宥められながら、ミッドデッキで騒がしく過ごし、俺達はエクセルへと帰還した。
◆
エクセル帰還後、着陸直後は色々取材などが多く、時間が取れなかった為、後日、宇宙飛行士達を集めて、俺が転生者であることを伝えた。
今のところ、転生者であることは宇宙飛行士達にのみ伝えようと思っている。
これから先、共に行動することが多いと思うし、何より第一期、第二期宇宙飛行士の面々は、レイディアントガーデン起業時の初期メンバーでもあるのだ。
こうなった以上、隠し事はしたくなかった。
覚悟を決めて、転生者であることを告げた俺に待ち受けていたのは――
「なんだ、それなら納得ですね」
「明らかにおかしいですもん。知識量が」
エリックとデニスはそういうとスッキリしたと言いたげな表情で伸びをした。
他のメンバーも概ね同じである。
俺の覚悟は一体……。
「そんなことより、この金色の円盤はどうやって使うのですか?」
「そんなこと……」
俺の人生最大のカミングアウトはそんなこと呼ばわりされたが、それは皆からの信頼の証だと受け取ることにして、俺はエルフリーデに答えた。
「それがわからないんだ。このレコードを回して再生するってことはわかるんだけどね」
俺はパスファインダー内で説明した再生方法を再度説明する。
「じゃあ、適当に回せば良くね?」
「音聞いてたら大体こんなところかって感じで再生速度わかんだろ」
エーリッヒとラルフは適当派か。
「宇宙人からのメッセージよ? どんな音が収録されているのかわからないのにどうやって適当に再生速度を出すのよ?」
「そうね。確かに難しいかも」
ティナとラウラは慎重派と……。
まぁ、でも適当に回して再生速度を合わせるっていうのはいい案かもな。
何故なら――
「エーリッヒの案はいいかもしれないな。何せここに地球のことを知ってる人間がいるんだから」
「「「「「あぁ!?」」」」」
クリスの発言で皆があることに気がついた。
そう、俺は地球の言葉を知っている。
だから再生さえできれば、どれくらいの速度で回せば言葉として聞き取れるのかはわかる。
「で、これが再生機だ」
机の上に針から音をスピーカーに伝える機構と、ハンドルを回すことで回転速度を変えることができる再生機を置いた。
「では、早速再生してみましょう」
「どんな感じなのかしらね」
アイリスとクラリス以外にも、この部屋にいた皆が好奇心に溢れていた。
俺はレコードをセットして、ハンドルを回す。
すると、再生されたのは――
「……ん?」
「なにこれ? ピープー音?」
スピーカーから出たのはノイズ……とは違うブザー音のようなものが聞こえてきた。
「ねぇレオン? これが地球の言葉なの?」
「なんだかまるでモールス信号のようですね」
クラリスが俺に質問してきた。
ユリアに関してはこれを言語として受け取るとどう訳するべきか考えているようだが、俺は――
「……なんだこれ?」
全く意味がわかっていなかった。
……ゴールデンレコードでこんなんだっけ?
翌日も同じくらいの時間に3話ずつアップします。
よろしくお願いします。




