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episode74 VASIMR

 


 アイリスとクラリスとのお出かけから一週間。


 ユリアも俺も、推進機構に関してお手上げ状態になっていた為、忙しい中、技術スタッフと宇宙飛行士達に集まってもらった。



「――という訳でお手上げ状態な訳だ」


「誰かいい案はございませんか? なんでもいいんですのよ」



 核融合炉からエンジンノズルまで外界に繋がらずにプラズマを外に送り出す方法はないか、皆に意見を聞いてみた。



「う〜ん……」


「今までは燃焼したガスをすぐに放つことで推進力に変えていましたから、それ以外の推進方法は私達では……」



 クラウディアは腕を組んで悩み、アイリーンはロケットエンジンの機構くらいしか思い浮かばないと言う。


 ちなみにパトリシアは現在フリーダム宇宙ステーションに滞在中である。



「作用反作用の法則はわかるだろ? それをプラズマでどうやって行うかを考えて欲しいんだ」


「そう言われても……なぁ?」


「……正直、第一期宇宙飛行士には難しいですぜ」



 マルクスとパウルは困り顔でそう言った。


 ……なるほど、確かにパイロット気質の彼らはどちらかというと完成した機体の評価と改善点を挙げることに長けている。



 となると――



「第二期宇宙飛行士の皆はどうだ?」



 第二期の皆は魔法に長けていて、魔力や魔法の研究をしていた者が多い。


 何かヒントが得られるかもと思って問いかけたものの、皆唸るばかりだった。



「私は魔法を使う方が得意で、開発とかはあまり……」


「私もです……」



 クリスタとティナは申し訳無さそうに顔を伏せた。



「ソフィアとララはどうだ?」


「実は私達は既にユリアさんを手伝っていて……」


「もう、出し切った感じです……」


「……そっか」



 技術スタッフにも聞いてみたものの、殆ど俺達が発案したものと似通ったものばかりだった。



 ここまでか……そう思った時だった。



「あ、あのぉ……」


「ん?」



 おずおずと手を上げた人がいた。


 それは第三期宇宙飛行士のエレアであった。



「なんだ? 何かあるか?」


「は、はい。えっと、プラズマを別のタンクに溜めおく方法はどうかと思いまして……」


「ああ、それか。それも考えたんだけど、プラズマを閉じ込めるにはやはりどうしても魔力障壁を張るから、ノズルを開いた瞬間魔力結合が解けてタンクが溶けちゃうよ」



 ようは核融合炉と同じ形でプラズマからタンクを守る以上、その方法は使えない。


 しかし、エレアは別の方法を考えたようだった。



「いえ、魔力障壁を張るのではなく、雷の力で浮かすのはどうですか?」


「……えっ?」



 雷?



「こんなのを考えたんですけど……」



 エレアは傍からA4サイズくらいの紙を取り出すと俺に差し出した。


 そこに描かれていたのはタンク内部にコイルが巻かれている構造で、幾つか螺旋状の線が書かれていた。



「これって……」


「確か……電磁力でしたか? 金属に電気を通すと帯びる力を使ったら、同じく電荷を持つプラズマを浮かせて止めることが出来るんじゃないかと思ったんです」


「な、なんでこれを?」



 正直、魔法世界であるここでは電磁力などはあまり使われていない。


 車や飛行機に使用されるモーターは全て魔力で動いている為だ。


 だからこの世界では超伝導などの電磁力の研究はあまりされていない。


 なのに何故エレアは磁気で物を浮かすという発想に至ったのだろうか?



「えっと……以前、黒魔力を宇宙に持って行きましたよね? ()()()()()で」


「あ……あぁ!?」



 そうか!? あの時、STS-100の時に黒魔力を調べていたのはエレアだ!!


 だから磁気で何かを浮かすという発想がすぐに出てきたのか!!


 っていうかなんで俺はこれを思いつかなかったんだ!?



「なので、プラズマも磁気で浮かすことが出来るんじゃないかと。あとは同じく、磁気を使ってプラズマを打ち出せば推進力に変えられるんじゃないかと思ったんです」



 続いて、エレアは2枚目の紙を出した。


 今度は管の中に大きめのコイルを配置し、輪っかを作った鋼線を交差させる形でノズル近くに配置した推進機構が描かれていた。


 ……マジかよ。


 確かこれって――



「比推力可変型プラズマ推進機……VASIMR(ヴァシミール)じゃないか!?」


「あっ、かっこいいですね。それ」



 VASIMR……推進剤をヘリコンアンテナで電離させた後に、イオンサイクロトロン共振加熱(ICRH)でエネルギーをブーストさせてプラズマを磁気ノズル内で膨張、磁気的推力を発生させて後方へと打ち出す。


 電熱加速でもあり、電磁加速でもあるこの推進機構は次世代の核推進の一つだった筈だ。


 これのメリットは電力投入の調整で推力と比推力を調整することができることだ。


 しかし、前世ではこれは実現されていなかった。


 理由は発生したプラズマの流れが完全に把握できなかったからだ。


 プラズマ乱流を制御出来なければ、それを推進力に使うことなどできない。



 しかし、今作ろうとしているものはヘリコンアンテナで低温プラズマを作らない。


 核融合炉でできたプラズマをタンク内……プラズマコンデンサーに貯めてそれを噴き出すんだ。


 乱流をコンデンサー内で抑えられればいけるかもしれない!!



「でもよ? この機構でもバルブを開いたらコンデンサーを通じて核融合炉に通じるから魔力が霧散するんじゃね?」


「融合炉に繋がるパイプを閉めりゃいいだろうが」


「あっ、そうか」



 クリス……お前……。



「とにかく、今まで考えてたものよりは実現できそうだ。これで行こう!!」


「「「「「はい!!」」」」」


「ユリア、新たにエレアを加えてエンジン開発をする。エレアもこれからは開発畑に入ってもらうから忙しくなるぞ」


「エレアさん、覚悟してくださいまし?」


「は、はい!! わかりました!! 頑張ります!!」



 小さく拳を握って気合を入れるエレア。


 そういえば、VASIMRってNASAの宇宙飛行士が考案したんだったっけ?


 この世界でも現れたよ、次世代のエンジンが……。


 宇宙飛行士からな!!



「正直これをスペースシャトルに積むのは難しいな……よぉし!! 作るぞ!! 月への宇宙船を!!」


「「「「「おー!!」」」」」











 ◆










「すっごいじゃないエレア!! お手柄だよ!!」


「いやぁ……えへへ」



 会議終了後、クラリスがエレアに抱きついて今回の件を褒めると、エレアは照れ臭そうに頭を掻いた。



「で、でもまさかこんなに絶賛されるなんて思っていませんでした」


「謙遜よ。まぁ、レオンはそのエンジンの構想はあったみたいだったけどね」


「やっぱりそうですよね」



 名前をつけていた時点でレオンの中では構想としてはあったことはエレアもわかっていた。


 その為、絶賛されることに少し抵抗があったのだ。


 レオンの手柄を横取りしたような気がしているからである。



「でも、あいつはそれを出さなかった。できないって思っていたのか、忘れていたのか……多分後者なんだろうけど、今回のエレアのように、私達が思い出させてあげる立場にいないとね」


「思い出させる立場……ですか?」



 エレアが首を傾げていると、近くにいたアイリスも話に加わった。



「レオンさんだって人間ですから、忘れることだってあります。沢山の知識の中から最適な物を引き出せる能力に長けているレオンさんですが、今回のような場面が、これから増えていくんじゃないでしょうか?」


「何せ私達が目指しているのは月。誰も行ったことがない……っていうか行こうとすら思っていなかった場所に行くのよ? 一人の頭でできると思う?」



 エレアは少し考える。


 月に行く為の手段と方法。


 それまでの食料の保存法。


 そして現地に着いてからの活動方針とその方法。


 エクセルの未踏地に行く訳じゃない。


 空気がない場所に行くのだから装備も考えなければならない。



 少し考えるだけでこれなのだ。


 やることが多すぎる気がするとエレアは思った。



「確かに難しそうですが……マスターなら出来そうです」


「……そうなんだよねぇ」


「ですが、今回の件で皆わかったんじゃないでしょうか? レオンさんの頭脳を持ってしても、行き詰まることが出てくると」



 それはエレアだけでなく、技術スタッフ全員が思ったことだった。


 今まではレオンの提案を主軸に意見を言って形にしてきたが、今回はその主軸すら出来なかったのだ。


 今までおんぶに抱っこ状態だったことを痛感した事柄でもあった。



「ええ、今回のことで痛感しましたわ。私達はレオンさんから沢山の知恵と知識を貰ったにも関わらず、駆使し切れていないことに」


「ああ、それは俺も同感だな」



 アイリスの言葉に反応して、ユリアとクリスが会話に入る。



「……あなたはもう少し知識を蓄えなさいな。前回のフィールドワークに引き続き、さっきの質問、宇宙飛行士としてあるまじきものでしたわよ」


「わ、悪かったって! もう少し勉強するよ……」



 ユリアに指摘された事は自覚している為、勉強をする時間を増やそうと、クリスは心に誓うのだった。











 ◆










 基本的なエンジン構造が出来た為、あとはそれを実際に作製し使ってみるところから始める。


 3ヶ月の歳月を経て、ようやく試作品が完成した。


 今日はそのエンジンの燃焼試験を実施する日である。



「さぁ、どうなるかな……」


「緊張の一瞬……ですわね」



 コントロールセンターのメインモニターには試作VASIMRエンジンのノズルが映っている。


 通常のロケットエンジンと同じくベル型にしたが、いけるだろうか?



「システム、準備完了です」


「よし。では、ICRH出力アップ」


「出力アップ」



 魔力から変換された電力がICRHアンテナへ送られてブーストを開始する。


 そして、試験値まで出力が上がったところで――



「バルブオープン……点火」


「バルブ解放します!!」



 解放された瞬間、加速されたプラズマがノズルから噴き出す様子がモニターに映し出される。


 その映像から見てとれる噴射速度は、通常のロケットエンジンのそれと混色がなかった。



「やった!! やりましたわ!!」


「よかった……よかったぁ!!」



 ユリアは歓喜し、エレアは自身の考案したエンジンがちゃんと稼働したことに安堵していた。


 周りのスタッフも、それぞれ成功したことに一喜一憂している。


 ……俺は驚愕していたが。



 だって初めてだぞ!?


 前世でも作られなかったVASIMRをたった3ヶ月で作ったんだぞ!?


 おかしいよ!? ここの人達!!



 ……一応褒め言葉である。



「……ん?」



 噴射を続けるVASIMRの映像を見ていると、違和感を感じた。


 ……何かが違う。


 ロケットエンジンの燃焼と比較してみると何かが違うのだ。


 なんだ?


 何が違う?



「……あっ!? ショックコーンができていない!?」



 映像に映るプラズマ流にはロケットエンジンの燃焼では絶対できるショックコーンができていなかった。


 ショックコーンとは、燃焼ガスが加速した際にできる円錐状の衝撃波だ。


 あれができるということは燃焼ガスが超音速を迎えたことを意味するが、VASIMRの映像には映っていない。



「ということはこのプラズマは音速を超えていないってことですわね」


「えっ? じゃあ、このままでは宇宙に行けないってことですか?」


「どうだろう? 一応目標値の推力は出せてるみたいだけど」



 これ、燃焼ガスじゃなくてプラズマなんだよなぁ。


 プラズマを噴射させたらこうなるのが正解なんだろうか?


 ……わからん。



「ただプラズマが燃焼ガスと同じ動きをするとは限らないから、これが正解なのかもしれないし、もしかしたらもっと早く噴射させることができるかもしれない……これに関しては要研究かな」


「そうですね。頑張ります!!」


「気負い過ぎて倒れないでくださいましね」



 エレアがふんすと気合を入れているとユリアがそう言って心配していた。



 あとはこれを使った新型宇宙船だけど……どんなデザインにしようかな?


 なんかこう……SF作品に出てくる惑星間航行用の宇宙船みたいなトラス構造のものもカッコよくていいけど、できればもっとスマートなものにしたい。


 例えば、アニメの宇宙戦艦……みたいな?


 戦う気なんてさらさらないけど。

次話は14時頃アップ予定。

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