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episode77 俺、宇宙に行くよ

 


 さて、人工魔力は理論発動であればなんでも実行可能な万能魔力なのか確認する為に、色々と実験してみた。


 まずは地上での水生成。


 これに関しては魔力の質調査時に確認済みだが、あれは理論発動で実行した為、今回はイメージ発動で試してみた。


 すると――



「ぜぇ……ぜぇ……」


「も、もう……無理です……」



 実験室の一室でダスティンは四つん這いになって肩で息をして、ティナは寝そべっていて疲労困憊といった感じだ。


 他にも地上に残っている宇宙飛行士とうちにいる魔法士達が辺りに横たわっている。


 死屍累々の光景である。



「へぇ……まさか魔法が発動しないとはな」


「驚きですわね」



 そう、イメージ発動だと人工魔力は魔法発動がされなかったのだ。


 だが、水素原子と酸素原子には変わることができている。


 これは理論発動では水を生成できていることから間違いはない。


 ということはだ――



「この人工魔力は原子情報は持ち合わせているが、エクセルの影響を全く受けていないということだな」


「そういうことですわね。だからX-39に搭載されているスーパーコンピュータがエクセル代わりになっていたんですわ」


「俺達は魔法サーバーを手に入れたってことだな」



 これは本格的に面白くなってきたぞ。



「も、盛り上がっているところ悪いんですが……」


「ま、魔力ポーションを……ください」


「あ、ごめん」



 忘れてた。ほんとごめん。










 ◆










 一方、フリーダム宇宙ステーションでも、人工魔力が使用できるかの調査を行なっていた。


 もし、宇宙に出た瞬間、魔力が仕事をしなくなる可能性もあるからである。


 長期滞在クルーの交代の為のフライトだったが、急遽アイリスが搭乗し、実験することとなった。



 そしてその結果――



『無重力空間でも魔法発動することは確認できました。ですので宇宙でも使用可能です』


「そっか、それは朗報だ」



 これで心置きなく宇宙に出られる。



『しかし残念ながら、宇宙空間では通常の白魔力と同じ動きをしていました。ですので宇宙空間での反重力魔法による航行はできません』


「そっか、それは悲報だな」



 つまりVASIMRは必要ってことだ。


 でも、大気圏内では反重力魔法での浮遊が可能で上昇速度も変更できることがわかったから、ロケットのようにGに耐える訓練はあまり必要じゃなさそうだ。


 高度80km近くまでは反重力魔法でゆっくり飛び、そこからはVASIMRで加速していく方法であれば、体への負担は減りそうだ。


 風魔法用に確保していた魔力も別に使えるし。


 それにこの方法なら非力な研究者の人達もあまり訓練せずに搭乗することもできるかも。


 そうなったら地質学者とか乗せて月へ行くことだって――



「……あれ?」


『どうかしました?』



 体に負担がかからない……故に誰でも行けるのなら……


 ――俺も行けるんじゃね?



「そうだ……そうだよ」


『レオンさん?』


「アイリス、俺、月へ行くよ」


『あっ、はい。だから皆で力を合わせて宇宙船を作って――』


「いや、そうじゃなくてだ。俺も宇宙に行くよ」


『えっ……えぇ!?』



 ――


 ――


 ――



 というわけで宇宙飛行士の皆にそのことを話してみた。



「マ、マスターが宇宙に!?」


「だ、大丈夫なんですか? その……マスターはお体が……」



 エルフリーデは驚愕し、ソフィアは俺の身を案じてくれた。


 ソフィアの疑問は他の皆も同様のようだった。



「この宇宙船に限っての話だな。スペースシャトルやソユーズじゃあ加速度で循環器がどんな症状を出すかわからないと思う」


「そうですか。なら良かったです」


「確かにこの飛行方式であれば、体に負荷がかかる時間はスペースシャトルやソユーズと比べると一瞬ですしね」



 ソフィアは俺がスペースシャトルに乗ると思ったのだろうか?


 この新型だけだと話すと胸を撫で下ろした。


 ユルゲンも、飛行方式から体に負担がかからないことに納得したようだ。



「というわけで、月へは俺も行く。皆よろしく頼む」


「「「「「はい!」」」」」



 さて、宇宙船の改良点も見つかって、現在はその改修中。


 それが終わったらいよいよ月へ旅立つことになる。



「それで? 今のところはどういうスケジュールを考えているの?」


「やっぱテスト飛行、宇宙テスト飛行、月軌道投入テストって感じか?」



 クラリスとクリスが質問してきた。


 確かにその手順が普通なんだが、そこまで段階を踏まなくてもいいんじゃないかな?



「そうなるだろうが、それぞれ別日に実施するというようにはしなくていいと思うぞ」


「……あっ、そっか。燃料を考えなくていいんだ」


「そう」



 だからどちらかというと全てのテストを同日に行って、何か問題があったら、その段階で帰還する形を取ればいいだろう。


 俺はそのことを皆に伝えていく。



「――という感じだ」


「燃料のことを考えなくていいんだからそれでいいんじゃない? で、誰が月に行くの? レオンは確定で、操縦士は私で、後は――」


「おい」



 クラリスがクルーの話題に入った所で、クリスが口を挟んできた。



「何どさくさに紛れて自分が操縦桿を握ろうとしてんだ?」


「レオンの乗る船の操縦桿は私が握るわ」


「いや、そこは皆で話し合って――」


「私が握るわ」



 圧がすごい……。


 クリスも、クラリスから発せられる圧でたじろいでいるようだった。



「ま、まぁ、確かにクラリスが適任だろうけど、ここは皆の意見も聞いてみる必要があるんじゃないか? なぁ、皆?」


「私はクラリス様が適任だと思います」


「僕もですね」



 クリスがたじろぎながらも、皆に意見を仰ぐと、エルフリーデとユルゲンがクラリスが操縦士ということで同意した。


 他の宇宙飛行士も同様のようで、それぞれ同意するように頷いている。



「じゃあ、そういうことで。まぁ、この船25人位乗れるから、全員で行けるんだけどね」


「確かにそうだったな」



 月に行く。


 一大プロジェクトのはずなのに、とんでもなくゆるい空気で、会議は進んだ。











 ◆










 一ヶ月後――


 とうとう、月に飛び立つ日がやってきた。


 完成品となったX-39はパスファインダーと名付け、俺を含めた宇宙飛行士14名を乗せて宇宙に上がる。



「ふぅー……」



 ……なんか緊張するな。


 心臓疾患がわかった後から宇宙に行くことは諦めていたんだが、まさかこうして行けるようになるとは思っていなかったからな。


 このスターマンスーツも、出来た時は俺も着たかったから着るだけ着てみたことはあった。


 だが、こうして実用するとは思っても見なかったから正直、興奮と緊張で吐きそう。


 しかも、満場一致で俺が船長になったし。


 経験値の高い宇宙飛行士から任命するべきだと俺は思うんだけどなぁ。



「レオン、安心しなさいよ。私がしっかり宇宙に連れて行ってあげるから」


「……頼もしいね」



 クラリスから頼もしい言葉を受けたが、なんというかそれ、ヒーローがヒロインに言う台詞っぽい。



「あまり張り切り過ぎて速度を出し過ぎないようにね?」


「姉様には言われたくない」


「なんですって!?」



 通信士としてブリッジにいるのはアイリスだ。


 他には副操縦士としてクリス、機関士としてユリアがいる。



 奇しくも俺の幼馴染がブリッジ用員だった。



 他には第一期宇宙飛行士からユルゲン、パウル、クララ、パトリシア。


 第二期宇宙飛行士からはダスティン、エルヴィン、クリスタ、ソフィア、ララが搭乗している。



「さて、そろそろオンタイムだ。ユリア、いけるか?」


「いつでもどうぞ」


「よし……アイリス頼む」


「はい。ミッションコントロール。パスファインダー発進準備よし」


『こちらミッションコントロール。発進を許可します』



 今回のフライトディレクターであるアルノーから許可が下りると、クラリスに反重力魔法起動を指示する。



「クラリス、反重力魔法起動」


「了解、反重力魔法起動。浮上開始」



 航空機でいうところのスロットルレバーを倒していき、反重力魔法の加速度を上げていく。


 人工魔力による恩恵で、反重力自体をスロットル操作によって制御できるようになった。



 今までと比べて、早く上昇できるようになった機体は、数分で高度2000mまで達していた。



「VASIMR出力上昇。加速開始」


「了解。VASIMRスロットルアップ」



 副操縦士のクリスが、今度はVASIMRのスロットルレバーを倒し始める。


 徐々に加速を強める機体だが、感じる加速度は航空機の離陸くらいのものだ。



 ロケットほど速くはないが、レーザー核融合炉からもたらされる膨大なプラズマと魔力によってゆっくりと加速する機体は、確実に宇宙へと向かっていった。



「高度78km到達。反重力魔法解除、VASIMRによる推進飛行へと移行」


「了解」


「機関出力安定。問題ありませんわ」



 クラリスからの報告を了解すると、ユリアからも順調と報告が上がり、難なく魔力消失層である80kmから100kmまでの間20kmを突破する。



 もうその頃には外の景色が藍色と黒の境界線が見えてきていた。


 高度150km


 俺は前世から今世にかけて初めて宇宙にやってきた。



「機関出力正常、VASIMR推力異常なし」


「了解。アイリス」


「はい。パスファインダーよりアルファードへ。これよりTLIを開始します」


『こちらアルファード。了解しました』



 TLI……トランス・ルナ・インジェクション。


 月遷移軌道投入を開始する為、さらに加速する。



「クラリス、第二宇宙速度まで加速開始」


「了解。第一宇宙速度から第二宇宙速度へ切り替え」



 クラリスとクリスがコントロールパネルを操作している最中、俺は天頂の窓を見上げた。


 そこには前世で何回、何十回、何千回も見た地球の写真と混色がないくらい蒼く美しい惑星の姿が見えた。



 重心を安定させる為にシャトルと同じように機体を背面飛行させているからこそ見れた景色だ。



「綺麗だな……」



 ホント、それしか言えない。


 それ以上の言葉はいらないと思える風景が目の前に広がっていた。



「TLI完了。推力アイドルへ……普段は船長がかける言葉なんだけど……」


「ん?」



 見上げていた顔を前に戻し、クラリスとクリスの座る操縦席を見る。


 すると二人とも前ではなく、俺の方を向いていた。



「宇宙へようこそ」


「……あっ、お前ら宇宙に上がった時そんな言葉かけてたの!?」


「……ここ、普通は感動するところなんだけど」



 通信がされていない時間にこんな言葉かけてたなんて知らなかったぞ。


 しかもそれって俺がクリスにかけた言葉じゃねぇか。


 恥ずかしい……。



 でも――



「ありがとう。これで俺も宇宙飛行士になれたな」


「スーパールーキーの誕生、ですわね」


「はははっ!! 確かに!!」


「レオンが……ふふっ! フリーダムステーションやISSに行ったらどれだけ新発見をするかわっかんないわね!」


「ふふふっ! 確かにそうね!」


「……そんなにおかしい?」



 幼馴染同士だからこその掛け合い。


 ホント、一大プロジェクトなのにゆるいもんだ。



 俺はもう一度、天頂の窓から外を見る。


 既にエクセルの姿はなく、見えるのは満点の星。


 しかし、大気がない為瞬くことはなく、ただの光る点としてそこにあった。


 綺麗ではあるが、星空を見るなら地上の方がいいなと思いながら、俺は……俺達は月を目指した。

次話は13時にアップします。

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