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episode73 二人とデート

8/26追記:後書きにお知らせを記載しました。

 


 核融合炉が完成して半年。


 未だに推進システムは出来ていなかった。


 色々と作れそうなものはあるがどれもピンとこない。



 核融合の爆発エネルギーを一方向へ送る核パルスエンジン。


 核融合炉内に水素を入れ、その高熱を利用して推進剤である水素を加熱膨張させてそれをノズルから噴射させて進む熱核ロケット推進。



 他にもあったはずだが、忘れてしまった。


 核融合は起こすことができたんだから、あとは生み出されたプラズマをどうやって噴射させるかだ。


 仮に炉内から直接ノズルへ送る機構を作ったとしよう。


 確かにその方法は部品数も減って簡単かもしれないが、問題がある。


 ブランケットに魔力障壁を使用しているし、高温のプラズマを噴射するんだからノズルと燃焼室部分にも魔力障壁を張って膨大な熱からノズルや燃焼室を守る必要がある。


 それをした場合、ノズル、燃焼室、炉が外界に繋がる形になるから高度80km地点で魔法が切れてしまう。


 そうなったらR-7の二の舞になってしまうのだ。



 だから、作るとすれば炉で出来たプラズマを別の場所に移して、それを噴射する機構が必要になる。


 だが、それだと高温のプラズマを閉じ込めるのだから、やはりプラズマに対応できる素材が必要になる。


 でもそんな素材はこの世界でもないと来た。



 ……上手くいかないもんだな。



「考え事ですか?」


「えっ? ああ、アイリスとクラリスか」



 社長室で考えていたが煮詰まってしまった為、外に出て空を見上げながら考えを巡らせていたら、アイリスとクラリスに話しかけられた。



「例の核融合炉のこと?」


「ああ。高温のプラズマをどうやって噴射しようかってところでつまずいてる」


「そっか、熱核反応を起こさせるには魔力障壁による熱防護が必須だしね」


「そうなると80kmから上に入ると途端に魔力障壁が無くなって大惨事になりますね」


「そうなんだよ」



 さすがアイリスとクラリス。


 即座に何が難しいのか理解したようだった。



「ん〜……ここまでくると私の頭じゃよくわからなくなってくるわ。姉様は?」


「最近、魔力研究にばっかり傾倒してしまっていて、魔法関係はちょっと……」



 クラリスはパイロットとしての技量を、アイリスは魔力研究を活かした魔法薬(ポーション)精製に注力しているから、レイディアントガーデンの中で魔法への造詣が深いのはユリアだ。


 俺はどちらかといえば科学的な見方に偏ってしまいがちになってしまうから、今回のように魔法の力を使って核融合炉を作ろうなんて考えたこともなかった。


 最初こそは魔法で簡単に宇宙へ! なんて思っていたが、80kmの壁がその考え方をぶっ壊してくれた。


 お陰で今では、魔法の力で燃料代とメンテナンス代が浮いたぜ! ひゃっはー! くらいにしか思っていなかった。


 ……ユリアがいなけりゃ、本気でアポロ宇宙船を作っていたかもしれない。



「じゃあさ、煮詰まってるんなら何処か出かけない?」


「……えっ?」



 クラリスが突然、そんなことを言ってきた。



「凝り固まっている時に色々考えてもいいものなんて生まれませんよ。時には息抜きをしないと」


「アイリスまで……」



 だが、アイリスの言い分も一理ある。



「……それもいいかもな」


「じゃ、じゃあ! 明日! 明日出かけようよ!! 街で色々見ていけば、何か思いつくかもしれないし!」


「そうです! きっといい気分転換になりますよ!!」



 俺が同意すると二人のテンションが爆上がった。


 ……二人から告白されて、未だに返答もできていない俺に、愛想を尽かさずにこうして色々気にかけてくれている。



 ……自分が不甲斐なくて仕方がない。



「……ごめんな」


「な、何よ急に」


「レオンさん?」



 俺の突然の謝罪には二人はキョトンとしていた。










 ◆










 さて、この世界での買い物というのは前世での買い物とは少し血色が違う。


 女性とのお出かけ……デートで行く所といえば、ショッピングだろう。


 しかも衣服やアクセサリーなどのファッション系を見て回ることが多いのではなかろうか。


 しかし、この世界では衣服は各家庭で拵えるのが普通である為、完成した衣服を販売している店というのは多くない。


 あったとしても着ることがなくなった衣服を売る中古屋くらいである。


 しかもラインナップとしては子供服ばかりで、大人用のものも一応あるが、部屋着くらいにしか使えないものが多い。



 貴族は仕立て屋を抱えていて、衣服を特別に仕立てて貰ったりしていることが多く、レイディアントガーデンの制服も同じように仕立て屋を雇い、生産して貰っている。


 特に宇宙服……船外活動服に関しては多大な貢献をしてもらっていて頭が上がらない。



 閑話休題。



 ようは何が言いたいかというと、この世界でのデートでは何をすればいいのか俺にはさっぱりわからないのだ。



 ……いや、出かけたことがないわけではないんだ。


 今まではアイリスやクラリス、クリスやユリアについて行っただけで、自分でお出かけプランを組んだことがないだけで。


 ……それが致命的なんだけども。



「ごめんレオン、待たせちゃったわね」


「お待たせしました」



 レイディアントガーデン正門前で待つ俺の元にクラリスとアイリスがやってきた。


 ブラウスにプリーツのスカートとシンプルだが可愛らしい私服で、アイリスが青色系でクラリスは明るめの緑を主色としている。


 何だっけ? こういうのを双子コーデというのだったか。


 双子がやるとマジモンの双子コーデだな。



「俺が早く来すぎただけだから大丈夫だよ」


「あんた……そこは待ってないよっていう所じゃないの?」


「今更そんなことをいう間柄じゃあるまいに」



 ジトッとした目でクラリスがこちらを睨むがしれっとそれを躱した。



「それじゃあ、行こうか」


「はいっ!」


「ええっ!」



 元気な返事を貰って、俺達は街へと繰り出した。


 レイディアントガーデンから徒歩で街へと行ける為、車を出す必要はなく、寮に住む従業員が遊びに行く際は殆どが徒歩だ。



 で、俺が街に繰り出すことは実はそんなに多くない。


 何故なら――



「領主様!? お、お越しくださって光栄です!! ささっ! こちらへ!!」



 飲食店に入れば特等席へと案内され――



「レオン様、こちらは如何でしょうか? 職人が丹精込めて染め上げたシルクでございます」



 服飾店に行けば、高そうな布を見せつけられ――



「レオン様ー!!」


「領主様ー!!」



 街を歩けばパレードでもしてんのかってくらい叫ばれる。


 こんな感じだからあまり街に出かけたくないのだ。


 どちらかというと顔の割れていない外国に行った方が気が楽である。


 それに加えて――



「アイリス様! 本日も美しゅうございます!」


「ありがとう」


「クラリス様ー! かわいいー!!」


「ありがとうー!!」



 今日はアイリスとクラリスもいる。


 現役宇宙飛行士で侯爵令嬢のアイリスとクラリスもとんでもない人気だ。



 それがある程度収まった所で、疲れがどっと押し寄せてきた。



「……疲れる。お前らいつもこんな感じで街に出てんの?」


「ええ、大体こんな感じ」


「でも、今日は大人しい部類ですよ?」


「これで?」



 そうか、お前らはいつもこれ以上に騒がれているのか。


 すげぇな宇宙飛行士。



「姉様と二人で出かけるとすごいわよね」


「ええ、いつも揉みくちゃにされてしまって」


「……侯爵令嬢に対しての態度じゃないな」



 この街には不敬という概念はないのか?


 ……あぁ、俺が階級差別を取り除いたからか。


 徒歩圏内で行けるこの街にはレイディアントガーデン関係の企業で働く人々やその家族らが住んでいる。


 貴族が多いうちとやり取りする中で、忖度されてしまったら、もしかしたらより良いものが作れたはずなのに、貴族相手だからと口を挟めずに「はい喜んで!」と勤しまれては元も子もない。


 従って、最初の頃に貴族意識を撤廃させたんだ。



 じゃあなんで少しむかついたんだろうか?


 ……ああ、そういうことか。



「その時、アイリスもクラリスも、何もされていないんだな? 例えば、胸や髪を触られたとか」


「えっ? ないですよ? 皆さん周りに集まるだけで、特に触れ合うほどには近づきませんし」


「私も。って言うか、そんなことされたら憲兵に突き出すわよ!!」



 クラリスは拳を突き出してそう言った。



「何々? レオンったら私たちのこと心配してくれたの?」



 ニヤニヤとこちらを覗き込むように見るクラリスに俺はすかさず答えた。



「ああ、当たり前だ」


「ふぇ?」



 クラリスが間の抜けた声を漏らす。



「お前ら、自分の魅力を自覚しろ。何かあってからじゃ遅いんだから」


「えと……うん。わかった」


「はい……」



 二人の頭をポンと撫でると、二人とも頬を赤らめて俯いてしまった。



 ……くっそ! こんな可愛い子達がダブル告白してきたとか本当にあったのか!?


 あれは夢だったのではと思うくらいだ!!



 今ならば言える。


 ギャルゲーの主人公はすごい。


 あんだけ好意をぶつけられたら普通ドギマギするもんだが、あの主人公達は何も動じていない。


 ましてやハーレム物の主人公なんかどうやって全員を愛せているんだ!?


 倫理はどうあれ、付き合っている全ての女性を満足させているのだから陰で並外れた努力をしているに違いない。



 ……尊敬しかないわ。



 告白からこんだけ待たせたら普通愛想を尽かす所を今もこうやって接してくれている。


 なんなら今まで以上にスキンシップが激しい時だってある。



 何か少しでも返すことはできないものか……



「ん?」



 目に止まったのは小さな店。


 ショーウィンドウに並んでいたのは――



「宝石……ここ、アクセサリーショップか」



 このエクセル世界でも、宝石は沢山ある。


 ダイヤモンドからルビー、サファイア、エメラルドといった高級品からローズクォーツやトルコ石などの前世でも手軽に手に入る宝石もある。


 しかし、エクセルでもそれらは普通に高級品。


 宝石のカット技術が発達していない今世ではタンブリングのものも高額で、さらに楕円形に切られるカボションカットや四角く切り取られるスクエアカットなどのシンプルな形でも加工されたものは貴族達にかなりの値段で取引がされるほどだ。



「入ってみるか?」


「は、はいっ!」


「喜んで!!」



 ……アイリスとクラリスのテンションがおかしなことになっているが、俺達はその小さなアクセサリーショップの扉をくぐった。



「いらっしゃいませ!!」



 歳は15歳くらいだろうか?


 笑顔が眩しい女の子が店番をしていた。



「ちょっと見させて貰ってもいいかな?」


「どうぞどうぞ、ごゆっくりご観覧ください!」



 お言葉に甘えて、店内に並んでいる宝石達を見る。


 そこに並んでいるものはカボションカットやスクエアカットが多かったが、俺達はあるショーケースの所で足を止めた。



「うわぁ……」


「すごい……綺麗……」



 そのショーケースにはエメラルドとブルーサファイア、そしてダイヤモンドが飾られていた。


 それぞれ2カラットくらいか? 結構大きめだ。


 透明度、色の濃さも申し分なく、間違いなく最高級品のエメラルドとブルーサファイアがそこにあった。


 しかし、驚くべきはそのカット方法である。



 エメラルドカットにオーバルカットと、面を幾つも作って光を屈折させるカット方法がなされていた。



 しかも、ダイヤモンドに関しては……



「ラウンドブリリアントカット……いや、これはアイディアルラウンドブリリアントカットか!」



 ショーケースに並んでいたダイヤモンドは、前世でよく見るダイヤモンドの形に形成されていた。


 ラウンドブリリアントカットは57面体又は58面体からなる、入り込んだ光が宝石内部で複雑に反射して輝きを増すカット方法だ。


 それをさらに発展させ、屈折率を上げたのがアイディアルラウンドブリリアントカットである。



「えっと……アイ?」


「あっ、これは失敬」



 店番の女の子を困らせてしまった。



「これはすごい。このカット方法はあなたが?」


「いえいえ! これはお兄……兄が考えて作ったんです。この方が絶対綺麗に光るって言って」


「これを初見で!?」



 とんでもねぇな!!


 その人もしかして転生者!?


 ……いや、決めつけるのは良くないな。



「すみません、その職人さんを呼んでもらうことはできますか?」


「あっ、はい。少々お待ちください」



 女の子が奥に行くと、アイリスが俺の服の袖をクイっと引っ張ってきた。



「何か思うところがあったんですか? レオンさん、ここまで宝石に興味を持っていませんでしたよね?」


「ああ、確かに俺は宝石にそんな興味を持っていないよ。ただな……」



 俺はケースの中にあるダイヤモンドを見つめる。



「これは勘とかでは作れない」


「えっ?」


「それってどういう?」



 アイリスとクラリスが首を傾げていると、奥から皮のエプロンを付けた青年が、店番の女の子に連れられてやってきた。



「あ、あの……何かございましたでしょうか?」



 気に障ったことをしてしまったのかと不安を抱いているのだろうか?


 少しオドオドとしている。



「いえ、このダイヤモンドのカット方法をどうやって編み出したのかなと思いまして」


「あ、あぁ!! そうでしたか!! てっきり何か怒られるようなことをしてしまったかと……」


「もうお兄ちゃん怖がりすぎだよ!」



 さっきまでの気弱そうな雰囲気から一転して、ハキハキとカット方法について語ってくれるかと思いきや、そうはならなかった。



「実はこれ……勘で切ったんです」


「……へっ?」



 俺はそれを聞いて間の抜けた声を出してしまった。



「えっと……このエメラルドも?」


「はい。勘です」


「……このサファイアも?」


「ええ」



 俺は開いた口が塞がらなかった。


 何故ならアイディアルラウンドブリリアントカットを編み出したのは数学者だからだ。


 前世ではそれをテレビ番組なんかで見て、興味を持ったような記憶がある。


 計算に基づいたカット方法を、ただの勘でやってのけてしまうとは……



「な、何故このカット方法が最適だと思われたんですか?」


「えぇ……説明は難しいですね。ただ、このダイヤモンドの原石を見た時、このカットが一番似合うと思ったんです」



 この人天才肌だ!?


 やべぇよ……本物の天才に出会っちまったよ。



「そ、そうですか。いや、貴重な時間を頂きありがとうございました」


「あぁ、いえいえ。このような回答しか出来ずで申し訳ございません」



 う〜ん、数学者なら何か推進システムに関してヒントをくれるかなとか思ったんだけど、まさかの天才だったか。


 これは勘とかでは作れない(キリッ


 なんて言ったのが恥ずかしい。


 ……あっ、そうだ。



「すみません、このサファイアとエメラルド。売り物でしょうか?」


「あっ、はい! 販売しておりますよ!」


「では、ネックレス台座にはめて売ってくれませんか?」



 俺がそういうと、女の子は驚いた表情で問いかけてきた。



「えっと……二つ合わせると20万イースはしますが……」


「ええ、構いませんよ」



 まぁ、これくらい最高級品で、手間のかかるカットを施しているんだからそれくらいが普通だろう。



「しょ、少々お待ちくださいませ!! ほら! お兄ちゃん!!」


「……えっ!? わ、わかった! すぐにはめてきますね!!」



 若干呆けていた青年はショーケースからサファイアとエメラルドを取り出し、奥へと入っていった。


 それを見届けると、少し不機嫌そうにアイリスとクラリスが話しかけてきた。



「あれ、購入してどうするつもりですか?」


「誰かに送る予定でもあるのかしら?」



 なんでそんなに不機嫌になるのかわからんが、送る予定ならある。



「ああ、お前らにあげようと思って」


「「……えっ!?」」



 二人は意外だったのか、驚いた表情でこっちを見ていた。



「お誂え向きにお前ら二人の好きな色の宝石があるんだ。あげない選択肢はなかったよ」



 俺がそういうと、女の子がお盆を手に近づいてきたがやってきた。


 お盆の上に小さなクッションが二つ並んでおり、その上にはネックレスに加工されたサファイアとエメラルドが鎮座していた。



「こちらでよろしいでしょうか?」


「はい。では、プレゼント用に包装して――」


「あ、あの!」



 俺が包装してもらおうとすると、アイリスが遮ってきた。



「そ、その……ここで着けていくので、大丈夫です! なので……レオンさん、着けてくれませんか?」


「あっ! ズルい!! レオン、私も!!」



 顔を真っ赤にしながらお願いしてきたアイリスに対抗するようにクラリスも手を上げた。



「わ、わかった」



 ちょっと圧に押されてしまい了承すると、まずはサファイアのネックレスを手に取り、アイリスの首に着ける。


 続いて、エメラルドのネックレスもクラリスの首に着けた。



 二人とも、宝石を少し眺めた後、両手で包み込むように握った。



「大切にしますね!!」


「大切にするね!!」


「ああ。喜んでくれて何よりだよ」



 ほぼ同時に感謝の言葉が述べられ、返事をしたが、高級品を付けて外に出て大丈夫なのだろうかと思いながら、店を後にした。











 ◆










「……ねぇ、もう行った?」


「……行った」


「はぁぁぁぁぁ……20万イースをポンと出すお客さんなんて初めてだよ!!」


「だな……いるんだな。お金持ちって」


「しかもあのお嬢様方も宝石に慣れてる感じだったし……やっぱり類は友を呼ぶんだね」


「そだな……もう今日は終わりにしようぜ。疲れた」


「そうしよっか」

8/26追記:ブックマークが100を突破致しました! これを記念して溜まりに溜まっている話のストックを大解放致します!!

期間は8/29〜9/2 1日3話を投稿したいと思っております。

時間はランダムで手動投稿しようと思いますので、よろしくお願いします!!

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