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episode75 月を目指して

 


 新型宇宙船の開発が実施されている一方、フリーダム宇宙ステーションではMCブースターを利用した様々な魔法実験が開始されていた。


 エリクサーの例もあり、今まで実現不可能とされていた宇宙空間での魔法行使も、魔力出力を引き上げることで行使可能なのではないかと考えてのことだった。



 船外にて水魔法、土魔法の発動実験を行った結果、結論として発動可能であることが確認された。


 しかし――



「普通なら100万リットルの水が精製出来る魔力量のMCブースターでほんの10リットルしか作れないとか……理論発動でこれじゃあ、宇宙空間でイメージ発動なんて絶対無理だね」



 フリーダム宇宙ステーションにて長期滞在中のクリスタがそう呟いた。


 スペースラブミッションを経験したクリスタの他にもララもフリーダム宇宙ステーションに来ており、共にユリアからミッションを言い渡されていた。


 そのミッションとは宇宙空間における魔法発動の条件確立である。



「魔力の出力を上げるだけじゃダメなのかなぁ……もっと何か工夫しないといけないとか?」



 魔法の発動の基本は集めた魔力に自身の魔力を混ぜ合わせ、発動させたい魔法のイメージ又は理屈を魔力に流し込む。


 そうすることで魔力は火、水、風、土、雷へと変換される。



「え〜、工夫って何するのよ。魔力集めて出したい魔法をどうやって発動させるかってだけの世界に何を挟み込むの?」


「やっぱり魔道具しかないのかな?」


「でもマギリングコンピュータを搭載した魔道具であれだよ?」



 クリスタはヘルガII実験棟の船外パレットを指差してそう言った。


 そこには先程水を発動させた魔道具がパレットに接続されている。



「……だよね」


「なんか革新的な方法を編み出さないといけないのかなぁ……マスターじゃあるまいしそんなのすぐにはできないよぉ!!」



 ララとクリスタが諦めモードにはいる。


 が、宇宙飛行士として、研究魔法士としてここで引き下がるわけにはいかないと自身を奮起させる。



「まぁ、ただでは転ばないけどね。この結果を踏まえて月面探査で何か役に立つ方法を考えよう!」


「そうだよね! ここから正念場だよ! ララちゃん!!」



 再び実験機の操作を始める二人。


 宇宙と地上。


 二つの舞台で月面探査の準備が着々と進んでいた。











 ◆










 レイディアントガーデンが月面着陸計画「ミラミナス計画」を発表し、アケルリースへ人員輸送機の開発を依頼してから1年と半年。


 新たに設立されたアケルリース航空宇宙局は、X-38乗員帰還機を改修し、宇宙往還機を完成させた。



 そしてそれを打ち上げる為のロケットも同時に完成させ、先月、初の無人飛行を実施し成功を収めている。



 今回は人を乗せた初の打ち上げ。


 乗り込むのはクレイヴ・フォン・キニアとヴィクター・フォン・ロックシールドの二人だ。



「危険なミッションですが、よろしくお願いします」


「なに、クライン君のことは信頼しているよ。もちろん技術スタッフもね」


「ZTVと同じ技術でISSへ行くんだろ? 楽勝だって」



 総員4名が搭乗可能な機体だが、最少単位である二人で試験飛行を行う。


 ほぼ自動操縦だが、操作する場面になった場合には二名は確実に必要な為だった。



「このテストが終われば、この国独自で宇宙に行けるようになる。このアドバンテージは大きい」


「しかもこの打ち上げが成功すれば世界で二番目に有人宇宙飛行を成功させた国になるんだよな」



 その名誉を頂けることに感動する二人は、搭乗する時間を迎えた。


 待機場から発射場まで移動し、往還機へと乗り込んでいく。



「そういえば、この機体の名前は何になるんだ?」



 クレイヴがクラインに質問する。



「予定ですが、スターゲイザーと名付けようと思っています」



 ――スターゲイザー


 星を見る者という名を与えられるその船は、その名の通り天を見上げて佇み、その翼を広げる時を待っていた。










 ◆










『本日、11時32分。アケルリース王国フィーメル宇宙センターより、アケルリース製宇宙往還機が宇宙飛行士二名を乗せて打ち上げられ、無事、宇宙へと辿り着きました』



 MTVからニュースを読み上げるキャスターの声が聞こえる。


 どうやらX-38の改修機の最終テストを行ったらしい。



「あら、やりましたわね」


「向こうは順調そうで何よりだ」



 設計図面と睨めっこをしながらユリアにそう返答する。


 ISSへの足を自力で確保してくれたことはありがたいが、こっちは船体のことで頭がいっぱいだ。



「エンジンノズルはエアロスパイク型にすることで推力を一定にすることが可能になりましたが、問題は制御ですわ」


「ああ、今のままじゃ確実に墜ちる」



 その理由はコンピュータの性能だった。


 従来の液体ロケットエンジンの制御に関しては今のマギリングコンピュータで十分な性能を持つ……どころかかなり安全に制御できる性能を持っている。


 しかし、レーザー核融合炉は別だ。


 生成される高温プラズマの乱流を制御し、プラズマコンデンサへと溜め込み、VASIMRでそれを加速させて推進力にする。


 しかも内部の熱遮蔽を担う魔力障壁の制御もしながらだ。


 これら全てを安全に、しかも完璧に制御しなければならない。



「難しいぃ〜!!」


「本当に、我ながらとんでもないものを提案してしまったものですわ」



 地上で核融合炉を動かす分には問題ない。


 超高性能なマギリングコンピュータがレイディアントガーデン本社ビル地下にあるからだ。


 所謂スーパーコンピュータである。



 しかし、それを使ってようやく制御できる代物を、船の中に収めなければならないのだ。


 ……笑いしか出てこない。



 前世の人達はすごいな。


 アポロ計画当時でもコンピュータは未だ一部屋丸々使ったものだったはずだ。


 それをコンパクトにしてアポロ宇宙船に載せたんだから脱帽だよ。


 IB●すげえな。



「仮に制御コンピュータを小型にできたとしても船体は大きくなるぞ。加えて言うなら全てコンピュータ制御じゃなく、人の目による調整も必要になるだろうな」


「というと?」


「コンピュータから送られてくるデータを見て人の手で制御する場面もあるかもしれないだろ? 例えば……運用方法は大型船舶に近くなるだろうな」


「ああ、アルファード型やマイフェルト型、ソレオン型のような魔導船ですわね。となると、かなりの人員が必要となるのではありませんの?」



 そう。


 もしこのまま行ったなら、新型宇宙船の運用には船舶と同じ要領でする形になる可能性が非常に高い。


 となると、第一期、第二期……もしかしたら宇宙飛行士全員に船に乗ってもらうことになるかもしれない。


 そうなったらフリーダム宇宙ステーションが空になる。


 それはまずい。



「多分、今の宇宙飛行士全員で乗ることになるだろうから、そうなると他の有人宇宙計画が蔑ろになる。だから募集する」


「あら、また仲間が増えますのね」



 仲間が増えることが嬉しいのか、ユリアは少し語尾を上げた。



「さて、ここまで開発してもらったが、あとは制御システムとプログラム、マギリングコンピュータの性能アップに力を注がなきゃならない。で、それに関しちゃ俺の専売特許だ」


「そうですわね」


「てな訳でユリア。お前はこれからは宇宙飛行士としての訓練に戻ってもらう」



 レーザー核融合炉もできたしVASIMRも完成させた。


 ここからは俺の仕事である。



「わかりました。では私も月面探査に向けた訓練を摘む形になりますの?」


「いや、どちらかというと操船の方だな」


「操……船?」


「うん。宇宙飛行士達には大型船舶の操船法を学んで来て欲しい」



 何せ、作ろうとしているの、殆ど船に近いんだもの。


 ……宇宙「船」だしな。










 ◆










「宇宙飛行士の皆さん、ようこそゼーゲブレヒトへ!!」



 アルファード型二番艦ゼーゲブレヒトの飛行甲板へ降り立った宇宙飛行士達を出迎えたのは、同艦長であるマリーテレーズ・フォン・リーフェンシュタールであった。



「これからよろしく頼む……いや、よろしくお願いします」


「はい。……ふふっ、宇宙旅行の時とは逆ですね」



 クリスと握手を交わし、マリーテレーズは早速、説明に入る。



「まずは艦内での部署分けからご説明します。基本としては航海科、船務科、機関科、主計科、衛生科があります。そしてこれらを統括するのが艦長と副長ですね」



 そう言ってマリーテレーズは艦内へと案内した。


 まずは艦橋へ入り、説明し始める。



「ここが艦橋……航空機で言えばコックピットですね。ですが航空機と違って、舵輪の近くにエンジン出力を調整するスロットルや各種操作パネルがあるわけではありません。複数人で手分けして操舵していくんです」


「はぇ〜……」



 フリーダム宇宙ステーションから帰還したパトリシアも研修に参加しており、ゼーゲブレヒトの艦橋内を見て舌を巻いた。



「こうしてまじまじと見るのは初めてですね。どのようにしてこの巨大な船を操縦しているのです?」


「基本は艦長が指示して動かします。先も言いました通り、航空機と違うのはエンジン出力を航海長自身が調整する訳ではないというところです」



 アイリーンの質問にマリーテレーズが答える。


 そこで疑問が浮かんだクリスが質問した。



「航海長というのは?」


「そうですね、いわばパイロット……でしょうか? 舵輪を預かっている航海科の長です」


「舵輪って……この操縦桿よね?」



 アイリスが指差す方向に丸いハンドルが備え付けられており、その場所は船の中央に位置していた。



「そうです。そこから航海長が機関長に指示をして、エンジン出力を調整してもらい、速力を変更してもらうんです」


「なるほど、スロットルは別の人の手で操作されるんですね」



 ユルゲンは顎に手を当て、感心する。


 そして、全員が全員、手にあるメモ帳を広げてそこに情報を書き込んでいく。



 その姿を見た船員達は逆に驚嘆した。


 宇宙飛行士というのはエリート中のエリートが集められた精鋭達である。


 その精鋭達が威張ることもなく、ただ黙々と教えられたことをメモに書き、貪欲に学習していることに驚いたのだ。


 そして、そんな人達だからこそ、宇宙飛行士になれたのだろうと納得もしていた。



「これを航空機に落とし込むとなると機体を動かすのに最低でもパイロット、コパイ、機関士が必要ね」


「それ以外に機関に関しての専門知識も学ばないといけないな。機体システムに関してもより専門性高くなってくるぞ」


「じゃあ、今までのミッションスペシャリストのような機体運用全般ではなく、各部署分けをしなければならないわね」


「そう聞けば聞くほど、大型船舶と同じように聞こえますわね……全く、レオンさんはそこまで想定していたんですのね」



 クラリス、クリス、アイリス、ユリアはレオンの先見性に舌を巻くが、そんなものは今までも何回もあったなと我に返り、マリーテレーズの講義の耳を傾ける。



「すまない、続けてくれ」


「かしこまりました。では、実際にどのように速力を決定するのかの手順をご説明致します」



 メモを片手に、中にはボイスレコーダーを起動させ、後で聴けるようにしながら講義を受けていく。



 全ては月へと行く、その為に。

次話は18時頃アップ予定。

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